カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

壊れそうな繊細なバランス感覚   きらきらひかる

2024-08-27 | 読書

きらきらひかる/江國香織著(新潮文庫)

 なんでこの本を僕が持っていたかは謎だが、手に取って読んでみると主人公の一人の名前が「睦月」だった。僕の愛犬の名前と一緒だ。もっとも睦月ちゃんはメスで、この本の睦月さんは男性でホモである。睦月は医者で、妻の笑子は精神不安定でアル中のようだ。紺という大学生の恋人もいる。
 元々二人は、そもそも結婚なんてする気は無かったのだが、親から言われて見合いをして、その時にそういうことを正直に言い合ってみて、それならというので結婚してしまった。しかしながら、両親からは(睦月の親は睦月のことは知っているのだが)、子供を作って欲しいという圧力がある。笑子は当然そのことでかなり不安定に陥ることになるが、何しろ夫は同性愛者だからどうにもならない。人工授精という方法も模索するのだったが……。
 精神の不安定さで奇矯な行動を繰り返す笑子に対して、睦月は辛抱強く献身的にふるまう。そもそも睦月は、本当にそんなことのできるやさしさのある人間なのである。笑子は女性なので、いわゆる性的な相手はできないのだが、夫としては、出来すぎているほどの理解を示している。しかし、その優しささえも、かえって笑子を傷つけてしまうこともある。笑子は、どうにもならないことを知りながらも、睦月のことが好きでたまらないのだ。そうして、この奇妙なバランスを保っている紺も含めての三角関係のある夫婦生活があるからこそ、なんとか持ちこたえながら、生きている、ということなのだろうか。
 読みながらその危ういバランス感覚に、なんだかくらくらする思いがする。恋愛小説らしいのだが、笑子の病気のことが気になって、こちらも情緒が不安定になる感じだ。心配なのだが、僕ならとても耐えられそうにない。それにこういうのは、支えるからどうにかなるものでもないような気もする。しかし壊れてしまうと、それはそれでもっと大変なことにはなってしまうだろう。こういう生き方しかできないというのは、それだけでつらすぎて気分がもたない感じなのだ。当人たちには楽しい時間もあるようなのだが……。
 いわゆる感性が繊細な人たちの、やり取りを感じ取る小説なのだろうと思う。なかなかに奇妙な会話が繰り広げられるが、それがちゃんとかみ合っているのかも疑わしいのだが、それぞれの立場で(主に笑子と睦月だが)相手を見て、そうして考えてはいる。そういうところは悲痛さもさることながら、コメディ的でもある。その場に居れば笑えないのは間違いないが、読んでいると笑えるのである。やっぱり変なのである。本人たちは、そういう事が分かってもらえないことも、確信して分かっている。そこが、客観的には可笑しいのであろう。まあ、切実ではあるんだけれど……。
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