◆真言宗系
・阿含宗
阿含宗は、真言宗系の新宗教団体である。
開祖の桐山靖雄は、法華経等の大乗経典を学び、1954年(昭和29年)に観音慈恵会を設立した。密教を修めた桐山は、その後、幾度かの変遷を経て、1981年(昭和56年)に、これを阿含宗と改称した。
この団体名は、桐山が初期仏教経典である阿含経典を学び、そこに釈迦が実際に説いた教えがあると考えたことによるもので、桐山は阿含宗を「仏陀釈尊の教団」と称する。だが、桐山の思想は基本的には密教によるものであって、阿含宗では阿含経典に説かれる成仏法を密教の方法で修行する。桐山は、密教の掲げる即身成仏の境地は、釈迦が説いた涅槃であるとする。大乗仏教の最後期に現れた密教が、初期仏教の教説を摂取し直したものである。阿含宗では、さらにこれにとどまらず、北伝仏教、南伝仏教、東伝仏教(チベット、ブータン)という仏教の全系統を釈迦の成仏法を核として総合したものを完全仏教と呼び、阿含宗は、世界で唯一の完全仏教の道を歩んできたと主張する。
桐山は、精神世界や超能力のブームに乗じて、密教の修行によって変身し、超能力を発揮できるようになると説き、ハタ・ヨーガのクンダリニーや大脳生理学の知見を取り入れるなど、当時の流行を取り入れて、若者を中心とする人々の関心を引きつけた。教えから受ける一種斬新なイメージと、山伏の装束を着て護摩を焚く桐山の姿とのギャップの大きさが際立ち、話題になった。
阿含宗では、毎年2月の節分に「炎の祭典・阿含の星まつり」を行っている。「星まつり」とは、密教の運命学に基づく儀礼で、山岳密教、修験道の大柴燈護摩供の伝統的な様式に則って行う。釈迦の「真正仏舎利」を仏界の本尊、素戔嗚尊を神界の主神とし、さらにブータン仏教伝来の大曼荼羅を祀り、完全仏教の力と古代神法を合わせた「神仏両界の秘法」を行うものだという。ここには、神道との習合が見られる。
「星まつり」でいう「星」とは、自然界の天体のことではなく、運命学で人間の運勢に影響するものをいう。阿含宗では、密教占星術で悪い運命の「星」とされる悪因縁を30数種類挙げる。横変死、家運衰退、癌、中途挫折、夫婦縁障害、運気不定浮沈等の因縁である。そして、仏法は、これらの悪因縁を断ち切って、人間を自由にし、最高の運命を創造する究極の力を修行者にもたらすとし、その究極の状態が完全なる因縁解脱を成就して仏陀になることだとする。
その説くところと実際が一致しているかどうかは、実証の有無とその程度を以って判断する必要がある。言葉で説くだけなら、誰でも言えるからである。
・真如苑
真如苑も真言宗系の新宗教団体である。
開祖の伊藤真乗は真言宗の在家修行者だった。1936年(昭和11年)に霊感を受けた妻の友司(ともじ)とともに宗教結社を作り、1938年(昭和13年)に真言宗醍醐派立川不動尊教会を立ち上げた。醍醐寺は、修験道の山伏の総元締めの役割を果たしていた。山伏の一人だった伊藤は、敗戦後、真言宗醍醐派から離れ、1948年(昭和23年)に、まこと教団を設立した。1951年(昭和26年)に、これを真如苑に改称した。真如苑は、高度経済成長期を過ぎた1970~80年代から急成長した。
真如苑の教義は、伝燈法脈、『大般涅槃経』、真如霊能を三つの柱とする。伝燈法脈は、真言宗醍醐派の法脈を継承したもの。『大般涅槃経』は、真如苑の所依の経典であり、教えの根本とされる。真如霊能は、教主・真乗と苑主・友司の夫妻が家系的に継承した霊能が一体となり湧出したものとされる。これらのうち、真言宗系でありながら、『大日経』等の密教経典ではなく、『大般涅槃経』を重視していることは、特徴的である。
