真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「独身OL 毎夜の指あそび」(1994『特殊性技 ONANIEテレフォン』の1997年旧作改題版/企画:サン企画/製作:Gプロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:市村譲/脚本:夢野春雄/撮影:立花次郎/撮影助手:太田純/照明:堀川春峰/編集:酒井正次/音楽:東京スクリーンサービス/録音:銀座サウンド《株》/効果:サウンドChip/スチール撮影:最上義昌/現像:東映化学工業《株》/出演:麻生雪・谷口眞樹・西野奈々美・野上正義・石津雅之・太田始・大矢信二・神戸顕一)。
 王冠開巻から、点描の電話機にチャッチャとタイトル・イン。タイトルバックはエロ写真の数々、に反して。ホンワカした劇伴が、サザエさん感覚のホームコメディ調。この辺りの、清々しくぞんざいな選曲が早速堪らない。ある意味、量産型娯楽映画といふ奴は却つてそのくらゐでちやうどいいやうに、時に勘違ひしなくもない、別の意味かも。何処ぞの編集部、ネクタイを締め机も与へられる編集者の弘美(石津)と、弘美に対する呼称が“先輩”の割に、服装はカジュアルでポジションがよく判らないイラストレーターのめぐみ(西野)が、三ヶ月カナダに長期出張するタケダ(一切登場せず)のマンションを、その間弘美が留守番する基本設定を投げる。その夜、一旦帰宅した上で、弘美が向かつた件のマンションが現存する「秀和深川森下町レジデンス」。とか、いふ前に。弘美の退社時、だから漆黒に暗いのに、相ッ変らず照明を全く使はない雑居ビル出入り口。闇の底から浮かび上がるかの如く、石津雅之が往来に現れる唐突なカットが、地味にか実に市村譲的。この期に及んでよくよく勘繰るに、市村組でしか見かけない堀川春峰なる作為も感じられる名義の照明技師の実在自体、見るから市村譲の変名臭い夢野春雄含め何気に疑はしくはある。つい、でに。jmdbには助監督として記載のある佐々木光が、本篇クレジットには見当たらない。逆からいふと今作以外に参加してゐない―とされる―佐々木光も、そもそも怪しいといへば怪しい。
 閑話休題、一風呂浴びた弘美が晩酌をキメようかとしたところ、謎の女からテレフォンセックスを仕掛ける電話がかゝつて来る。主演女優はバイブも持ち出し、双方ワンマンショーを大完遂。弘美は翌日も完全無料テレクラを被弾、何某かに囚はれてゐさうな様子をめぐみからは訝しまれつつ、半裸で電話を待つ三日目の夜、その生活。尤も着信音は鳴らぬまゝ、壁越しに聞き覚えのあるリアル嬌声が聞こえて来た弘美は、何階なのか知らんけど果敢にもベランダ越しに痴態を目視。特殊性技を駆使しはしないONANIEテレフォンの主が、実は隣家の斉藤りえ(麻生)である恐るべき世間の狭さを確認する。
 表記込みで、クレジットに役名を併記して呉れるのは本当に助かる配役残り。野上正義は、りえ曰く弟が起こした交通事故を出汁に、りえを―性的に―脅迫する横山、建設会社社長。社長といつて、婿養子で家では戯画的な嬶天下をカマされる横山の、妻といふか要は主人・あやこが谷口眞樹。どうも本職俳優部には見え難いニュートラルな大矢信二と、太田始は刑事BとA。神戸顕一は絡みひとつこなすでなく、クライマックスへの送りバントも決めるにせよ、めぐみと超絶どうでもいい会話に終始する編集長。流石に、神顕を連れて来るほどの役かと首を傾げた。
 全体何のものの弾みか間違ひか、この期にバラ売りex.DMMに新着した市村譲1994年第三作、間違ひとは何事だ。インターフィルム経由の国映系は月額にもガンッガン新着、ex.DMMが結構アツい。といふか、これインターフィルムはものによつてはバラ売りと月額同時に放り込んでゐないか?天晴な潔い姿勢を、他社も見倣つて欲しい。
