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Shakespeare, from Romeo and Juliet

ウィリアム・シェイクスピア (1564-1616)
『ロミオとジュリエット』より

ロミオ
罪深いぼくの手で、神聖なおからだを
汚してしまったらごめんなさい。できるだけやさしくふれてますし、
もし傷つけてしまったなら、赤い顔した二人の巡礼……
のようなぼくの唇が、すぐにやさしいキスで治します。

ジュリエット
巡礼さま、ちょっと手に対していいすぎです。
あなたの手は、控えめながら立派にお勤めを果たしています。
聖人の手は巡礼がふれていいものですし、
手と手をあわせることは清らかなキスのようなものですし。

ロミオ
聖人さまは唇を使わないのですか? 巡礼も唇を使ってはいけませんか?

ジュリエット
もちろんいいですよ。お祈りには必要ですし。

ロミオ
では聖人さま、手がしていることを、唇でしてもいいですか?
祈りますから応えてください。でないと、信仰が絶望に変わってしまいます。

ジュリエット
わたしは動けませんが、祈りにはお応えします。

ロミオ
では、しばらくじっとしていてください。祈ってご利益をいただきます。[キスする]
これでぼくの唇から罪が消えました。あなたの唇によって。

ジュリエット
じゃ、その罪はわたしの唇に来たのね。うつっちゃった。

ロミオ
うつっちゃった、って、かわいすぎ! 悪に誘いすぎです!
その罪、やっぱり返してください! [キスする]

ジュリエット
うふ、キスしてるのに、なんだか、まじめなことしてるみたいだね。

乳母
お嬢さーん! お母さまがお話ですってよー!

*****
William Shakespeare
From The Tragedie of Romeo and Juliet

Rom.
If I prophane with my vnworthiest hand,
This holy shrine, the gentle sin is this,
My lips to blushing Pilgrims did ready stand,
To smooth that rough touch, with a tender kisse.

Jul.
Good Pilgrime, you do wrong your hand too much.
Which mannerly deuotion shewes in this,
For Saints haue hands, that Pilgrims hands do tuch,
And palme to palme, is holy Palmers kisse.

Rom.
Haue not Saints lips, and holy Palmers too?

Jul.
I Pilgrim, lips that they must vse in prayer.

Rom.
O then deare Saint, let lips do what hands do,
They pray (grant thou) least faith turne to dispaire.

Jul.
Saints do not moue, though grant for prayers sake.

Rom.
Then moue not while my prayers effect I take.
Thus from my lips, by thine my sin is purg'd.

Jul.
Then haue my lips the sin that they haue tooke.

Rom.
Sin from my lips? O trespasse sweetly vrg'd:
Giue me my sin againe.

Jul.
You kisse by'th' booke.

Nur.
Madam your Mother craues a word with you.

* * *
ロミオとジュリエットが交わす最初の対話で、
それがソネットになっている場面。Then moue not の
行まででソネットひとつ。

[T]his-kissの脚韻を二人でくり返しているところなど、
出会ったばかりなのに、すでに両想い的な関係に
あることを暗示。(このthis -kissのところで、
シェイクスピア式ソネットの脚韻パターン
ababcdcdefefggが崩れている。)

Thus from my lips の行から二つ目のソネットが
はじまっているが、おじゃま虫な乳母のせいで中断。

*****
(訳注)
(行数は、If I prophaneの行を1行目としてカウント。)

2 shrine
聖人の遺物など、神聖なものが収められて
いる箱など(OED 2a)。ジュリエットの聖なる
魂が入っているからだ、というニュアンス。
聖人像(OED 5b)。

2 gentle
ジュリエットの手をロミオがにぎる、その
にぎり方をあらわすことば。
[G]entle touch - tender kiss という対応関係。

(話の流れでroughともいわれているが。)

9-11
[T]oo, doの脚韻がポイント(doは行内でも
くり返されている)。/u:/ でキスを求める口の
かたちになる。

18 the booke
聖書(OED 5)。聖書にしたがって =
いいこと、りっぱなことをしているかのように。
(「ホントはちょっといけないことをしている
はずなのに、えへ」、みたいな。)

*****

いっていることはとても簡単。

ロミオ
手にぎっていい? 手にキスしていい?

ジュリエット
うん。

ロミオ
ね、唇にもキスしていい?

ジュリエット
えっと・・・・・・うん。

これを、巡礼と聖人像に関する比喩に発展させているが、
その比喩が上手とはいえないところが、この劇にとっては
大切と思われる。十代そこそこの男の子・女の子が、
詩として完璧に洗練された言葉を交わしたら、とても
不自然。

現代でいえば、十代の男女のアイドルがあまり上手とは
いえない演技をしていて、でもそれが初々しくていい感じ、
というのに近いのでは。

*****
英語テクストは、Shakespeare's First Folioより。
http://www.gutenberg.org/ebooks/2270
改行、パンクチュエーション、スペリングなど、若干修正。

20180807 修正

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