君についていこう/向井万起男著(講談社)
副題「女房は宇宙をめざした」。要するに宇宙飛行士として著名な向井千秋さんの旦那さんの手記である。千秋さんはドクターで、万起男さんも医者仲間。それで知り合って、そのうち付き合うようになって、そうしたら千秋さんが宇宙飛行士に応募して、NASAで働くようになっていくのだった。その旅立ちまでのプロセスが詳細に記録されているのが主だが、しかしながらこの万起男さんの視点がなかなか面白く、アメリカ文化比較としても、けっこう読み応えのある内容になっている。後に数々の著書を著すようになることからも分かるように、非常に文才があるだけでなく、構成もいいし文章のユーモアもたっぷりである。宇宙飛行士って大変だろうな、と漠然と思っていたけど、こりゃまた非常に大変だ。しかし、この困難さに対して、アメリカ社会がいかに前向きに取り組んでいるのかという事が、本当によく分かる。個人も大変だけどまわりのサポートもなかなか凄い。いわゆる日本人の献身的な概念とはまったく別の大らかなスケールのデカさがある。そうしてやはり、これがアメリカという国なんだなという事がよく分かるはずだ。宇宙飛行士になるんだったら、やっぱりアメリカでなった方がいいかもしれない。日本も宇宙開発進めて欲しいけど、リスクをもって人を飛ばすんなら、やっぱりアメリカ社会の方がいいかもしれない。そんなことまで考えさせられる内容なのではなかろうか。
万起男さんは、宇宙飛行士の旦那さんだから、NASAからいろいろと恩恵を受けられる。特に肉親としてパートナーの立場は尊重されていて(婚姻しているとかは関係ないらしい。向井さんたちは夫婦だが)、千秋さんのご両親よりも優遇されている感じなのだ。日本人としては戸惑う対応でもあるのだが、万起男さんは米国に仕事を移して(そんなことできる人というのも凄いが)その特権を活かして、千秋さんのサポートついでに、大いにNASAの状況を詳しく教えてくれるわけだ。ご本人も凝り性のところがあるようで、NASAのことにも十分詳しい。そういう人が自分なりの小さい疑問や発見もしながら事細かに宇宙に飛び立つ前の状況を教えてくれるのだ。これは宇宙を目指す人がいたら、ものすごく役に立つ本なのではないだろうか。もちろん興味本位だけの人であってもぜんぜんかまわないのだけれど。
今はスペースシャトルは無くなってしまったけど、宇宙を巡る状況はずいぶん変わったように見える。人が宇宙に行く意味というものがずいぶん変わったのかもしれない。そういうことも含めて、まだまだ読まれていい本じゃないかと思った。