梶哲日記

鉄鋼流通業会長の日々

カリスマか老害か(その2)

2022年09月03日 05時38分58秒 | Weblog
〜江上氏のコラムの続きです〜

「相談役」という立場の人たちがいる。この人たちは「老害」になり得るだろう。相談役とは、社長などトップを経験し、人事や経営に相談という形で口を出す人のことを言う。現トップを選んだ人たちが会社内に居座っていると、どうしても人事や経営の重要事項について相談せざるを得なくなる。それが問題の根本解決や経営改革を遅らせる。後継者に道を譲った人は、静かに会社を去り、後事を託すことが必要なのではないだろうか。

また、「中興の祖」と呼ばれる人たちが長く会社に君臨しているケースがある。会社の危機に際し、火中の栗を拾い、経営改革に成功した人たちであるが、彼らも「老害」になる可能性が高い。伊庭貞剛という人物がいた。別子銅山の煙害問題に取り組み、「住友の中興の祖」と尊称された人物である。改革を成し遂げると、彼は周囲や当主(オーナー)が引き留めるのを振り切って57歳で住友総理事の座から降りた。

彼は退任に当たってこう話している。「事業の進歩発達に最も害するものは、青年の過失ではなくて、老人の跋扈(ばっこ)である」。伊庭は、老人の価値は経験であるが、それに重きを置き過ぎ、少壮者を服従させようとし、少壮者もそれに従おうとするのが「大変な間違いである」と言う。そこで「少壮者に貴ぶ所は敢為の気力である」と、少壮者に失敗を恐れず挑戦することを勧めるのである。

伊庭は、もう一人の中興の祖である広瀬宰平に引導を渡す役目を果たした。広瀬が長くトップに君臨し、権力を握り、周囲には追従、忖度する者ばかりが集まるようになった。そこで伊庭は、自ら刺し違える覚悟で広瀬を説得し退任させた。叔父であり、自分を住友に引き入れてくれた恩人を退任させることは、さぞ辛かったであろう。伊庭は、この経験から自分がそうならないようにと、役目を終えたと判断した時、速やかに後継者に道を譲った。伊庭の優れたところは、後継者に自分と全くタイプの違う積極果敢な43歳の若手を選び、経営を任せると一切口を出さなかったことである。

日本の企業の経営者は高齢化し、現状維持、変化に鈍感、変化したくない、「おっくう経営」になっているのではないだろうか。哲学者モンテニューは、年齢を重ね老いることについて、「私の精神も私の身体も、力を増したというよりは減じたし、進歩したというよりは退歩したことは確実だ」と言っている。衰えは誰にでも平等に訪れるのだ。それ故に、日本経済がもう一度活気を取り戻すためには、社長自身が老いを自覚し、自らに引導を渡し、思い切って若手に経営を譲る決心が必要ではないだろうか。

コラムは以上です。物事に絶対はありません。勿論前回の二人の大経営者が、全てが間違いだとも言い切れませんが、後継人事のやり方が絶対だと思っているなら落とし穴があるでしょう。私の持論は、会社は存続無限で、経営者は正味有限です。そして経営者は、公器である会社を絶対に(敢えて使います)私物化してはなりません。コラムで取り上げられていた伊庭氏の会社経営には、どこをさがしても私が無く、いさぎよさがあります。

世代交代とは若返りです。暫くは社長と会長は伴走したとしても、先人が引かなければ後進は前に出れません。先人が居座ってしまうと後進の活躍する場を奪っていることになり、会社の若返りは難しくなります。では先人が未練を残さず会社から離れるにはどうしたらよいのか。古巣の場所で「老害」にならないためにも、新天地で次にやることを決めたらよいのではないかと思います。

2012年に51歳で、経営危機にあったソニーグループの社長に就いた平井一夫。超小型テレビなどソニー製品に胸を躍らせた原点に戻ろうと試みる一方、1万人を削減するリストラに踏み切り、周囲の反対を押し切りパソコン事業の売却等推進、苦い決断の連続だった。57歳で社長を退く(前述の伊庭氏と奇しくも同じ年齢)。今の肩書はシニアアドバイザーだが氏には引退の言葉が馴染まない。と、日経新聞のコラムに“人生100年を考える”と題して氏が登場していました。

健康管理の為毎日の運動、会議や講演の合間にはカメラや鉄道模型を楽しみ、やることがいっぱいあって時間が足りない。21年一般社団法人「プロジェクト希望」を設立、経済的に厳しい家庭の子供たちを演奏会に招待したり、最先端のITに触れる機会をもうけたりする取り組みを始める。これらが自らのワクワクを創り、平井氏の活力源になっている。とあります。

そのコラムには、人生100年時代が迫り、若手に迷惑をかけず自力でアクティブに活躍する高齢者が紹介されていて、「シニアが支えられる側でなく、シニアが支え手として存在を増すとき、経済や社会の構図はガラッと変わる」と書かれていました。害を与えてしまうシニアとは対照的でした。  ~次回に続く~


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする