風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

「夏を喪くす」

2013-02-26 | 読書
こんな作家がいたんだ
・・・と思える本に出会えるのは幸せ。
この作家も書店で何気なく手に取って初めて知った。
良い。とても良い。これぞ読書の、書店での本選びの醍醐味。

女性作家ものは登場人物の内面を描写していることが多く、
異性である自分にとって新鮮に読めるのだが、
この人は内面を切り取りつつ描く世界は広い。
さりげない風景描写に、何気ない登場人物の行動に
その時々のその人物の心理が表れる。

主人公たちはそれぞれに自分の住む世界を持ち
その中で1点の曇りを見つけていく。
その「曇り」とどう向き合うのか。
戸惑い、迷いながらも彼女たちはしっかりと歩き始める。
中編4作だが、やっぱり表題作が一番良かったな。

ここに引用しようと頁の端に折り目を付けていたが
解説で斎藤美奈子氏が引用していた部分と全く一致した。
だよね。引用するならここだよね。

 気がつけば、いつもせわしなく生きてきた。
 目の前にこなすべき仕事があり、
 勝つべき競争があり、進むべき道があった。

 空いちめんに広がる紅を吸ってたっぷりと肥大した太陽が
 急速に水平線に落ちていくわずかな時間に
 咲子は日没を眺めたことがなかったいままでの人生を振り返った。


「夏を喪くす」原田マハ:著 講談社文庫
コメント
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