真如苑では、「接心」と呼ばれる修行を行う。瞑想行のひとつで、これを通して、仏性が開発されるという。接心を指導する指導者は、「霊能者」と呼ばれる。修行を積み、霊位を高めると、霊能者と認定される。霊能者は信者と対座し、信者に対して、心を磨くために必要な指導を「霊言」として伝えるという。霊言の内容は、教えを再確認したり、先祖の不幸を聴き出したり、信者の健康状態を確認したりして指導するものである。信者は、霊言をもとに自己を反省し、日常生活の中で実践するという。それゆえ、接心は、修行であるとともに相談の場ともなっている。霊能者といっても、その指導は、神がかり的なものではなく、臨床心理学におけるカウンセリングに近いものと見られている。いわば、宗教的なカウンセリングである。
真如苑は、接心による個人の精神的な救済を主たる活動とする。その活動を通じて、信者が自己の本質である仏性に目覚め、菩提の道を歩むことを目的とするという。
真如苑は、山伏の密教修行者の在家団体から、現代人に受け入れやすいスピリチュアル・ムーブメントの団体に似たものへ変貌したわけである。現在も真言宗醍醐派の儀礼に則った護摩法要等を行っているとのことだが、教義には諸宗教・スピリチュアリズム・易等の影響が指摘される。
新宗教団体の多くは、高度経済成長期に発展し、平成時代以降、信者数が半減またはそれ以上に減少していると見られる。その中にあって、真如苑は、高度経済成長期以後に発展し、信者数が増え続けている教団の一つとして注目されている。1995年(平成7年)に国内の信者数は公称数約73万人だったが、2017年(平成29年)末で約93万人と発表されている。その通りであれば、この約22年間で3割近く増加したことになる。
真如苑は、接心だけに通う信者が多いようで、他の新宗教団体に比べて組織的な活動が目立たない。政治を通じた社会変革を目指すような主張や活動は見られない。政治的には保守的かつ穏健で、特定の支持政党はないと見られる。
次回に続く。
************* 著書のご案内 ****************
『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1
************************************
・阿含宗
阿含宗は、真言宗系の新宗教団体である。
開祖の桐山靖雄は、法華経等の大乗経典を学び、1954年(昭和29年)に観音慈恵会を設立した。密教を修めた桐山は、その後、幾度かの変遷を経て、1981年(昭和56年)に、これを阿含宗と改称した。
この団体名は、桐山が初期仏教経典である阿含経典を学び、そこに釈迦が実際に説いた教えがあると考えたことによるもので、桐山は阿含宗を「仏陀釈尊の教団」と称する。だが、桐山の思想は基本的には密教によるものであって、阿含宗では阿含経典に説かれる成仏法を密教の方法で修行する。桐山は、密教の掲げる即身成仏の境地は、釈迦が説いた涅槃であるとする。大乗仏教の最後期に現れた密教が、初期仏教の教説を摂取し直したものである。阿含宗では、さらにこれにとどまらず、北伝仏教、南伝仏教、東伝仏教(チベット、ブータン)という仏教の全系統を釈迦の成仏法を核として総合したものを完全仏教と呼び、阿含宗は、世界で唯一の完全仏教の道を歩んできたと主張する。
桐山は、精神世界や超能力のブームに乗じて、密教の修行によって変身し、超能力を発揮できるようになると説き、ハタ・ヨーガのクンダリニーや大脳生理学の知見を取り入れるなど、当時の流行を取り入れて、若者を中心とする人々の関心を引きつけた。教えから受ける一種斬新なイメージと、山伏の装束を着て護摩を焚く桐山の姿とのギャップの大きさが際立ち、話題になった。
阿含宗では、毎年2月の節分に「炎の祭典・阿含の星まつり」を行っている。「星まつり」とは、密教の運命学に基づく儀礼で、山岳密教、修験道の大柴燈護摩供の伝統的な様式に則って行う。釈迦の「真正仏舎利」を仏界の本尊、素戔嗚尊を神界の主神とし、さらにブータン仏教伝来の大曼荼羅を祀り、完全仏教の力と古代神法を合わせた「神仏両界の秘法」を行うものだという。ここには、神道との習合が見られる。