 再度、閑話休題。未見の市村譲が見られると、脊髄で折り返して飛びついた粗忽の塊は何を隠さうこの俺なのだが、如何にも市村譲らしいといへばそれまでの、一言で片付けるとまあ漫然とした一作である。スカパーで放映されてゐた形跡も窺へるものの、量産型娯楽映画に一欠片の愛着なり造詣もなく視聴し―てしまつ―た素面で不憫な御仁の、お気持ちを慮るや止め処なく流れる涙も禁じ得ない。といふか最後まで見通した人間が果たしてどれだけゐるのであらうか、我慢して。最低限形ばかりのオチにどうにかかうにか辿り着くとはいへ、何時まで経つても満足に起動しない物語。印象の薄い主演女優と、明確に魅力に乏しいボサッとした男主役。弘美がりえを特定する件では、カット毎に弘美がジージャンを着てゐたりゐなかつたり。スクリプターの在不在以前の問題、精々三日で撮影してゐた筈なのに、スタッフ・キャスト共々、全員記憶媒体をトッ外して撮つてゐたのか。画的に最も特徴的なのは、極端に暗い画面は―あくまで―然程目立たず、代つて何処に誰が映つてゐるのだか暫しといふのが本当に暫く判然としない、ぼんやりとした雑踏のロング。斯くも頓着ない映画を平然と生み出す、生み出せる姿勢が、寧ろ羨ましくさへなりかねない市村譲の仕事。さう捉へる時、とかく世知辛く余裕を欠いたこのクソ時世、市村譲に敢て触れる意義が、辛うじて見出せるのかも知れない、牽強付会といふ言葉知つてるか?唯一正方向に評価し得る点は、遂にビリングさへ無視。三番手であるa.k.a.草原すみれこと西野奈々美を、堂々と持つて来た締めの濡れ場。構図から意外とダイナミックな騎乗位で躍る西野奈々美のパンチのあるオッパイは、現代でも些かの遜色なく通用しよう。

 佐々木光に関して疑つた筆の根も乾かぬ内に、今度は手の平返して鵜呑みにする神経も我ながらどうかとは思ふが、恐らくピンクの戦歴は全四作となる麻生雪にとつて第三戦。順に初陣が珠瑠美1994年第四作「過激!!同性愛撫 蜜の舌」(主演:柴田はるか)、第二戦が同日に封切られたとされる珠瑠美次作「出張ソープ 和風不倫妻」(主演:神代弓子《イヴ》)。特オナ挿んで最終戦も、市村譲次作「超変態 女体肉実験」(主演:西野奈々美)。珠瑠美と市村譲で二本づつ、凄まじいフィルモグラフィーであるといふのと、それでも、あるいは一応、今作が唯一の主演作に当たる。全く以て、だから印象は薄いのだけれど。


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 「巨乳発情 揉みまくり」(1995/企画:サン企画/製作:Gプロダクション/配給:大蔵映画/監督:市村譲/脚本:夢野春雄/撮影:立花次郎/照明:堀川春峰/制作進行:夏川登/助監督:山中年行/編集:酒井正次/録音:シネキャビンRC/音楽:東京スクリーンサービス/効果:サウンドボックス/フィルム:日本アグファゲバルト《株》/現像:東映化学《株》/出演:風間晶・九文志津・福乃くるみ・石津雅之・平岡きみたけ・羽田勝博・神戸顕一・野上正義)。企画と製作はjmdbからのみで、配信されてゐる限りの本篇には見当たらない。
 タイトル開巻、の更にその前。大蔵時代の王冠と、流星群がOP PICTURESのロゴに集結する現行とを繋ぐ、微動だにしない白黒OP開巻には意表を突かれた。この辺まで辿り着いてゐないだけで、動画配信する以前に小屋でも上映してゐたのかな。とまれ舞台は三浦半島の漁師町、太田仙次(石津)がプラッと落ち合つた漁協の事務員・久美(福乃)は、パチンコでスッてゐた。後々的に実は仙次は金を持つてゐる筈なのに、ホテル代に事欠いた二人は神社の境内にてパツイチ。カメラが少し引くと、思ひのほか無防備なロケーションで笑かせる。冒頭に飛び込んで来た三番手は、一絡みこなすや潔く捌ける。体操着にしか見えない扮装で、綺麗な空に向かつて歩く抜群のスタイルの女の後姿挿んで、ニヤッと目を細めた、羽田勝博の遺影の何気な破壊力。母親の去就は一切語られない、元漁師の父親・仙造(野上)と、仙次二人きりの夕餉。船を継ぐでもなくプラプラする仙次がいひだした久美との結婚を、仙造は適当に放任する。仙次の兄・仙太(羽田)は、恋人のたま(九文志津/前述した頭身の高い女)と結婚を約して出た漁から、帰つては来なかつた。狂ふてゐるのか、たまが今も波打ち際で仙太を待つ件からカット明けると、長閑な劇伴に遊覧船。東京から遊びに来た清水きらら(風間)とのぼる(平岡)の、船内でのテレテレしかしてない様子にダラダラ潰す尺は流石に何とかならないものか、市村譲相手に野暮をいふやうだが。コンビニの場所を尋ねた仙次の、高級腕時計にきららは目を留める。兄貴の、保険金成金とかいふ寸法。
 配役残り神戸顕一は、たまが一人で干して一人で売るひものセンターに、とんでもない不自然さで通りすがる観光客。役名併記のクレジット―激しく助かる―には“観光客”とあるが、少なくとも下の名前は顕一。
 DMMが月額動画には薔薇族か準新作―かロマポ―ばかり新着させておきながら、ピンク映画chスルーの旧作をシレッとバラ売りには放り込んでゐたりする―にしても、オーピーに限つた話ではある―不誠実な商売を難じつつ、さうはいつても見られるとなると突つ込まざるを得ない市村譲1995年第一作。見せてやんよ、足元を。因みにjmdbによると市村譲は1995年の全四作で、百二十本弱のキャリアを打ち止めてゐる。
 市村譲といふと矢竹正知に劣るとも勝らない、漆黒の画の暗さがとりあへず印象的。今回はただでさへ人工光に乏しい田舎町のよくいへば自然な夜をむざむざ被弾、俳優部の声はすれども姿は見えずなカットが、試しに部屋の灯りを落としてみても本当に全く見えない。これ小屋なら見えたのか?と戯れに問ふてみたところで、流石に見えまい。上手く騙くからせば前衛性にグルッと一周しかねないルーチンが、最早感動的ですらある。物語的には都会のあばずれに田舎者がチョロ負かされる、実も蓋も―ついでに工夫も―ない一篇かと思ひきや。思ひきや、である。一千万をきらりに渡して逃げられた仙次が、そのまゝ東京で月収百万に到達しようかといふトップ・セールスマンに何時の間にか成功。かと思ふと親爺は対照的に、仙次は乞食に身を落としてゐた仙造と再会、最終的に二人で三崎町に戻り改めて仙次は漁師を目指すとかいふよもやなハッピーエンドは、一手一手自体は何ら変哲ないものの、トリプルクロス的にどんでん返る展開の無造作さが途轍もなくてクラクラ来る。面白くは別にも何も欠片もないが、同時に果てしなくフリーダムな作劇であるのは違ひない。あるいは、壊れるなら壊れるでここまで派手にブッ壊れて呉れると寧ろ清々しいとでもいふか。裸映画的には、巨乳巨乳いふほどのオッパイといふよりは、パッツンパッツンに弾ける騎乗位の尻の方が訴求力が高く映る主演女優を押し退け、誰彼構はず寝ては、相手が誰であらうと仙太の名を呼ぶたまの濡れ場が偶さか正方向に機能するドラマの加速も借り案外煽情的。白旗を揚げ退散しようとする仙造の足に縋りつき、大股開きで観音様を擦りつけ絶頂にまで達する、何処でイクといつてまさかの脛イキは、凄えと思はず身を乗り出すくらゐにエロく、もしかするとポルノグラフィーに於けるひとつの発明なのかも知れない。


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 「女子大生 下半身淫行飼育」(1994『超変態 女体肉実験』の1998年旧作改題版/企画:サン企画/製作:Gプロダクション/配給:大蔵映画/監督:市村譲/脚本:夢野春雄/撮影:倉田昇/撮影助手:太田竜/照明:堀川春峰/助監督:丸山実/スチール:巴絵/録音:銀座サウンド/音楽:東京スクリーンサービス/編集:酒井編集室/効果:ダイナマイト/現像:東映化学《株》/出演:西野奈々美・麻生雪・吉行由美・辻斬かれん・森川美穂・野上正義・神戸顕一・樹かず・平岡彦・石津雅之)。
 大学で絵画を学ぶ斎藤早紀(西野)が画材を抱へて出撃し、役名併記の出演者クレジットが並走する。建物をスケッチする早紀の前を、これはパンツスタイルのドレス?ティアラも装着した、結構素頓狂な扮装の麻生雪が通過するストップ・モーションにタイトル・イン。絵を描く早紀の姿を麻生雪が遠目に注視するのは、早紀の認識で五日目。逆に早紀が尾けてみた麻生雪は、西村脳神経科病院の表で消失する!おいおいおい大丈夫かこの映画、と草を生やす暇も与へず、カット跨ぐと樹かずの声で西村脳神経科病院にようこそ。何故か全裸で寝かされた早紀が、瓶詰の胎児だとか如何にもな小道具も繰り出しつつ医者(樹)に嬲られる。何といふか、パンドラの箱が開いた感が堪らない。
 ところが一転、例によつて遠い遠いロングでガミさんがホテホテ登場するや、出し抜けに振り抜かれたキ印は暫し鳴りを潜め、百弐拾円が大金であつた時代の、多少キナ臭いホームドラマがそれなりに粛々と進行する。そんなこんなで配役残り、野上正義は、絵を嗜み始めた大学教授・大沼。吉行由美アテレコの辻斬かれんは、都合が悪くなると手話で話しだす大沼邸小間使ひ・さなえ、頼むからその手話は何某かの形で訳して欲しい。森川美穂が、大沼の限りなく情婦に近い一応絵のモデル・マリア。石津雅之は、物置に毛を生やしたやうな自室にさなえが連れ込む男で、大沼の娘・葉子(麻生)の顔見せと森川美穂の濡れ場挿んで、平岡彦が早紀の乳首や観音様に電極をとりつけて何事か測定してゐるぽいものの、一体何を測定してゐるのかはサッパリ判らない西村脳神経科病院の医者其の弐。そして吉行由美が、元生保レディで保険詐欺の前科持ちといふやゝこしい経歴の、大沼の後妻・久子。その実は事故死した大沼の前妻・あや(名前しか出て来ない)の保険金を狙ふ毒婦で、神戸顕一が実際の亭主。
 1994年最終第四作で、僅か八本ばかりの市村譲最終戦。何かトチ狂つたオーピーが小屋に放り込んで来れば別だが、現状DMMのピンク映画chに、新しい弾が追加される気配はない。さて最後に触れる市村譲はといふと、これが伝説的な狂作「ビデオガール 夢中女人」(1991/原案:桜井文昭/主演?:中川みず穂)には流石に及ばないとはいへ、なかなかにマッドな一作。マッドといつてマッドさをエクストリームな娯楽に昇華した訳では別になく、ただ単にマッドな一作。ある意味といふか逆の意味でといふか、ビデオガール共々、純粋にマッドな映画とはいへる。とりあへず、暗い画も終始適度な暗さをキープする、手堅い撮影部と五枚並べてなほ穴のない強力な女優部とに支へられ、裸映画としては尋常でなく安定する。殊にガミさんと吉行由美(現:吉行由実)による夫婦生活のどエロさ加減と、五番手にして西野奈々美(a.k.a.草原すみれ)に勝るとも劣らない森川美穂の超絶プロポーションは圧巻。序盤早々に脳病院なんぞ繰り出し、順調に暗雲の立ち込める展開は、久子が入つた、あるいは久子まで揃つた大沼邸に西村で拘束されてゐた筈の早紀も当初予定通り、大沼の絵の指南役として何時の間にか入つてゐたりする辺りで、実に市村譲的なへべれけさに一旦着地する。