エディ(ヴァン・ヘイレン)が亡くなったことは残念ではあるが、ああ、そうだったのか、とは思った。年齢も65ということで、まだ早いとはいえるものの、偏見もあるのか、ロックスターはあんまり長生きしない印象もあって、いわゆる普通である。亡くなってしまったことは残念と思うものの、やはりそれなりに距離感があるのかもしれない。また、近年のというか、比較的近年はそこまで興味がなかったかもしれない。
でもまあ当然ながら中学生だったか(小学生だったかもしれない)、キンクスのカバー曲である「ユー・リアリー・ガット・ミー」を聞いた時には、かなりびっくりした。なんじゃこりゃ、って感じだった。もうそのショックで、ライトハンド奏法というらしいと聞きつけて、けっこうまねした。もちろんなんとなくそれらしくはできるものの、実際の曲の中でやるのは大変だったし、中途半端にやると、かえってカッコ悪いのだった。でも当然これが上手い奴もいるもんで、そういうのを見ると負けたと思って嫉妬して、もうやらなくなった。
でも当時はとにかくヒット曲が多くて、またカバー曲である「プリティー・ウーマン」の時も、かなり多く人がコピーする対象になった。いや、正直言って他の曲は難しすぎて、一応古典的な曲で一部がエディっぽかったらよかったのだ。
当時はカセットテープには階級的なものがあって、ちょっと高価なクローム・テープを買ってきて録音して聞いた。アルバムはファーストくらいしか持ってなかったが、他も欲しいが小遣いが足りない。それでせめて贅沢してクローム・テープで聞くような好きさ加減だったのだ。あんまりアメリカっぽいのは本当は好きじゃない部分もあったのだが、何しろエディの演奏が凄い。キロキロキロキロ、ギュイーン、ボーン、ガーンンとか。ブブブブブルブルブルウーーウーンとか鳴ってて、いったいどうなっているか混乱した。でもとにかくカッコイイのだった。
そうして一般的な層には「ジャンプ」で大ブレークする。僕等ロック好きやギター少年に限らず認知度が上がって、凄いことになった。学校の運動会なんかでもバックにかかるようになっていた。とにかく大ヒットだ。
でも正直に言って、僕らギター少年の多くは、これでエディがギターを弾く場面が少し減って、失望したのだった。確かに印象的だし、それなりに簡単だし、正直言っていい曲だとは思うが、エディはギターを弾きまくらなければならない。それもなんだかいとも簡単に超絶的なアクロバット奏法をやるからいいのだ。はっきり言ってこれほどうまくて速い人はプロでもそんなにいない。絶対いないわけではないが、ものすごく速く弾いていても、ちゃんとこれはエディだな、と分かるし凄いからいいのだ。初めてラジオから流れてくる曲でも、おお、来たなって感じなのだ。
でもジャンプの入っているアルバムでは、「ホット・フォー・ティーチャー」っていう偉大な曲が入っていた。これはまた、ギター少年たちは熱狂した。もうほんとに凄い。ちょっとジャンルは違うけど、後にアメリカから出てくるグランジなんかにも絶対影響があるんじゃないかと僕は思うのだが、勝手な勘違いかもしれない。でも、ドラムもギターもものすごく速くてかっこいい。エアギターやって口真似で弾いている音を出しても、実際の音にはぜんぜん追いつかない感じがする。やっぱりギター弾かなくちゃって思うけど、いったいどうなってるんだか分からないのだ。歌詞はただのバカっぽいものだが、そういうのも含めてアメリカ人って凄いな、って思ってしまう。こんなにバカで凄いことは、ちょっと普通の人ではできない。そもそも普通ではありえないわけだが……。
ということで、やっぱり残念だよね。ああいうスタイルはいつのまにか流行らなくなったけど、あの時代だからこそ、ものすごく輝いていたのは間違いない。それにしても、絶対にそれなりに練習してたはずだよな。あんまり努力の人って感じはしないけど、そういうのが透けて見えないからこそ、その凄さが際立っていたのかもしれない。ともかくエディが亡くなったことで、またヴァン・ヘイレンの曲が売れまくっているらしい。関係者や家族にとっては、少なからぬ置きみやげになっていることだろう。合掌。