ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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中国はどういうシナリオで台湾・尖閣を攻めるか10

2021-07-13 10:08:24 | 国際関係
 最終回。

●米国防総省の報告書に基づくシナリオ(詳細 続き)

④侵攻要領に関する分析

 侵攻要領については、以下の様々のケースが考えられる。

要領1:超限戦の全面的活用
要領2:政治統合を主に武力行使で威嚇
要領3:武力行使

 これらの可能性については、要領1は常に平時からあらゆる方法で長期にわたり執拗に行われるとみるべきであろう。
 要領2は、表向き歴代共産党政権も習近平も表明している方針であり、その可能性は高い。しかし、特に習近平政権になってからは、要領3のあからさまな武力行使を示唆する軍事的な圧迫や武力の誇示が目立つようになっている。
 その意味では、要領3の可能性の方が高まっていると言えよう。
 超限戦については、非軍事の経済、金融、貿易、情報、技術、政治、文化、教育などあらゆる分野で、あらゆる文明の利器を逆用して展開される。戦争ではない軍事行動も含まれる。
 特に尖閣諸島に対しては、サラミスライス戦術による既成事実の積上げ、政財界、メディア、学界などへの影響力行使作戦による抵抗意思の剥奪、法律戦、歴史戦、フェイクも交えた輿論戦による正当化と日本国民の間の反発意識の低下などに注意が必要である。
 台湾侵攻に際しても、すでに現在活発に行われている。
 例えば、サイバー攻撃、選挙介入、フェイクニュースによる輿論操作、対中融和派への支援による分断工作、旅行者の制限による圧力、台湾企業の大陸経済へ取り込み、技術の移転強要と窃取、人の往来を通じた懐柔と獲得工作など多方面にわたり活発に行われている。
 このような状況は今後も継続し、台湾の独立派に無力感を与え、国民党など融和派を政治的に盛り立て、両岸間の政治協定締結など、政治的な併合を目指すとみられる。
 その点では、ケースbとケースaは一体であり、その最終目標が台湾の政治統一にある。しかし、その背後には軍事的恫喝が必ずともなっており、ケースcにも通じている。
 しかし、習近平政権は、台湾も尖閣諸島も「核心的利益」とする立場を取り、いずれも「太平洋に出るための大門を閉ざすかんぬき」であり、武力行使をしてでもいずれ奪還すべき固有の領土である、それらの奪還が無い限り「祖国の統一」もなく、「偉大な中華民族の復興」もない、そのために何よりも「強軍の夢」が果たされねばならないとの姿勢を鮮明にしている。
 しかも、2035年までに「強軍の夢」の中間目標を達成するとしており、世界一の軍隊建設の途上での最大の中間目標とは、具体的には台湾統一、尖閣奪取を意味しているとみるべきであろう。
 これまでの習近平政権の方針や行動を分析すれば、ケースcこそが本音であるとみて、それに備えることが必要である。

◆まとめ:ありうる侵攻シナリオと様相
 
 諸要因の分析から最も蓋然性が高いとみられるシナリオは概略以下の通りとなろう。
 2020年夏以降随時、尖閣諸島に対するサラミスライス戦術を併用した着上陸を含む奇襲侵攻は起こりうる。しかし、その目的は日米台の対応とその間の連携を見極めることにあり、事態は政治的外交的に解決される可能性が高い。
 その後、緊張緩和ムードを盛り立てて、日米台の国防力整備を遅延させつつ、台湾・尖閣同時侵攻に必要な着上陸戦力、それを支援する海空、ミサイル戦力の増強、民間力の動員態勢の整備などを行い、侵攻準備を進めるであろう。
 他方では、米国の選挙、台湾と沖縄の輿論などを主な標的として、『超限戦』を進め、選挙介入、サイバー攻撃、フェイクニュースの流布、政財学界要人への影響力工作など、あらゆる手段を駆使して、対中融和政策の推進、日米台の国防力強化の妨害を試みるであろう。
 なお在韓米軍については、韓国の左派政権下で米韓同盟が破棄され尖閣・台湾侵攻前に撤退しているか、同盟が有名無実となり戦力として空洞化している可能性が高い。
 戦いは、サイバー、宇宙、電磁波などの新ドメインでの先制打撃及び濃密な各種ミサイルによる台湾・南西諸島の米軍基地、日台の基地群に対する攻撃から始まるであろう。
 台湾本島と先島に対し、着陸侵攻も併用した立体的な多正面からの迅速な分散奇襲侵攻が行われ、短期間に主要都市を制圧し、占領の既成事実化を図るとみられる。
 特に、台湾から沖縄東岸沿岸部の努めて遠方に海空軍を進出させ、ミサイル火力などにより米空母部隊などの来援を遅延・阻止しつつ、在沖縄・在日米軍の早期制圧とグアム以東への撤退を画策するとみられる。
 台湾と沖縄では海空優勢をPLAが一時的に確保し、部分的に着上陸侵攻は成功し、日台の国土と住民の一部は一時的に占領下におかれる可能性が高い。
 数か月後には米軍のマルチドメイン作戦などの成果により、来援が可能になる可能性がある。それまでは、日台は独力で国土、国民を防衛しなければならないであろう。
 その際には日台の抵抗意思を挫くために中国が核恫喝をかける可能性が高い。
 また、住民を人質に取り、臨時革命政府の樹立と分離独立宣言、PLAに対する救援要請、それらに呼応した中国による独立承認とPLA後続部隊の本格上陸など、政治・外交戦も併行的に展開するとみられる。
 地上戦では長期のゲリラ戦が占領された島嶼でおこなわれ、日台ではそれを支援するための海空隠密輸送が必要になるであろう。
 同時に島内の残留住民の退避と保護が重要な課題となる。特に九州には台湾と沖縄の難民、避難民が多数流入することになるとみられる。
 最終的には日米台の反攻作戦により、PLA侵攻部隊は海空優勢を失い、戦力が枯渇し降伏を余儀なくされ、戦争は終結する可能性が高い。しかし、それまでには数カ月から場合により数年を要するかもしれない。
 以上は一つのシナリオに過ぎず、厳密な計数的検討やシミュレーションを経た結果ではない。
 また、様々の不可測要因があり、実際にどのようなシナリオと様相になるか、そもそも侵攻自体が起きるのかという問題もある。
 しかし、このような蓋然性の高いシナリオを予測し、計画を立て必要な防衛力を整備し、訓練を積んでおくことは、国防上必要不可欠であり、それが紛争の抑止力にもなることは間違いない。
 特に、ありうるシナリオに対して採るべき対応策が決まれば、それが実行できるような防衛力を整備しておくことは、火急の急務である。特に日本としては、尖閣への奇襲対処と安全保障分野での日米台の連携強化に努めなければならないであろう。

 筆者:矢野 義昭

* * * * *

 以上が、矢野義昭著『中国が本格的に検討し始めた尖閣、台湾侵攻シナリオ』の全文である。
 これで、拙稿「中国はどういうシナリオで台湾・尖閣を攻めるか」を終結する。(了)

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