ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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現代世界史12~カジノ資本主義の狂宴

2014-08-06 09:50:06 | 現代世界史
●カジノ資本主義の狂宴

 先に書いたように、1971年(昭和46年)のニクソン・ショックは、アメリカが金とドルの交換を停止したものだった。それによって、各国は次々に変動相場制に移行した。金ドル交換停止は、アメリカにとっては、いくらドルが海外に流出しても、金に交換する必要がなくなったことを意味する。依然として、ドルが基軸通貨であることは変わらない。それゆえ、アメリカはいくらでも貿易赤字を続けていられることになった。だからドルは一層、海外に流出した。外国製品をどんどん輸入しても、ドルを刷って支払えばよい。金の裏づけはいらない。そのため、アメリカ国民の浪費癖は、ますます自制が聞かなくなった。
 資本主義が変動為替相場制に移行したことによって、貨幣に新たな機能が生じた。貨幣自体が、一つの商品になったのである。自分が持っている通貨は、為替相場が上がれば、他国の通貨と交換するときに、差益が出る。逆に相場が下がれば、差損が出る。この仕組みを利用して、ある国の通貨を安い値段で買い、高い値段の時に売れば、為替差益を得ることが出来る。こうなると、貨幣は、通貨交換をすることで利潤を生む商品となるわけである。

 ある通貨が安くなったら大量に買い、高くなったところで売る。これだけで大儲けが出来る。逆に裏目に出たら大損をする。こうした為替差益を狙う通貨の売買は、一種のギャンブルと化す。
 世界の金融市場を結ぶコンピューターのネットワークが、このギャンブルを超高速で行うことを可能にした。金融市場は、あたかも巨大なカジノの賭博場のようになった。外国為替取引に関係するディーラーたちは、世界の金融市場を瞬時に結ぶコンピューターの画面を見ながら、マネー・ゲームに興じる。イギリスの経済学者スーザン・ストレンジは、こうした資本主義の姿を「カジノ資本主義」と名づけた。 世界市場は、カジノ資本主義の狂宴の場と化した。
 ここにおいて、近代資本主義は一つの完成を見た。近代資本主義は、産業資本の発達によって近代資本主義となった。マルクスは生産に重点を置き、資本における利潤の増大のメカニズムを解明しようとした。しかし、本稿で書いてきたように、資本の典型としての貨幣にもっと注目すべきである。貨幣は、資本主義の不可欠の要素である。資本主義は、貨幣経済が高度に発達したものである。資本は、自己増殖する価値の運動体である。その典型は、貨幣である。貨幣の貸借は、返済の義務を生じる。この関係は、自由な契約により、貸主と借主の間の自由意思の働きである。返済が賃借の金額と同額であれば、貨幣は増加しない。しかし、貸借の報酬として、利子を取るとき、貨幣は増殖する。この貨幣の自己増殖の運動は、資本主義の本質的な要素である。
 貨幣という典型的な資本なくして、資本主義は成立しない。そして、金ドル交換停止後に表われた貨幣そのものの商品化は、こうした資本主義の本質を全面的に実現したものだと私は思う。

●ヘッジファンドによる通貨暴落

 アジアは、1970年代から90年代にかけて急速な経済成長を続けた。しかし、欧米諸国は、黙ってその成長を許しはしなかった。アジア諸国は、欧米の金融資本に狙われ、1997年(平成9年)、アジア通貨危機が起こった。
 通貨危機に襲われる前、アジアのほとんどの国は、自国の通貨レートをドルに連動させるドル・ペッグ制という為替政策を取っていた。当時はドル安で為替相場は比較的安定していた。また、アジア各国は、外国資本の流入を促して資本を蓄積しつつ、輸出を拡大して経済成長を図るやり方を取っていた。
 しかし、1995年(平成7年)から、アメリカのクリントン大統領は、経常収支赤字を減らすため「強いドル」政策に転じた。ドルが高めに推移するようになると、これに連動してアジア各国の通貨の価値が上昇した。これは輸出には不利である。アジア諸国の輸出は伸び悩んだ。投資家は、今後、アジア諸国が経済成長を維持できるかどうか疑問を持つようになった。
 この状況に目をつけたのが、ヘッジファンドである。ヘッジファンドとは、大口投資家から資金を集め、金融派生商品(デリバティブ)の運用などを柱として世界中に投資する投機的な投資信託をいう。梃子のように原資の数十倍を運用することになるレバレッジを利用して、巨額の資金を動かし、年利30~40%もの収益を上げる。また、短期的に大量の資金を動かして、為替相場や株式相場を誘導し、巨額の利益を獲得する。それが、現代資本主義の怪物ヘッジファンドである。

