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因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団匂組 (わぐみ)第8回公演『みすゞかる』

2021-10-27 | 舞台
*大森匂子作(1,2)川口典成演出(1,2)公式サイトはこちら 中野/劇場MOMO 31日まで
 劇団劇作家の「劇読み!Vol.5 13人いる!」(2014年1月)が戯曲との初対面だ。このたびの公演は作品との再会であり、本式の上演を観たいという願いが叶う一夜となった。
 大正の半ばから昭和初期までの年月を、長野の松代の旧家に始まり、東京の小石川、そのあいだに神社の境内やカフェの店内など複数の場所で展開する物語だが。主舞台に緞帳を下ろし、ステージ前面の細長いスペースを使うなど、小さな劇場空間を活かした作りでテンポよく見せる。

 製糸工場を営む真山家には二人の娘がいる。歌を詠むのが好きで活発な妹の梓(金井由妃/劇団民藝)は、同級生の兄の正毅(森下高志)に恋をしているが、彼は姉の忍(佐藤晃子)に一目惚れして即求婚。忍は真山家の奉公人である清治(田辺誠二)と密かに心を通わせていたが身分違いと諦め、正毅を婿に迎える。清治は勧められるまま、梓と仲良しの女中のきよ(俊えり)と一緒になる。ここが姉妹をめぐる最初のボタンの掛け違えである。

 恋愛と結婚は別物と決断して選んだ人生であっても、その歩みはすんなりとはいかない。あのとき、もっと自分の心に正直であったら。あと少しの勇気があったら…という後悔や無念は、自分で決めたはずの相手との暮しの歯車を狂わせてゆく。ならば最初から思う人と一緒になっていれば全てがうまくいったのかと言えば、必ずしもそうならないのが人の世、人の心のままならないところである。

 梓役の金井由妃が生き生きと気持ちの良い演技で2時間の物語を牽引する。物語が始まって早々に失恋するが、じめじめと思い悩んだりせず、どんどん先に向かって進んでゆく。無鉄砲ではらはらさせられるが、この女性は自分の心に正直であり、そのために降りかかった不運や不幸に対して愚痴を言わない。7年前のリーディングの際は「志を貫く物語」だとブログに記した。たしかにそうなのだが、今回は梓が「筋を通す」姿勢に心を打たれた。梓が片思いしていた正毅は、お定まりのように嫌な男になっていくが、彼もしたたかに傷ついて紆余曲折ののち、新しい顔を見せるようになる。梓がずっと思い続けているのがこの人でよかったという思いや、お嬢さまと奉公人の関係ではあるが、梓と姉妹のようになるきよの人生もまことに壮絶で悲しみの多いことも、今回の上演で改めて気づかされたことであった。

 劇作家が精魂込めて書き上げた戯曲に応えるべく、俳優陣も誠実な演技を見せるが、もう少し抑制しても、人物の思いは伝わるのではないだろうか。

 今夜の『みすゞかる』がことさら心に染み入るのは、昨日、それまで生きてきた世界を身一つで飛び出し、「かけがえのない人」と新しい人生を歩きはじめた姫宮のことが思い浮かぶためであろうか。図らずも時を得た公演となったが、これからもいろいろな座組で上演される、息の長い作品になってほしいと願っている。
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