結腸捻転で結腸の虚血性壊死が進行し、左のようになってしまうと、結腸を温存して助かると考える馬外科医はいない。
「残念ですが、助けられません」と言うしかない。
ただ、ひとつ方法がある。結腸を亜全摘し、腹側結腸と背側結腸を吻合するのだ。
しかし、かなり厳しい状態であることに違いはない。
こういうふうになってしまっているときは、全身状態もひどく悪く、また汚染させずに結腸を吻合するのは不可能に近い。
チャレンジするなら、結腸動脈を3重にしっかり結紮する。浮腫を起こした組織の中にあるので用心が必要だ。
腹側結腸も背側結腸も一気に切ってしまう(左)。
助手は結腸が腹腔内へ戻ってしまわないようにしっかり持つ必要がある(右)。
術者は手早く、なおかつ糞汁が漏れないように、浮腫をおこして肥厚した結腸同士を吻合する。Connellと呼ばれる縫合法が適しているとされている。
結腸捻転はたいてい盲腸も巻き込んで結腸の根元で起こるので、結腸の根元も傷んでいる。しかし、最も根元の部分は切除できない。
幸運にも結腸の根元が傷んでいないか、あるいは傷んでいても壊死を免れるかは症例による。
いずれにしても重症になると、結腸を温存するより切除・吻合したほうが生存率は高くなると考えている。
重症の結腸捻転の場合、結腸を温存すると手術後数日全身状態は著しく悪化し、抹消血中の白血球数は極端な減少を示す。
しかし、今まで結腸を切除した症例では、その程度が軽かった。
損傷している場合は切除する。という小腸捻転の場合の原則は、結腸についてもあてはまるのだ。
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ただ、悪化してしまっている全身状態を立て直すのは非常に厳しい。だいたいPCVが60%を越えて生きていられるのが不思議なのだ。
採血針を通りにくい血液がどうやって抹消の毛細血管を通過しているのか?
循環血液量の減少はショックと呼ぶべき状態になっている。壊死した組織からのカリウムは心臓を止める。過剰なカリを排泄するための腎臓は脱水のために働かない。乳酸アシドーシスは全身の機能を失わせるレベルだ。電解質の異常は筋肉の機能を奪い、覚醒後も立つことができない。
結腸切除の手術中に死んだ馬もいる、覚醒室で死んだ馬もいる。入院厩舎まで歩いていった後、死んだり肢を折った馬もいる。
しかし、結腸切除して助かった馬は、切除・吻合しなければ助からなかった馬なのは間違いない。
一番上の2枚の写真の壊死した結腸の馬も、それぞれ結腸切除し生存した。
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この2歳馬は某有名種馬の全兄弟で、USAから輸入されてきた。彼女はこの馬についてUSAからやって来た。
疝痛で運ばれてきて、開腹手術したがひどい結腸捻転だった。
「普通ならあきらめる。しかし、特別な馬なのはわかる。やれるだけのことをやってみるか?」
結腸を切除・吻合したが、術後36時間立てなかった。
その頃は吊起帯も用意していなかった。
立ちそこねて、股関節をいためたようだった。
立てないまま、その頃一つしかなかった覚醒室を占拠していた。「あなた達があきらめない限り、僕らは最後まであきらめない。でも、手術しなければいけない他の馬が来たら、そのときはあきらめてくれ。」
二晩目の夜が明ける頃、馬は自分で立ち上がった。「さあ今のうちに入院厩舎へ移そう!」
その後すぐに、別な疝痛馬が運ばれてくる連絡が入った。立つのが後1時間遅れていたら安楽死を決断するしかなかった。
入院厩舎まで馬を歩かせたとき、雨があがった夜明けの空には虹がかかっていた。
「虹の橋のたもとには幸せのポットが埋まっているって言うのよ」と彼女が言った。
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ほっぺスリスリは、退院して牧場でのリハビリ中の写真。
その後、紆余曲折を経て、この馬は競走したのち繁殖雌馬になった。
彼女は事情があって牧場を離れた。
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余話。
この手術からかなり経って、彼女が骨折したと聞いた。彼女のハズバンドに聞くとなんとあの馬に蹴られたのだという。
「どうして!あんなになついてたのに!」
「わからない・・・・・・そう、they are women (あいつら女だから)」