ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

頻発する車両テロとISILの暗躍

2017-08-21 08:56:16 | 国際関係
 8月17日スペイン北東部バルセロナの観光客でにぎわう通りに、ワゴン車が群衆に突っ込み、少なくとも14人が死亡し、約100人が負傷した。翌日バルセロナ南西のカンブリスでも、車が通行人に突っ込み、1人が死亡し、警官は容疑者5人を射殺した。両事件はテロ事件として関連すると見られる。
 イスラーム教スンニ派過激組織「イスラーム国」(ISIL)傘下の通信社は、「実行者はISILの戦士だ」と伝え、事実上の犯行声明を出した。事件が、ISILと直接つながりがあるのか、単に呼びかけに触発されて行われたのかは不明である。
 今回のテロ事件は、7月10日にイラク北部モスルにおけるISIL掃討作戦の終了宣言が出て以降、欧州で初めて起きた大規模な組織的テロとなった。
 7月10日、イラクのアバディ首相は、モスルを奪還する戦闘に勝利したと公式に宣言した。モスルはISILが2014年夏に占拠し、指導者のバグダーディ容疑者が自らを「カリフ」だと宣言した場所である。イラク軍などは昨年10月に奪還作戦に着手し、約9か月の激戦の末に制圧に成功した。イラク軍及び米国等の有志連合にとって大きな成果となった。
 モスルは、約9カ月に及ぶ戦闘で数千人の住民が命を失い、旧市街が廃虚と化す壊滅的な被害を受けた。モスル攻防戦は、「第2次世界大戦以降で最も激しい市街戦」(米軍主導の有志連合の司令官ら)といわれる。ISILは、北部の都市タルアファルや西部アンバール県などにも支配地域を有しており、イラクにおける戦闘は続く見通しである。 
 モスル攻防戦が終結に向かいつつあった時期に、ISILの組織の弱体化を示すデータが発表された。英情報調査会社IHSマークイットによるもので、同社の調査結果によると、6月下旬の時点で、ISILは2015年に比べて6割の支配地域を失い、8割の収入を失った。イラクとシリアにおけるISの支配地域は、15年1月の9万800平方キロから、今年6月下旬には3万6200平方キロまで減った。また、15年には毎月平均で8100万ドルあったISの収入は、今年は1600万ドルまで減った。原油を産出するシリア北部ラッカや中部ホムスを失ったことで、石油売買による収入が88%減少したほか、人口密集地のモスルの支配力を失ったため、「税金」や略奪による収入も79%減ったという。
 最終的にモスルを失ったことで、ISILは相当のダメージを受けているに違いない。最高指導者のバグダーディは、シリア北部ラッカの南郊で空爆作戦により殺害された可能性があるとロシアは発表している。ISILの幹部も多数死亡し、指揮命令系統は寸断されていると見らえる。
 ISIL掃討作戦の焦点は、ISILが「首都」だと一方的に宣言したシリア北部ラッカの奪還に移った。ラッカでは、アラブ人と同国の少数民族クルド人からなるシリア民主軍(SDF)が米軍などの支援を受け、市街地に進入して着実に攻略を進めていると伝えらえる。
 ただし、ISILとの戦いは、仮に一定地域を支配する「面」の戦略を封じ得たとしても、ピンポイントのテロという「点」の戦術を封じ込めることはできない。インターネットを駆使して、各地の若者たちをジハード(聖戦)へ勧誘するISILのメッセージは、それを受けた者の間に浸透を続ける。ISILをモスル・ラッカ等の拠点で掃討しても、それに対する反感から新たなテロが決行される懸念は排除できない。
 8月17日のバルセロナでのテロ事件が、そうした展開の中で起こされた可能性がある。欧州では昨年7月に仏南部ニースでトラックの突進テロが起った。それ以降、車両を凶器とする犯行が頻発している。昨年12月にベルリン、今年3月と6月にはロンドンで同様の事件が起きた。今回はバルセロナである。ISILは、車両突入テロを同調者に煽動している。この方法は、車の準備が簡単にでき、繁華街など警備が手薄な「ソフトターゲット」を襲うことで、多くの人々を殺傷し得る。各国当局にとっては、準備段階での把握は難しく、繁華街などでは警備に限界がある。
 今回はバルセロナで起こった。たまたまその地で起こったということで、欧米のどこの主要都市で起こっても不思議ではない。
 日本にとっても、対岸の火事ではなくなっている。ISILはシリアやイラクでは劣勢に立たされているが、東南アジアでは勢力拡大が顕著であり、日本への影響が懸念される状況になっている。
 フィリピンでは、5月下旬にISILに忠誠を誓う「マウテグループ」を軸とする武装組織がミンダナオ島のマラウイを占拠した。シリアやイラク以外での都市の制圧は、初めてである。武装勢力側には、中東出身者が参加している。またインドネシアやマレーシアから多数の戦闘員が流入しているとされる。8月7日米NBCテレビは、国防総省がミンダナオ島を拠点とするISIL系武装勢力に対する空爆を検討していると報じた。空爆が実行されれば、トランプ政権は、東南アジアでもISILを相手とするテロとの戦いの関与を拡大させることになる。
 フィリピンに限らず、東南アジアでテロ対策は「地域最大の課題」(シンガポールのウン・エンヘン国防相)となっている。東南アジア各国は多数のイスラーム教徒を抱え、特にインドネシアは世界最大のイスラーム国家で、人口約2億5000万人のうち約9割がイスラーム教徒である。このインドネシアでもテロが絶えない。首都ジャカルタでは、2016年1月にショッピングモールで爆発が発生し、4人が死亡した。ミンダナオ島の武装組織から武器が供給された形跡がある。同市では今年5月にもバスターミナル付近で爆発が起き、警察官3人が死亡した。東南アジアでテロネットワークが形成されていることがうかがえる。
 日本の公安関係者は、「東南アジアは距離的にも近く、日本ののど元近くまでISILが迫っている。対岸の火事ではない」と警戒し、情報収集に乗り出すと伝えられる。
 森友・加計・PKO日報問題等に関する左翼やマスメディアの政府批判は、北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の尖閣諸島周辺等の領海侵犯を、国民の目からそらすだけでなく、ISIL系の国際的なテロについても、国民の意識を妨げるものとなっている。根底にあるのは、日本の滅亡を願う自滅または破壊の衝動だろう。衝動の主体が日本人であれば、個人における自殺や自傷の心理に通じる集団の心理であり、それを誘引し煽動しているのは、外国勢力である。その心理と構造を踏まえて、対応する必要がある。

関連掲示
・拙稿「イスラームの宗教と文明~その過去・現在・将来」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12-2.htm

最新の画像もっと見る

コメントを投稿