ひどく痛かったが、どこが痛いのかわからなかったとのこと。
不完全骨折だったのだろう。
ただ、来院したら右前肢がブラブラしている。
あわてて飛んで行って、私が抱えて診療室に運びこんだ。
骨幹部やや遠位よりの骨折で、骨折部はほとんど変位しておらず、骨片もない。
「これなら治せるでしょうし、競走馬にするのもあきらめたものではありません」
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しかし、使うプレートやスクリューを選んで、器具も滅菌しなければならない。
ところが、子馬は暴れるし、母馬も心配なのかそばでうるさくしている。
骨折端が皮膚を突き破って開放骨折になったら感染のリスクが膨れ上がる。
ただでさえ感染しやすい新生子馬なのだ。
鎮静剤を投与し、手術台に乗せて吸入麻酔を始める。
仰臥で上へ肢を吊っているが、中手骨は曲がっている・・・・
器具の滅菌を待って、透視装置で見たら、かなり変位してしまっていた。
皮膚の上から骨折端を感じながら、なんとか変位を整復しようと試みる。
完全に整復できれば、minimally invasive surgery と呼ばれる方法で、皮膚を大きく切開はしないで、プレートを皮下に押し込んでおいて、穿刺切開でスクリューを入れる方法で手術できる。
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肢をかなり牽引してもらい、透視装置でズレを直すことで何とか変位を整復できた。
プレート固定するのだが、操作中に骨折端がまた変位してしまうとやっかいなのでlag screw を入れて仮止めする。
プレートは中手骨の背外側にナロー(幅が狭い方のプレートで、スクリュー穴が一列に並んでいる)LCP(ロッキングコンプレッションプレート)を入れることにした。
プレートの両端になる部分の皮膚を切開し、器具を差し込んで皮下にトンネルを作る。
そのトンネルに9穴のLCPを差し込む。
まずは皮質骨スクリューを近位側に1本入れる。
それから皮質骨スクリューを遠位側に1本、骨折部にコンプレッションがかかるように入れる。
仮止めのスクリューは抜いた。
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あとは、近位側と遠位側に交互にLHS(ロッキングヘッドスクリュー)を入れていく。
反対側の皮質も突き抜ける長さのLHSを選ぶ。
その方が固定が頑丈になるからだ。
新生子馬の骨は細くて柔らかくて、ドリルで穴を開けるのも楽だが、その分弱い。
LCPにLHSを入れるとプレートとスクリューは角度が固定されるので、今までのDCP(ダイナミックコンプレッションプレート)による固定より3倍ほど強いとされている。
(LHS3本と皮質骨スクリュー1本)
骨折部より近位側に5本。
(LHS4本と皮質骨スクリュー1本)
で内固定できた。
あとはプレートとスクリューの周りに抗生物質を流しておいて、皮膚縫合した。
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子馬が立ち上がるときは気を使った。
赤ちゃんなので立てないで乳が飲めないとへばっているかもしれなかったが、上手にしっかり立ってくれた。
歩けるようだったが、途中から抱えてトラックまで運び、母馬と一緒にして乗せた。
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今日は、余裕があったのでたまっていたカルテを整理して提出した。
机に余裕ができて(笑)
デスクシートに挿んだ絵葉書が見えてきた。
とても大切にしている。
立位で球節の関節鏡手術をしているのはRichardson先生。
そのRichardson先生からのコメントはまた今度。