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因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団フライングステージ第40回公演 『Friend,Friends 友達、ともだち』

2015-10-31 | 舞台

*関根信一作・演出 公式サイトはこちら 下北沢/OFF OFF劇場 11月2日で終了
 渋谷区、世田谷区をはじめ、同性パートナーシップ制度が認められつつある今、パートナーシップと友情についての物語だ。合わせて同性婚を禁じたカリフォルニア州の「提案8号」を違憲とした裁判を再現した朗読劇『8』(ダスティン・ランス・ブラック作 プロジェクト8翻訳 関根信一上演台本・演出)も上演された。(1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15
 世田谷区に暮らす塚田家。いつもと同じ休日の昼下がりである。父は黙って新聞を読み、母は自分にあまり関心を持たない夫に嫌気がさしている様子。そこへひとり息子の雅人が男性の恋人を紹介して父は混乱して激怒、母も困惑を隠せない。セクシュアリティの告白が引き起こす大騒動の幕開きだ。友だちや先輩たち、その家族など、さまざまな立場の人々が語りあい励ましあい、ときには衝突しながら、よりよい人生への道を探ろうとする。
 OFFOFFシアターの小さな空間を、塚田家のリビングからゲイのカップルが暮らす埼玉県の一軒家、あるいは公園の一角など自在に変化させ、俳優が複数の役を演じ継ぐ手法はフライングステージおなじみだ。

 まさに同性パートナーシップ証明書の発行を控えている時期でもあり、登場人物たちのやりとりにもテレビや新聞雑誌で見聞きすることばや内容がたくさん盛り込まれている。 こうした場合、どうしてもいわゆる「説明台詞」になり、会話や対話というよりも、ある情報の伝達、レクチャー風になりがちなのだが、今回の舞台から はそのような印象はほとんどなかったと言ってよい。具体的にどこがどのようであったかを述べられないのがもどかしいが、作者が観客への情報伝達と登場人物の心象の描写のバランスに長けた作劇術を体得しているためであろう。

 彼らが願うのは、大切な相手との関係を皆に認めて祝福してほしい、堂々と「ぼくたちは夫婦です」と胸を張って生きていきたいということである。頑なだった父が、妻とのなれそめを回想する場面で意外な顔をみせたり、妻に対する態度を改めてゆき、最後には「息子をよろしくお願いします」と頭を下げる。兄が男性の恋人と暮らしていたことに拒絶反応を示していた妹が、自分の息子がゲイであることを知って、兄亡きあとの家でその恋人が暮らすことを願い、彼に息子を託すことを決意する。

 エピソードの数々は、何となく想像がつき、予想できるものである。振り返ってみると、2010年夏上演の『トップ・ボーイズ』で も、ゲイの主人公が恋人と結婚式を挙げた。たしか物語がはじまって早々に「結婚しました」と告げられるもので、観劇当時はあまり現実味が感じられなかった。それよりも愛し合って結ばれたはずの二人が別離に至る終幕の苦さが忘れられない。最新作が、結婚というものを「佳きもの」として描いていることには、正直なところもの足りない思いがあるが、おそらく、この『トップ・ボーイズ』の印象が強かったためと思われる。
 しかし本作『Friend,Friends 友達、友達』は決してご都合主義や予定調和に陥らない。何かしらひねりを入れて観客の予想を交わし、想定外の展開を見せるのも劇作家の腕であるが、観客の心に向かって正面から堂々と向かってくるのだ。今回筆者はラストシーンで思わず涙。同劇団の舞台を見るようになって10年、はじめてのことである。
 
 観劇日は午後1時から本編1時間35分を上演したあと、4時から1時間弱のリーディング公演『8』を行い、その流れでポストパフォーマンストークが開催された。登壇したのは同性パートナーシップに詳しい弁護士の永野靖さんで、この問題に対する日本の現状、変化の様相、日本国憲法との関連などをとてもわかりやすく語ってくださった。できればもっとお話をお聞きしたかったが、「どんなに盛り上がっても6時で止めます」(関根信一)というのは、7時から本編夜の公演を控えていたためである。本編の出演者はぜんいんリーディングにも出演するので、気持ちの切り替えやコンディションの調整が大変ではなかったか。
 とくに『8』は、原告対被告の争いという単純な構造ではない。多くの人物の相関関係を把握し、それぞれの主張を理解ながら裁判の成り行きを見るのは、観客にとってかなり難易度の高い。もう一度じっくりと聴き、見る(あるいは戯曲を読む)機会があることを願う。

 関根信一は当日リーフレットの挨拶文に、同性婚に対して数年前までは想像もできなかった変化が現実に起こっていることに驚きつつ、「変えよう」と努力した人達がいたことを忘れないでいたい、「言葉にならないものを言葉によって生み出す芸術、それが演劇であり、世の中を、人の心を移す鏡の役割だと僕は信じています」と結ぶ。
 客席の自分もそれを信じ、演劇が人の心にもたらすものを丁寧に言葉に書き起こすことを続けていく。

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