孤独のグルメ2/久住昌之原作・谷口ジロー作画(扶桑社)
第二弾が18年ぶりに登場ということらしい。前作とまったく違う訳ではないが、基本的に腹が減ったからメシ屋に入って注文して食べるというレポートに徹している。いや、そうなんだが、グルメレポートということとは少し違って、腹を満たす主人公の五郎が、飯を食ってしあわせになる姿を眺めて楽しむという漫画である。僕は東京に住んでいる訳ではないし、紹介されている店が東京のみということでもないが、この漫画の店を食べ歩くような興味で読むわけではない。東京にしかないような店もあるんだろうが、どんな地方都市であっても、恐らく似たような店はあるのかもしれない。そういうあんまり行列もできるような店ではないにせよ、一人飯を食うのに、あたりの店というのがあるようなのだ。もちろん五郎の感覚ということになろうが、そのような店を見て、共感を覚えるし、羨望の感情も湧く。教えられることもあるし、単に呆れて笑ってしまうこともある。五郎は下戸らしいが、それなりに偏見も強く、さらにちょっと食べ過ぎるようである。彼なりに気に入ったものを食うのはいいが、時にはやはり少し無理のある食い合わせをやっているようにも見える。それでいいという漫画ではあるが、既にそこからファンタジーであるという気もしないではない。
個人的には一人飯はあんまり得意ではない。僕は下戸ではないから、居酒屋に入るのはそんなに抵抗は無い。最初は多少居心地は悪くても、ちょっと酒が入るとそういうものは気にならなくなる。だから五郎のように、酒を飲んでいる人がいると面倒な感じになって嫌になるということは無く、逆に少し安心したりする。もっともあんまりうるさいのもなんだが、静かすぎるというのも居心地は悪い。マスターが頻繁に話しかけてきたり、地元過ぎて仲間内が妙に緊張感を漂わせているようなところは困るにせよ、誰も酒を飲まないような店に、最初から入るわけが無い。しかしながら孤独のグルメの舞台はほとんど昼飯で、酒が無くてもいいわけなんだが、その守備範囲がそれなりに広くて、不思議な店に入り込みすぎる感じもする。昼飯の、本当にランチという感じで入っているにせよ、恐らくだが、ほとんど千円の範囲で飯を食っているように見えない。せっかく千円で足りそうな時ですら、変にジュースのようなものを飲んでみたりして、結構散財している。サイドメニューを注文するのもいいけれど、店の人に詳しく聞くという態度でもない。出てきてから失敗したかなとか、おおこれはいいとか、心の中の言葉で楽しんでいる。鉄の胃袋があるから楽しめる冒険で、そういうところは少し羨ましいところもあるかもしれない。
しかしながら、実のところ出張や一人旅のような場合において、五郎のようにチェーン店でなく、個人営業のあたりの店に入るような幸運はそうそうないようにも思う。あるところにはあるはずでありながら、しかしながらそれでもやはりかなりの幸運のようにも見える。それだけでもかなりの運の持ち主で、さらにちゃんとそんなに気取ったグルメでもなくて確かな舌を持っている人間というのはそれなりに希少だろう。だからこそこのシリーズは愛され、聞くところによると海外でもファンのいるような人気作品になりえている。多少の不思議はあるものの、妙な魅力は健在であることが確認された新刊であった。