ところが葉子の父親に対する二人称が“貴方”である、拭ひ難い違和感―そもそも親に対してさうさう二人称を使ふまい―をまさかの箆棒な力技で解消する辺りから、いよいよ猟奇的な大風呂敷が本格的にオッ拡げられる、ものかと思ひきや。最終的には脈略と緊張感を綺麗に失して煙に巻かれたラストに、一見軟着陸にも見せて実のところは墜落する。奇想を軸に右往左往した果ての支離滅裂を見るにつけ、思ふに夢野春雄が本来編まうとした、久作の匂ひ漂ふ夢と現とが混濁した世界を、市村譲が全く理解してゐなかつたのではなからうか。黙つて女の裸にオッ勃てるもよし、案の定な木端微塵に屈折した安堵を覚えるもよし。様々な愉しみ方を許すといふ意味に於いては、無下に斬つて捨てるには忍びない。


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 「本番・衝撃の果て」(1990/企画:サン企画/製作:Gプロダクション/配給:大蔵映画/演出:市村譲/脚本:夢野春雄/撮影:立花次郎/照明:高橋甚六/スチール撮影:最上義昌/助監督:高橋純/録音:銀座サウンド/編集:酒井正次/音楽:東京スクリーンサービス/効果:サウンドBOX/現像:東映化工/出演:川奈忍・香園寺忍・森みなみ・本郷猛・黒田武士・松本喜・岡本輝夫・鈴木富左夫・山本純)。
 タイトル開巻、俳優部限定のクレジットが続く。不甲斐なさを理由に、チンピラの光二(本郷)が女にヤサを追ひ出される。公園での光二の回想を通して、機嫌がよかつた頃の小夜子(香園寺)の濡れ場を暫し見せ、ビリングには違(たが)ひ香園寺忍の出番は最初で最後。といつて、後述する森みなみも二回戦までこなすといふだけで、何れも純然たる濡れ場要員であるのに変りはない。未練がましくマンションの部屋の前まで一旦戻り、結局当てもなく踵を返した光二は、凄まじく遠い画で隣のビルの屋上に、これ見よがしに―といつて殆ど見えないのだけれど―佇む女を発見。そのまゝ下りて来た階段を駆け上がつた光二が、どうやつてだから隣のビルの屋上に入つたのかは兎も角。スーサイドを止めようとした光二を痴漢扱ひし騒ぎ出した下田か霜田か志茂田陽子(川奈)は、光二がヤクザ者であるのを看て取ると報酬は一千万、期間は三ヶ月以内、手段は安楽死での殺人を出し抜けに依頼する。光二は兄貴分を介し、話を鬼頭興業の親分(黒田)に通す。金を受け取つた親分は光二に、実際に仕事をする気は一切ないことと、殺す相手といふのがほかならぬ陽子自身であることを告げる。居た堪れなくなり親分が出した百万も受け取らず陽子を追つた光二は、摩天楼に誘はれた後、陽子宅にて据膳を頂戴。事後、陽子は健康診断で発覚した、余命幾許もない旨を告白する。
 配役残り、三番手にしては十二分以上に美人な森みなみは、親分の情婦。問題が、松本喜以降の男優部に全く手も足も出ない。劇中登場するなり見切れるのは、旧居の玄関口で愚痴を垂れる光二に、文句をいふ隣家のパジャマ氏。そこそこいい男の光二の兄貴分と、将棋の相手。摩天楼のバーテンに光二をシメる四人組と、陽子を捜してゐた医師、と看護婦。そもそも頭数が合はないが、もしかするとパジャマ氏と医師は二役かも知れない。
 淡々と市村譲1990年第一作、心優しきアウトサイダーと、残り時間の限られた女が出会ふ。束の間白夜の如き蜜月を生きた二人は、瞬間的にせよ未来に向かつて動き出す。医師がお定まりの蓋を開けて以降も綺麗にテンプレ通り、よくある話が更によくある展開を辿る輝かしいまでに類型的な、ある意味実に量産型娯楽映画らしい一作ではある。尤も、本郷猛が何をいつてゐるのか方々で聞き取れない口跡はへべれけながら、ルックスがストレートな男前であるゆゑ川奈忍とのツー・ショットが綺麗に形になるキャスティングの勝利と、正直スッカスカの物語には六十分でも長過ぎる尺を、何れも余計な意匠を持ち込まず正攻法かつ丁寧に撮り上げた濡れ場で繋ぐ戦法は、ピンク映画のお家芸。