私たち臨床獣医師は何から情報を得ているだろう?
学生は大学で教科書と講義で学ぶ。
しかし、馬臨床家が学びたい馬の臨床については日本語で書かれたまとまった成書はない。
英語では優れた成書もあるし、多くの専門学術誌が発刊されている。
しかし、それらを読み込んでいる馬獣医師は多くはない。
馬臨床家にも学会や講習会で学ぶ機会があるが、身近な症例に役立つ情報だとは限らない。
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同じ仕事をしている同僚や先輩から聞く情報は手短で有用なので、それに頼っている臨床獣医師が多いのではないだろうか。
耳学問というやつだ。
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那須の研修でも、講義や実習よりざっくばらんに聞きたいことを尋ねて答えてもらったとか、
知らない情報を教えてもらったことが良かった。という感想を聞く。
職場や職域を越えて、馬臨床に関係するものが集まることでその価値が生まれる。
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ただし、耳学問という言葉は良い意味で使われてはいない。
「人から聞いた」「聞きかじった」「間違いを含んだ、中途半端な知識や情報」
という意味で使われることが多い。
私は、人に聞いて教わることは馬鹿にしたものではないと思う。
ただ、人に聞くだけでなく、そのことを成書や文献で確かめてさらに幅広く深い正確な知識にしていく必要がある。
そうすれば、耳学問も、ただの耳学問ではなく、それ以上のものにしていける。
しばらく、耳から聞く情報の価値と問題点について考えてみたい。
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那須で、「開腹手術のオプションはない(開腹手術はできないので選択肢にない)」という意見、言い訳、泣き言を聞いた。
麻酔器はあっても手術室はない所もあるし、
手術室はあっても吸入麻酔器がないところもある。
しかし、生産地には麻酔器も手術室も無かった頃に、放牧地の脇で静脈麻酔でやった開腹手術で馬が助かった逸話も残っている。
私は大学生の頃、重種馬の種馬の鼠径ヘルニアを外科の先生が入院厩舎で静脈麻酔で手術したのを観た。
その馬は、たしか麻酔が覚めずに死んだけど・・・・
先日の夜中、私が手術した結腸左背側変位(腎脾間エントラップメント)の手術時間(切り始めてから縫い終わるまで)は30分かからなかった。
時間的には静脈麻酔でもできただろう。
手術しなければ苦しみの中で死ぬしかない馬なのだから、まず第一歩は獣医師のやる気の問題なのではないか。
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左図は開腹手術時の人の配置。
Equine Acute Abdomen 1st ed. より。
私のところではO.R.Technicians (手術室助手)はいない。
Asistant Surgeon(手術助手)も居ないことの方が多い。
O.R.Nurse(手術室看護師;外野)は居て欲しいが、居ないこともある。
それでも、やるときはやる。
無理も無茶もわかっている。
やらなきゃ馬は苦しみぬいて死ぬしかない。