「星まつり」でいう「星」とは、自然界の天体のことではなく、運命学で人間の運勢に影響するものをいう。阿含宗では、密教占星術で悪い運命の「星」とされる悪因縁を30数種類挙げる。横変死、家運衰退、癌、中途挫折、夫婦縁障害、運気不定浮沈等の因縁である。そして、仏法は、これらの悪因縁を断ち切って、人間を自由にし、最高の運命を創造する究極の力を修行者にもたらすとし、その究極の状態が完全なる因縁解脱を成就して仏陀になることだとする。
その説くところと実際が一致しているかどうかは、実証の有無とその程度を以って判断する必要がある。言葉で説くだけなら、誰でも言えるからである。
・真如苑
真如苑も真言宗系の新宗教団体である。
開祖の伊藤真乗は真言宗の在家修行者だった。1936年(昭和11年)に霊感を受けた妻の友司(ともじ)とともに宗教結社を作り、1938年(昭和13年)に真言宗醍醐派立川不動尊教会を立ち上げた。醍醐寺は、修験道の山伏の総元締めの役割を果たしていた。山伏の一人だった伊藤は、敗戦後、真言宗醍醐派から離れ、1948年(昭和23年)に、まこと教団を設立した。1951年(昭和26年)に、これを真如苑に改称した。真如苑は、高度経済成長期を過ぎた1970~80年代から急成長した。
真如苑の教義は、伝燈法脈、『大般涅槃経』、真如霊能を三つの柱とする。伝燈法脈は、真言宗醍醐派の法脈を継承したもの。『大般涅槃経』は、真如苑の所依の経典であり、教えの根本とされる。真如霊能は、教主・真乗と苑主・友司の夫妻が家系的に継承した霊能が一体となり湧出したものとされる。これらのうち、真言宗系でありながら、『大日経』等の密教経典ではなく、『大般涅槃経』を重視していることは、特徴的である。
真如苑では、「接心」と呼ばれる修行を行う。瞑想行のひとつで、これを通して、仏性が開発されるという。接心を指導する指導者は、「霊能者」と呼ばれる。修行を積み、霊位を高めると、霊能者と認定される。霊能者は信者と対座し、信者に対して、心を磨くために必要な指導を「霊言」として伝えるという。霊言の内容は、教えを再確認したり、先祖の不幸を聴き出したり、信者の健康状態を確認したりして指導するものである。信者は、霊言をもとに自己を反省し、日常生活の中で実践するという。それゆえ、接心は、修行であるとともに相談の場ともなっている。霊能者といっても、その指導は、神がかり的なものではなく、臨床心理学におけるカウンセリングに近いものと見られている。いわば、宗教的なカウンセリングである。
真如苑は、接心による個人の精神的な救済を主たる活動とする。その活動を通じて、信者が自己の本質である仏性に目覚め、菩提の道を歩むことを目的とするという。
真如苑は、山伏の密教修行者の在家団体から、現代人に受け入れやすいスピリチュアル・ムーブメントの団体に似たものへ変貌したわけである。現在も真言宗醍醐派の儀礼に則った護摩法要等を行っているとのことだが、教義には諸宗教・スピリチュアリズム・易等の影響が指摘される。
新宗教団体の多くは、高度経済成長期に発展し、平成時代以降、信者数が半減またはそれ以上に減少していると見られる。その中にあって、真如苑は、高度経済成長期以後に発展し、信者数が増え続けている教団の一つとして注目されている。1995年(平成7年)に国内の信者数は公称数約73万人だったが、2017年(平成29年)末で約93万人と発表されている。その通りであれば、この約22年間で3割近く増加したことになる。
真如苑は、接心だけに通う信者が多いようで、他の新宗教団体に比べて組織的な活動が目立たない。政治を通じた社会変革を目指すような主張や活動は見られない。政治的には保守的かつ穏健で、特定の支持政党はないと見られる。
次回に続く。
************* 著書のご案内 ****************
『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1
************************************
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます