7歳の種雄馬が昼前から疝痛。
昼過ぎに来院して、超音波検査で小腸の肥厚した部分が見え、内容が多い部分も見えた。
開腹したら、空腸がどこかに入り込んでいるように触る。
引き抜こうとするが、素直には抜けてこない。
入り込んでいる先のループをガス抜きして、引張るとなんとか抜けてきた。
しかし、抜けるというより最後はほどけたのが感じられた。
ループ同士が絡んだ纏絡だったようだ。
volvulus とは腸間膜の長軸について回転してしまうことを言う、と定義している文献もある。
「捻転」とまとめて呼んでも良いが、さらに分類して呼ぶなら「纏絡」とするのが良いと思う。
纏(まと)わりついて、絡(から)む、のだ。
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ほどけてしまえば後は切除と吻合。
腸管を評価して切除する範囲を決める。
腸間膜の血管を結紮し、腸間膜を切断する。
膨満させている腸内容を棄てるために、腸管を術創から離して切断する。
内容を棄てたら腸鉗子をかけて、吻合する。
切断したら、反吻側 aborad の粘膜と粘膜下織の色調が良くなかったので、さらにもう30cmほど切断した。
その部分でも粘膜の色調は暗赤色。
しかし、漿膜面の色調は悪くないし、断面の筋層は大丈夫そうだし、腸間膜の拍動は強いし、腸管を指ではじくと収縮する。
これ以上切除部分を長くしたくないので、ここで吻合することにした。
1層目は漿膜ぎりぎりから針を入れて、粘膜面に針を出して連続縫合する。
2層目は、漿膜面に針を入れて、筋層をひろって、漿膜面に針を出す。大きくはひろわず、針は切断部に平行か、すこし「ソ」のように走らせる。
そのことで、外から見ても糸は見えない。
単純な Albert-Lembert縫合ではないので、内反は大きくなく、縫合部に粘膜が顔を出していたりしない。
もちろん内容の通過は悪くなく、漏れもない。
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N.A.White先生の有名なEquine Acute Abdomenの小腸吻合の写真。
私の方がていねいで上手で工夫されているのは明らかだ;笑。
Gambee とか layer to layer とか文章でわかる人はすごい。動画でないと無理そうだ。
さすがのamazonにも練習用の腸管モデルはないようですが、みなさんどうやって練習するのでしょ?
耐久性も自信ありな仕上がりでしょか?
人のは練習用のゴム製やシリコン製があるようですよ。動物は解剖体で練習するのが良いと思います。
もちろん耐久性も考えています。漿膜だけひろっている人がいますが、それは危険だと思います。
犬や猫では単純全層結紮縫合が推奨されていて、私もそうしますが、糸目がピンピンでてあまり美しくはありません。日頃やる手術は切り取ったり、摘出したりして終わることが多いので、切り離してまたつなぐ手術は緊張します。ところで、糸はなにをつかわれるのですか。
今は、腸管の状態によっていくつもの吻合方法を選んでいます。狭窄させない、漏れない、汚さない、etc.の目的を果たす縫合方法はその腸管の状態によってかわって然るべき、と考えています。
糸は成馬では2-0monocrylです。子馬なら3-0monocrylかな。
monocrylが速く融けるので問題が起こったと感じることはまずありません。
腸管吻合の糸は、もっと速く消えたほうが良いのかもしれません。癒合した腸管は収縮弛緩してくれますが、糸が残っていると広がれないでしょうから。
値段はわかりませんが、Caprosynは吸収されるのがより速いので、もしかしたらいいかもしれませんね。
monocrylを選んでいるのはPDSより安いからで、診療所を運営していくためには経費も考えなければなりません。
腹壁もmonocrylで大丈夫だ、とケンタッキーの馬外科医に教わりました。
縫合糸は目的さえ果たせれば、細く、速く消えてくれた方が良いのも事実でしょうね。
縫合糸の選択で疑問を持つことが多々あるので、色々な側面から考えて正しい選択ができるようにしていきたいです。