メグレと若い女の死/パトリス・ルコント監督
若い女の刺殺体が通報により発見される。女の身元は分からないが、着ている高価なドレスの割に、靴など粗末なもので釣り合っていない。徐々に分かっていくが、田舎から出てきたが、都会では成功することもできなかった、ありふれた女性だったようだ。彼女とかかわりのあった上流階級の男と、いざこざに巻き込まれ、失意の底にあったということか。
一方、捜査を進めるメグレは、被害に遭った若い女のような境遇にあるかもしれない田舎から出てきた万引き女と知り合う。メグレ夫婦は過去に娘を亡くしていることも示唆されている。生きていれば、おそらく年恰好も同じくらいなのかもしれない。そのような想いも錯綜して、事件の解決の糸口も、見え隠れしていくのだったが……。
いわゆる都会に憧れて田舎からのぼってきた若い女性の、ありふれた不幸の形を描き出した物語なのかもしれない。それはたいそう不憫な不幸であって、誰も安易に助け出すことができない。金が無いだけでなく、成功もなく、ひどい仕打ちを受け、見捨てられる。そのようなことが、都会ではいくらでも積み上がっていくような仕組みになっている。事件そのものは、奇異なものになってはいるものの、実際には、そのようなありふれた不幸の終結だったのかもしれない。亡くなった後も、しばらくは誰かもわからなかったように、誰も関心さえ抱かない。メグレはそのような悲しさについて、多くを語らずとも、向き合っているということなのだろう。仕事で犯人を追わなくてはならないが、それが本当の目的なのかもよく分からない。それはむしろ、自分の娘に対する懺悔のようなものを含んでいるかのようだ。
実際に映画として、何か盛り上がりに欠けるようなものがあるが、そもそもそのような推理映画の枠で、作られているものでは無いようだ。暗い影が残りながら、あでやかさへの憧れが残っている女たちの姿が、何度も形を変えて描き出されていく。監督さんは、本当に女好きなんだなあ、という感じかもしれない。そういう意味では極めてフランス映画的な作品なのかもしれない。あの国はスケベであることに、本当に素直すぎる。でもまあ、僕が男だからそんなことを思うのかもしれないが……。