ほそかわ・かずひこの BLOG

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キリスト教172~ラテン・アメリカの宗教事情

2019-03-13 09:46:32 | 心と宗教
●ラテン・アメリカの宗教事情

 中南米において、スペイン侵攻以前の時代を、先コロンブス時代またはプレヒスパニック時代という。その時代には、ユカタン半島のマヤ文明、チリ、アルゼンチン、ペルーあたりのインカ文明、メキシコあたりのアステカ文明等が存在した。白人種が中南米に到来したときには、インカ文明、アステカ文明が栄えていたが、白人種はそれら先住民の文明を滅ぼし、キリスト教に基づくラテン・アメリカ文明を発達させた。植民地時代以前の歴史は、ヨーロッパ人による記録と考古学的痕跡だけとなっている。
 中南米では、1521年のアステカ王国滅亡から19世紀初頭の諸国家独立までの約300年間、スペイン・ポルトガル等による植民地支配が続いた。この間、インディオの人口が急減し、それを補うためにアフリカから多数の黒人が奴隷労働力として強制連行された。
 インディオは、太陽神・大地神を含む多神教を信仰していた。そこにスペイン・ポルトガルが進出し、カトリックが布教を行った。カトリックの宣教師は、マヤ文明・アステカ文明に関しては、生贄の儀式を悪魔の所作と決めつけて、神官を殺害し、神殿を破壊して、カトリックを強制した。その一方、大部分の地域では、先住民の宗教的な伝統・慣習をある程度、許容する形でキリスト教を布教した。また、黒人奴隷はアフリカの宗教を持って移住しており、これもその中に溶け込んだ。その結果、ラテン・アメリカ文明では、ヨーロッパの主にラテン系の文化、インディオの文化、奴隷として連れてこられたアフリカ黒人の文化が融合した。それゆえ、ラテン・アメリカの多くの地域では、カトリックを基調とし、そこに先住民族及び黒人奴隷の宗教的要素が習合した独自の宗教文化が形成された。その宗教文化が、ローマ・カトリック教会によって容認されているところに、土着化し、ラテン・アメリカ化したカトリックの特徴がある。
 この特徴の代表的なものが、聖母崇敬である。グアダルーペの聖母、アンデスの女神パチャママ等が知られる。ローマ・カトリック教皇庁は、それらの聖母信仰を容認し、土着的な聖母の信仰者もカトリック信者として容認している。信仰ではなく崇敬だという位置づけである。
 グアダルーペの聖母は、メキシコが発祥の地である。1531年、改宗者インディオのファン・ディエゴが、メキシコ・シティ郊外のテペヤックの丘を通りかかったとき、褐色の肌に黒い髪の聖母が現れた。聖母は、ファン・ディエゴに対して、聖母の大聖堂を建設する願いを司教に伝えるよう求めた。司教は最初、取り合わなかったが、教皇庁は彼の申し出を容れた。ここに、褐色の聖母崇敬が始まった。
 聖母が出現したテペヤックの丘は、アステカの大地母神トナンツィンの神殿が建てられていた信仰の中心地だった。トナンツィンは「われらの母」を意味する。先住民は、祖先伝来の女神とカトリックの聖母を重ね合わせた。カトリック教会は、インディオの土着宗教をある程度容認し、それを布教に利用する方法を取った。1537年、教皇パウロ3世は、インディオは理性ある人間として扱われるべきという回勅を発し、インディオへの迫害を禁じた。
 メキシコを中心に、16世紀末頃から17世紀初め、褐色の肌の聖母によって重病人が回復するとされる奇跡が続き、聖母崇敬が強まった。そして聖母崇敬がすべての階層に広がった。教皇庁は、聖母の出現譚の一つとして、グアダルーペの聖母を公認している。メキシコのグアダルーペ、フランスのルルド、ポルトガルのファティマにおける聖母出現譚を合わせて、カトリックの三大奇跡という。
 グアダルーペの聖母は、メキシコがスペインから独立する際の旗印となった。独立革命の指導者ミゲル・イダルゴは、蜂起の宣言で「聖母万歳」と唱えた。独立後は、メキシコで最も大切な宗教的象徴となっている。
 19世紀前半にラテン・アメリカで多くの国家がスペイン、ポルトガルから独立した後、土着的な聖母とキリスト像が並存する形態が一般化した。グアダルーペの聖母は、メキシコだけでなく、「ラテン・アメリカの聖母」として広く信仰されるようになっている。
 インディオの信仰とキリスト教の習合の別の例として、アンデスの女神パチャママ がある。アンデスの神話に現れる女神で、「母なる大地」を意味する。先住民が信仰していた豊穣を司る大地の神であり、すべてのものの母とされる。スペインの侵略以降、キリスト教が深く浸透した結果、先コロンブス時代の神々への信仰はほとんどなくなったが、パチャママは聖母マリアと重合して、今日でもペルーやボリビアで信仰されている。

 次回に続く。

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