一欠片の新味もないにせよ、何となくそれなりに見させる。冷静に検討してみると最初の光二・ミーツ・陽子の件の途轍もない遠さが僅かに、市村譲らしい紙一重を超えて前衛性の領域にすら突入しかねないバイオレントな無頓着。単に壊れてゐないに過ぎぬのではないかといふ疑問は強ひてさて措き、案外普通の映画であつたので当てが外れるといふのも、我ながら屈折するにもほどがある話ではある。

 もう一点、一昨日な見所がエンド・クレジット。効果までは別におかしくも何ともないものの、以降がサン企画・夢野春雄・Gプロ・市村譲と来て最後に東映化工、なかなか見たことのない斬新な順番である。忘れてた、本郷猛が折角披露する階段落ちが、半分開いた、といふかこの場合正確には半分しか開いてゐないドアに遮られ殆ど見えないのは、俳優部の見せ場を見事に殺すあんまりなチャーミング。


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 「秘密桃さぐり」(1989/企画:サン企画/製作:Gプロダクション/配給:大蔵映画/監督:市村譲/脚本:夢野春雄/撮影:立花次郎/撮影助手:倉田昇/照明:沖茂/照明助手:中村登/助監督:浦谷純/編集:酒井正次/スチール撮影:最上義昌/音楽:東京スクリーンサービス/録音:銀座サウンド/効果:サウンドボックス/現像:《株》東映化学/協力:ホテル2001《小岩》/出演:山岸めぐみ・浅野美紀・上原絵美・今井かんな・京舞子・末永稔・黒田武士・手稲のぼる・吉岡圭一郎・松本嘉・高崎隆二)。
 ピンクチラシにタイトル開巻、クレジットを経て、手書き感が爆裂するかなめ探偵事務所の表札。さて室内、これが最初にして最大の衝撃。画面右手は襖、正面と左手はカーテンの一室を真正面中の真正面から抜く画角。家具類は何の拘りも感じさせずに配置され、中央奥に猫を撫で撫で椅子に座つた山岸めぐみを置き、その左前方―画面上は右手前―ではケミカルウォッシュにTシャツをタック・インした末永稔が、椅子に肘をつく格好でだらしなく地べたで雑誌を捲るのを、挙句に逆の意味で完璧に中途半端な距離で捉へる。全てが適当な圧倒的に無造作なショットに、グルッと一周どころかグルグル数周して度肝を抜かれた、バターになるかと思つた。猫のショパン(普通の三毛猫)は可愛がりつついきなり序盤から全速後進でマッタリする中、ベランダにて女探偵の眞美(山岸)と助手の三郎(末永)が致してゐると、かなめ探偵事務所を依頼客が訪れる。役名併記のクレジットに、やれやれ、見慣れぬ俳優部の配役を固定する最大の手間が省けたと胸を撫で下ろしたのも正しく束の間、クレジットでは速見とあるものの、黒田武士が眞美(苗字は要?)に渡した名刺には環境計画事務所の鈴木淳、そんなに情報を攪乱するのが楽しいのか。人を小馬鹿にした効果音とともに、脈略などといふ言葉は知らぬ長い長い回想パート。男女がああだかうだするホテル街での引いた画に、石川恵美のアテレコかと思ひきや何と前名義。鈴木は何もしないとホテルに連れ込んだ部下のまゆみ(上原絵美=石川恵美)を、ふん縛つて犯した末に「首吊つて死ね!」の捨て台詞を投げられ逃げられる。納まりのつかない鈴木は、部屋にあつた情報誌に目をつけホテトルを呼んでみることに。現れたリサ(浅野美紀/但しこの人こそ正真正銘石川恵美のアテレコ)を忘れられず捜して欲しいといふのが、何だかんだで序盤を完全に喰ひ潰す本題。本題といつて、本題といふほどの全うな展開をその後が追ふ訳でも全くないのだが。
