馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

コアカリ「馬臨床学」2

2014-04-29 | 図書室

Photo_2獣医学教育モデル・コア・カリキュラムが策定され、これにしたがって獣医学教育を行うことが始められている。

6-7割りはこの内容を教えてください。

それ以外は各大学の特色で結構です。

学外実習へ出る前には共用試験を行って、それに合格した学生には学外で参加型実習できる資格を与えます。

というのが、 コアカリ事業の概要だろうか。

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「馬」をコアカリの中に残すかどうかは議論があったらしい。

「産業動物」の中に含めるので良いではないか。という意見も多かったのだろう。

しかし、多くの科目でそうなのだが、牛について教え、豚について触れ、ついでに「馬についても」となっていても、実際には馬については教えられずに終わってしまう。

だいたい海外では「産業動物」としてくくられることはないように思う。

Small animal.  Equne.  そして、Food animal という分け方だ。

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動物種の違いというのは大きくて、解剖構造や生理が違うので、当然、病理・薬理も違ってくる。

これが獣医学のたいへんなところで、医学・薬学でもコアカリは行われているが、コアカリに示されたポイント数は、獣医学の方が医学・薬学より多くなっているそうだ。

獣医学科の学生や教員は医学の学生や教員より優秀なのか?(笑)

臨床となると、動物種が違うと現実にはほとんど歯が立たない。

病気が違い、生理反応が違い、薬の投与量が違い、使える器具や技術が違うからだ。

紆余曲折のあと、「馬臨床学」がコアカリに残されたことは馬関係者として喜ぶべきことなのだろう。

そのポイント数は魚病学よりはるかに少ないのだけれど;涙。

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が、「馬臨床学」を馬の臨床に必要な知識をすべて網羅した教科書として書くことはできない。

コアカリではポイント数に準じてテキストのページ数が決められていて、「馬臨床学」ではせいぜい120ページほどになる。

現代の馬の臨床を120ページで網羅するのは無理だ。

そして、他の科目、例えば解剖学、生理学、病理学、薬理学、伝染病学、などにはそれぞれ「馬」についての項目が含まれている。

重複しても構わないとなっているが、ページ数が限られているので、他の科目で教わるものはそちらで勉強してくださいということになる。

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「馬臨床学」も器官別に書くことが決まっている。しかし、これも勝手に増やすことはできないので、神経病、皮膚病、などは含まれない。

そんなこともあって、あくまでコアカリテキストであって、馬臨床家が診療する上で紐解いて参考にできる教科書ではないのだけれど、少なくともこれからの新卒獣医師は馬の臨床についてこれだけのことは学んで来るという指標になっている。

そして、思えばわれわれが学んだ数十年前の家畜内科学、獣医外科学、臨床繁殖学から内容は大きく変わっている。

馬臨床家の皆さんにも目を通していただければと思う。

(つづく)


難産な夜

2014-04-29 | 繁殖学・産科学

10:38に起こされる。

難産、頭失位、両前腕節屈曲、そして後肢も産道に入ってきているとのこと。

近くの牧場なので急いで準備しなければならない。

難産介助器具の用意。

全身静脈麻酔の準備。

直腸検査用カッパを着て、手袋をはめて、etc.

11:05 準備が全部終わらないうちに馬が到着した。

すぐに倒馬する。

プロポフォールを使いたかったが、使い慣れたTIVA(Total IntraVenous Anesthesia 全静脈内麻酔)にする。

頭部失位は牧場で治してきたとのこと。

だが、まだ羊膜は破れていない。へんなお産だ。

腕節を伸ばさなければならない。

なんとか片方直す。11:20

あらためて産道を触ると後肢がしっかり入って来ている。

どうも胎仔の姿勢もおかしい。

それでも鼻がヒクついて生きている。

「大事な馬なら帝王切開したほうが良いかもしれません」

「そうして下さい」

ということで、他の当番獣医師を呼び出す。

新生仔の蘇生もあるので人手が必要だ。

手術台の用意、吸入麻酔の準備、帝王切開の道具の用意、etc.

術野の消毒を始める。11:30

11:50には手術開始。

ふつうは子宮の中の胎仔の飛節を探してその上の子宮を切開する。

が、後肢もすっかり産道へ向いているらしい。

仕方がないので、血管が少ない部分を切開し、子宮の中から後肢を引っ張り出す。

産科チェーンをかけてホイストで吊り上げて胎仔を娩出させる。

胎仔は飛節が曲がり、腕節が伸びず、背中も湾曲していた。

それでこんなひどい難産になったのだろう。

馬の帝王切開では子宮壁からの出血が多い。

子宮壁の血管を締めるように子宮壁をひろいながら子宮を縫合する。

あとは腹腔に抗生物質を入れて閉腹する。

終わって12:45。

覚醒室へ運び出す。

器具の片付け、診療室、手術室の掃除、洗濯、ざっとカルテを書いて、1:20。

1:50には馬が動き出したが、まだ眼球脳振盪している。

2:10 馬が伏臥して起きようとするが、前肢が立てない。

その後も何度が立たそうとするが、前肢が立てない。

どうも立ち上がろうという意欲に欠ける。

2:45 馬の耳元で携帯のヴォイスレコーダーに録音しておいた馬のいななきを聞かせたら、顔つきが変わって立ち上がった。

入院厩舎へ歩かせて2:55。

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今朝6時前に診察すると低体温(35.7度)、ずっと軽度の疝痛があり震えたり不穏感があったとのこと。

高張食塩液を1リットル投与したら水を飲んだ。

その後、オキシトシンを混ぜた酢酸リンゲルを点滴する。

フルニキシンを投与したら不快な症状は見せなくなった。

排尿し、草を食べるようになった。

あとは後産が出れば退院しても大丈夫だろう。

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今日は、子宮穿孔した繁殖雌馬の安楽殺。

競走馬の腕節の関節鏡手術。

黒毛和種子牛の細菌性精巣炎?

腸炎の新生子馬の入院。

午後は当歳馬の臍ヘルニアの手術。

帝王切開馬の胎盤を少しだけ牽引して陰部から出し、重りをぶら下げて、オキシトシンを投与した。 

                         ///////////////

P4286128とうちゃん

さ・ん~~~ぽ

いくべ

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P4296129あ~

すっきりした