 1990年代後半、ヘッジファンドの投資顧問業者は、アジア諸国の経済状況と、その国の通貨の評価に開きが出ており、通貨が過大評価されていると見た。そういう通貨に空売りを仕掛け、安くなったところで買い戻せば、差益が出る。ここで狙われたのが、タイの通貨バーツだった。
 97年(平成9年)7月、ヘッジファンドは、バーツに空売りを仕掛け、タイ政府が買い支える事を出来なくした。それによって、バーツは暴落した。タイ経済は壊滅的な打撃を受けた。通貨暴落の波は、マレーシアやインドネシア、韓国にまで波及する経済危機に発展した。このあおりを受けて、インドネシアでは、長期政権だったスハルト体制が崩壊した。
 各国は経済の建て直しのために、IMFに援助を求めた。この時、IMFは、通貨暴落で苦しむアジアの国々を外から経済的に管理する機関として働いた。IMFの管理下で、強力な経済改革が進められるとともに、外資がどっと参入し、その国の企業・資産を安く買い占めた。アジア諸国では、通貨危機とIMFの管理のため、「世界の成長センター」といわれるほどの経済成長にブレーキがかかることになった。
 戦後の国際通貨体制をブレトン・ウッズ体制というが、この体制は別名IMF=GATT体制ともいう。IMFは、1971年(昭和46年)のニクソン・ショック後も、国際通貨の安定を図るという機能を果たしている。一方、GATTは、暫定的な国際協定だったので、発効後、貿易と関税引き下げに関する国際交渉が何度も重ねられた。その結果、1994年(平成6年)に発展的に解消し、1995年(平成7年)に新設された「世界貿易機関(WTO)」に吸収された。それゆえ、現在の変形されたブレトン・ウッズ体制を、IMF=WTO体制と呼ぶこともできるだろう。

 アジア通貨危機以後、東アジアでは、欧米外資に対する警戒が高まった。アジア独自にASEAN+3(日本、中国、韓国)による地域経済協力が模索されるようになった。
 アジア通貨危機は、他の地域にも影響を及ぼした。ユーロ・ダラーは、アジア市場からアメリカ市場に回帰した。ロシアは、新興市場として不信感を招き、財政危機に陥った。同じく新興国のブラジルも、危機に陥った。
 アジア通貨危機を仕掛けたのは、ジョージ・ソロスだと言われる。ソロスは、ハンガリー生まれのユダヤ系アメリカ人であり、ヘッジファンドの代表的な運用者である。アジア通貨危機でヘッジファンドに襲われたマレーシアのマハティール首相は、ソロスがマレーシア通貨リンギットを下落させたとして、激しく非難した。
 私は本稿で先に次のように書いた。産業資本の発達による貨幣経済の拡大は、ユダヤ人の活躍の場を広げ、彼らに膨大な富をもたらした。それとともに、資本主義世界経済の発達によって、ユダヤ教の価値観が西欧のみならず、非西欧の文明にも浸透したところに、グローバル資本主義が出現したといえよう。ユダヤ人だけでなく、ユダヤ的な価値観を身に着けた諸国民が、地球規模の資本主義経済を推進しているのである、と。
 そうしたユダヤ的価値観の典型的な実践者が、ジョージ・ソロスといえよう。ソロスは、ユダヤ人である。しかし、ソロスと同じような投資家が、アメリカを中心に各国に多く出現している。そうした投資家はユダヤ人だから、情け容赦ない金儲けをするのではない。ユダヤ的な価値観を体得した投資家として経済活動をしているのである。

 次回に続く。

■追記

 上記の掲示文を含む拙稿の全体を次のページに掲載しています。
 「現代の眺望と人類の課題」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09f.htm

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