ほそかわ・かずひこの BLOG

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インド65~スーフィズムとバクティ運動

2020-03-29 10:19:27 | 心と宗教
●スーフィズムとバクティ運動

 インド亜大陸では、インド文明とイスラーム文明が出会い、ヒンドゥー教とイスラーム教が相互に影響を与え合った。主にその相互作用を引き起こしたのは、イスラーム教のスーフィズムとヒンドゥー教のバクティ運動だった。
 スーフィズムは、イスラーム教の神秘主義を意味する。神との合一体験の獲得を追及する修行者、スーフィーたちにちなむ言葉である。イスラーム文明では、12世紀以降、スーフィーによる神秘主義的な教団 (タリーカ) が相次いで設立された。それらの教団員は、伝道に熱心で、殉教を本望とし、異教の地に赴いて、アッラーへの信仰を熱烈に説き聞かせた。インドでは、イスラーム軍は軍事力によって政治権力者をイスラーム教に改宗させたが、民衆はもともとの宗教の信仰を許されていた。その民衆を少しずつイスラーム教に改宗させていったのは、スーフィーたちだった。彼らは、インドの民衆の中に入り、信仰を通じて人々を教化して、イスラーム教に導いた。インド西北部におけるイスラーム教の勢力伸長は、スーフィーたちの活動に負うところが大きいとされる。
 スーフィーの布教活動が成果を上げた要因の一つに、当時、ヒンドゥー教では、ヴィシュヌやシヴァへのバクティによる帰依信仰が盛んになっていたことがある。バクティ運動は、7~8世紀の南インドに始まり、10世紀頃には、ヴィシュヌやシヴァが最高神として、絶対的・献身的な信愛の対象となった。この信仰は、多神教における一神教的傾向である。一方、スーフィズムには、イスラ―ム教でありながら治癒信仰、呪力崇拝、聖者崇拝があり、これらはヒンドゥー教の帰依信仰に共通する要素である。信仰対象であるヴィシュヌやシヴァをアッラーに置き換えて、一神教的な傾向を徹底すれば、改宗に至り得るわけである。
 ヒンドゥー教の側では、スーフィズムの影響を受け、バクティ運動が一層盛んになった。バクティ運動は、12世紀から北インドにも広がり、次第にインド全土の民衆に浸透していった。それによって、ヒンドゥー教における一神教的傾向がより強くなった。
 それゆえ、スーフィズムは、ヒンドゥー教徒をイスラーム教に改宗させることに大きく貢献したと同時に、ヒンドゥー教におけるバクティ運動に刺激を与え、バクティ運動の拡大を引き起こしもしたのである。
 ヒンドゥー教にあってイスラーム教にないものに、カースト制がある。インド社会で最下層に位置する「アウト・カースト」の不可触らは、カースト制度から逃れるために、イスラーム教に改宗した。イスラーム教は、アッラーの神の前ではすべての人が平等であると説く教えである。そこに抑圧からの解放を求める人々は、自らイスラーム教に帰依したのである。
 イスラーム教のスーフィズムとヒンドゥー教のバクティに基づく帰依信仰は、神との合一を目指す思想や態度が相似している。両者の併存する状態が続くうち、15世紀以降になると、相互に影響を与え合ったり、双方の思想が融合したりするようになった。これは、世界の宗教史において注目すべき現象である。イスラーム教とヒンドゥー教の間では、一見不可能と思われる一神教と多神教の融合が一定程度起こったのである。その結果、19世紀には、すべての宗教は根本的に一つだと説くラーマクリシュナらが出現することになる。

 次回に続く。

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