因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

『セパレート・テーブルズ』

2005-12-18 | 舞台

*テレンス・ラティガン作 マキノノゾミ訳・演出 全労済ホール/スペース・ゼロ
秋からのラティガン祭りの締めくくりにふさわしい舞台である。休憩をはさんで3時間半の長丁場だが、見終わったあとの充足感は予想以上で、幸福感さえ感じた。
郊外にある小さなホテルで、そこの滞在客たちの人生が描かれている。まるで住居のようにホテルに長期滞在するということがあまり実感できないのだが、ここで過ごす人々はほとんどが人生の最後の時間を静かに過ごそうとしている。そこへ飲んだくれのジャーナリストのジョン(坂手洋二)や、美しいアン・シャンクランド夫人(神野三鈴)がやってくると、とたんに波風が吹き始めるのである。



ウェイトレスのドリーン(小飯塚貴世江)の存在がおもしろかった。赤毛のちりちり頭はミュージカル『アニー』を思い出させる。口の聞き方も立ち振る舞いもひどいものだが、彼女が客たちの心情をいちばん察しているのである。第一幕、元夫婦であるジョンとアンが、こわごわと一緒のテーブルにつく。ドリーンはきっと好奇心まるだしで下品に振る舞うだろうと思ったら、「お茶、こっちで飲む?」「これからはずっと一緒のテーブルにする?じゃあランチからそうするね」。実に自然で、全てを察している。余計なことを言わない。彼女がこう言ってくれたことで、元夫婦はどれだけ嬉しく安心したことだろうか!第2幕の終わり、ポロック少佐(菅原大吉)に向かって「明日の朝食はどうする?」と尋ねる場面も同様である。誰もが気にしながらどうしても言えない一言を、ウェイトレスは仕事上必要なこととは言いながら、きちんと聞いてくれるのである。誤解してごめんなさい。ドリーン、あなたがいてくれてよかった。



ラティガンの3つの作品は、今年後半の大きな収穫であった。いよいよ芝居が好きになり、人間が好きになれたような気がする。悲しいことも辛いこともあるが、やはり人生は美しい。そう思いたい。



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