因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

studio salt 第22回公演『うたかた』

2022-11-16 | 舞台
☆椎名泉水作・演出『うたかた』公式サイトはこちら 川崎市・溝ノ口劇場 23日まで(1,2,3,4,5,6,6`,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23
  昨年上演の『2メートル 2021』を見逃してしまい、スタジオソルトの舞台を観るのは3年半ぶりとなった(あいだに配信公演あり)。会場の溝ノ口劇場は、JR武蔵溝ノ口駅、東急田園都市線溝の口駅の喧騒から徒歩7、8分か。1階が「溝ノ口カレー」という、その名の通りカレー屋なのだが、ピアノと音響設備を備えたライヴハウスでもあり、溝ノ口劇場と連携したイベントも行うとのこと。

 スタジオソルトの特徴のひとつとして、「場所」の個性を上演作品に取り込み、活かすことがあげられる。今回の『うたかた』は、1階がカレー屋で、そこには本やアート作品の展示・販売スペースがあり、その地下のカフェを舞台に、4つの物語が展開するという趣向だ。観劇前は「公演4人のアート作家の作品をモチーフに4つの物語が展開するオムニバス演劇公演」との情報に戸惑ったが、オバタクミ(銅版画)、久保修(切り絵)、はかたてつや(イラスト)、浅生田光司(油彩)の作品が舞台に彩りと温もりをもたらす自然な作りだ。

 今夜が初日のため、詳細を明かさないところ、それでも書いておきたいところがせめぎ合う幸せを覚えている。

 #1「水たまりは明日消えるだろう」・・・森山家の三人姉妹がカフェで待ち合わせる。長女はるな(本木幸世)が認知症の母の世話をし、次女ひかり(桑原なお/大図愛ダブルキャスト)は売れないミュージシャンに貢ぐために会社員とキャバクラ嬢のダブルワーク、三女あきら(木村衣織)は美容師だが、介護施設内のパン屋の助手と同棲中で身重という困った事情を抱える。突如韓国アイドルに夢中になった姉が、妹たちに言い出したこととは?

 これまでの森山家の暮しが決して楽ではなかったこと(長女は子ども時代から、今でいう「ヤングケアラー」に近い状態だったと思われる)、3人それぞれの事情や気持ちが決して説明台詞にならずに伝わってくる。ウェイターの堂本修一(根本修幣)は、4本の物語すべてに登場し、飲み物を運びながらそれぞれの家族に寄り添う役柄。

 #2「マスクメロン」・・・弟(山ノ井史)がカフェで兄を待っている。婚約者を紹介するためだ。男性同士の恋愛である。現れた兄は、懐かしいあの「ゆたちゃん」(浅生礼史)だ。スタジオソルト屈指の名作『7』(2007年 122016年)に登場し、『柚木朋子の結婚』(2014年10月11月)では職業などの設定は変わっていたが、心優しく、いつも一生懸命なところは以前のままだ。ひとりの人物を複数の作品で活かし続けることが素晴らしい劇的効果を上げている。根本修幣は劇中のピアノ演奏、作曲を担って大活躍だ。

 #3「わたしはたまご」・・・カフェにいるのは森山家次女あきら、同棲中の彼(舛添純介)である。幼い息子を置いて出奔した母(みとべ千希己)が来るのを待っているのだ。あきら役の木村衣織は目の動きや表情の変化など、ありきたりでない繊細な演技で、壮絶と言ってよい幼少期を生き抜いてきた彼と、その要因となった母の再会を目の当たりにした衝撃と葛藤を経て、ある決意をする過程を確かに表現する。

 #4「ミモザ」・・・これまでの物語、登場人物たちが一堂に会する終幕である。「あのときのあれはどうなったのか」等の疑問は多少あるものの、明るく気持ちの良い締めくくり。人々の来し方、これからの歩みを想像し、しみじみとした思いで帰路に着いた。

 劇中で実際にものを食べたり、音楽や歌唱、ダンスの場面(ダンスを始めるまでのあれこれ)がいささか冗長とは思う。しかしさまざまな趣向を施すところに、「手練れ」や「老練」の手並みを見せず、何より嫌味にならないことこそ、スタジオソルトの魅力ではないだろうか。懐かしくも新鮮な舞台は清々しい。『7』で控えめに導き、『柚木朋子の結婚』にひょっこりと再び顔を出した「ゆたちゃん」が『うたかた』へ、客席の自分の夢を繋いでくれた。スタジオソルトと出会えた幸運と、出会ってからの年月を改めて噛みしめている。
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