続きまして今年1月から4月までに観劇した舞台につきまして短くまとめたトピックをお届けいたします。ネット視聴の舞台やコロナ禍のために中止となった公演についても少し。リンクは観劇後のブログ記事です。
【冬から春のトピック】~心に残った舞台覚書~
☆1月☆
*国立劇場開場55周年記念
初春歌舞伎公演
曲亭馬琴作 渥美清太郎脚色 尾上菊五郎監修
国立劇場文芸研究会補綴
通し狂言『南総里見八犬伝』
小学生のとき、楽しみにしていたテレビ人形劇「新八犬伝」の記憶を呼び起こしつつ、久しぶりの通し狂言を堪能。二代目中村吉右衛門逝去の悲しみは色濃いが、歌舞伎界を背負う尾上菊五郎の貫禄、実父と岳父の芸道を誠実に歩み続ける尾上菊之助、着実な成長を見せる尾上左近の清々しさに、佳き芝居はじめの一日。
*壽初春大歌舞伎 「一條大蔵譚」
好演の中村勘九郎に、若手から中堅の端境期にある俳優のありようを思う。父・勘三郎の早すぎる逝去のために、勘九郎、七之助兄弟は想定より早く重責を担う位置に着くことになるだろう。父の不在もまた息子たち、孫たちの芸道の糧となり、客席の楽しみに繋がることを祈りつつ。
同「祝春元禄花見踊」 見得と立ち回りと隈取が好きという中村獅童長男・小川陽喜、4歳の堂々の初お目見得だ。「萬屋」の大向こうがこの幼子に降り注ぐ日が待ち遠しい。
*朗読劇『黒蜥蜴―演劇博物館特別篇―』早稲田大学小野記念講堂
「新派SHIMPA―アヴァンギャルドの水脈」関連企画。河合清三郎演じる講釈師「悟道軒円玉」の名調子に乗った朗読劇は、トーク司会の同博物館助教の後藤隆基曰く、「冒険活劇ラジオドラマ」の趣。 脚色・演出の齋藤雅文が「ぼくらは舞台を創り続けるしかない。どうか生の舞台に触れることを忘れず、周囲の人にも伝えてほしい」と語り、逆境にある作り手の不屈の闘志に励まされた。
2月は事情により観劇が出来ませんでした。予定していた演目は次の通り。
*東京夜光 川名幸宏作・演出『悪魔と永遠』下北沢・本多劇場
*劇団民藝 てがみ座公演 アネッテ・ヘス原作 長田育恵脚本 丹野郁弓演出『レストラン「ドイツ亭」』(原作邦訳『レストラン「ドイツ亭」』河出書房新社 森内薫訳 紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
*二月大歌舞伎「義経千本桜」より「渡海屋」と「大物浦」―「片岡仁左 衛門一世一代にて相勤め申し候」
☆3月☆
*三月大歌舞伎
羅貫中作「三国演義」より 横内謙介脚本・演出 市川猿之助演出 市川猿翁スーパーバイザー「新・三国志 関羽篇」
テンポ良くメリハリのある展開にぐいぐいと引き込まれる。浅野和之は違和感なく歌舞伎座の舞台に立ち、多種多彩な人を受け入れること、伝統を守り抜くことが両立するのは劇場の懐の深さか。
同 河竹黙阿弥作「天衣紛上野初花」より「河内山」 片岡仁左衛門が体調不良で休演するも、数日後に復帰。花道登場の足取りや、座した後ろに黒子が備えるなど、十分な休養をと願いつつ、やはり仁左衛門の舞台を観たいと願うのが観客の気持ち。
*国立劇場三月歌舞伎公演
近松半二作「近江源氏先陣館」より「盛綱陣屋」
近松半二作「近江源氏先陣館」より「盛綱陣屋」
岳父・二代目中村吉右衛門の薫陶を受け、佐々木三郎兵衛盛綱に初役で挑む尾上菊之助の気迫に圧倒され、非業の死を遂げる盛綱一子・小四郎役の尾上丑之助の懸命な演技にも心打たれた。芸の魂を継承せんとする緊張感と力強さが脈打つ舞台だ。
*演劇集団円公演 マーティン・マクドナー作 小川絵梨子訳 寺十吾(tsumazuki no ishi)演出『ピローマン』3月17日~21日 六本木・俳優座劇場
昨年初夏の公演がコロナ禍で延期されたことで温められ、練り直され、素晴らしい舞台成果に。終息の出口は見えず、戦争まで始まった世界で、この残虐で救いのない物語が見るものに与える夢と希望は? 容易に答の出ないところに楽しさを見出せそうだ。
☆4月☆
*四月大歌舞伎
真山青果作 真山美保演出 齋藤雅文補綴・演出「荒川の佐吉」 血のつながらない父と子の情愛を描いた温かくも切ない物語。別れの花道には散りゆく桜が似合う。頼りなげな三下奴の冒頭から、子育ての悪戦苦闘を経て、強く優しく男ぶりを上げてゆく松本幸四郎の佐吉に惚れぼれ。
同 森鴎外原作 宇野信夫作・演出「ぢいさんばあさん」 昨年末の中村勘九郎と尾上菊之助の座組も清々しかったが、やはり片岡仁左衛門の伊織と坂東玉三郎のるん夫婦がお手本の決定版だ。しかしこの細やかな愛情物語も、中村歌六演じる憎まれ役の下嶋甚右衛門あればこそ。
【番外編】☆劇団肋骨蜜柑同好会 第15回公演『ジャバウォック』フジタタイセイ脚本・演出
下北沢・小劇場 楽園
3月上演の舞台の配信映像を視聴した(配信映像監督・倉垣吉宏)。異臭を放つ正体不明の害獣に右往左往する人々を目まぐるしく描きながら、もっとも恐ろしいのは人間の心であり、それゆえ誰かを救いたい、役に立ちたいという素朴で切実な願いが「パンドラの箱」のごとく提示される。コロナ禍とカルト宗教を絡めた前回公演『2020』を超える快作だ。
☆演劇仲間ことのみ 第7回公演 坂口安吾作 桑原睦(東京演劇アンサンブル)演出『輸血』
中板橋・新生館スタジオ 坂口がその生涯で残した戯曲2本のうち、唯一完成したのが本作。ある一家の妹夫婦を巡る騒動だが、別役実劇風かと思いきや、およそ芝居のタイトルらしくない「輸血」の着地点は予想外。最後まで一言も発しない妹の夫「木田サン」といい、「漠然たる面持」「だんだんたそがれる」のト書きといい、おもしろすぎる。コロナ禍による公演中止はほんとうに残念だ。上演の機会が訪れることを切に。
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