 改めて配役残り、高崎隆二はてれんこてれんこリサ捜しを開始した眞美が、繁華街の雑居ビルにてリサの写真を見せ尋ねる、クレジット表記ママでマネジャー。その場でマネジャーにスカウトされた眞美が、探偵稼業も殆どそつちのけでホテトル嬢に華麗なる転身―もうヤケクソ―を果たすといふのがふざけ倒すにもほどがある。a.k.a.吉岡市郎の吉岡圭一郎は眞美の客・橋本、京舞子は橋本が過去に買つた、リサはリサでも天と地の地の方の風俗ギャル。首から下はさうでもないのに、顔だけいやに老けてゐる。松本嘉は―ホテトル嬢としての―眞美に興味を持つ、編集まで手掛けるカメラマンで、今井かんなは眞美について訊かれる同じ店のミキ。要は眞美とカメラマンを繋げば事済むポジションながら、普通に一戦こなす。となると全員脱ぐ女優部が総勢五名、盆暮れに掠らない―公開九月―にも関らず、闇雲だか藪蛇に豪華な布陣ではある。そして手稲のぼるが、リサが目下在籍する店の店長、兼情夫の藤木。
 DMMに残る弾も今作含め残り三本、正直ツッコミ処にすら欠く空虚なルーズさに果てしない徒労感を覚えなくもない、市村譲1989年第七作、因みにこの年全九作。寧ろ、あるいはこの際、平成の初めからこんなことをやつてゐて、この期にピンク映画が命脈を未だに保ててゐることが、実は途轍もないラックなのではあるまいか、とさへ感激しかねないまでに相変わらずグッダグダにグダグダな凡作。あるいは、堆く積もつた下手な鉄砲の大山の奥底、量産型娯楽映画が深い闇の中から繰り出す難解な逆説を玩味すべきなのか。中身のない映画の中身に無理から話を戻すと、本来潤沢な裸要員の頭数は、吉岡圭一郎以外―高崎隆二は濡れ場には与らない―ボロッボロの貧弱な男優部と、兎にも角にもメリハリを欠いた始終の中単なる羅列に堕する形で、まるで有難味を感じさせない。それと怒られるものでも映り込んだ―まさか市村組は前貼をも面倒臭がるのか!?―のか、始終絡みの最中にチョイチョイカットが飛ぶのが絶妙にして確実に居心地が悪い。結局リサには藤木がゐるゆゑ、鈴木の恋路?は叶はずじまひといふ結末自体も大概奮つてゐつつ、そもそも鈴木が中盤以降完全に退場したまゝ名前も出て来ない。何処かしら何かしら長所はないものか、どんな映画にも一箇所くらゐはチャーミングなところがある筈だ。所々で繋ぎを整へる―整へるも散らかるもない点は等閑視―ショパンのショット、御猫様もおとなしく、猫は普通に撮れてゐる。三毛猫好きには堪らない、のかも知れない一作、何だそのピンク映画(´・ω・`)


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 「露出狂妻 人前で汚されて」(1995『露出マニア 新妻を人前で』の1998年旧作改題版/企画:サン企画/配給:大蔵映画/監督:市村譲/脚本:夢野春雄/撮影:立花次郎/照明:堀川春峰/助監督:佐々木共輔/編集:酒井正次/録音:シネキャビン/音楽:東京スクリーンサービス/効果:サウンドBOX/現像:東映化学《株》/フィルム:日本アグファゲバルト《株》/タイトル:ハセガワ・プロ《有》/スチール撮影:尭春一朗/出演:風間晶・林由美香・羽田勝博・青木こずえ・かりん・久保新二・神戸顕一・丹羽健介・佐々木京介)。
 妙にズンドコな劇伴とともに、ブルーバックなタイトル・イン。高層マンション外景からハウススタジオ?を適当に舐めて、“現代ではSMも氾濫しちやつてSM風俗つていふやうに風俗化されちやつて”、“一般の人でもそれを一種の刺激剤としてプレイとして取り組んで楽しんぢやふといふか”とグジャグジャ語り口からへべれけな林由美香のナレーションが入る。何だか殆ど、演者が気の毒な気すらする。気を取り直して花島花子事務所、女流作家の花島花子(林)が、いはゆるマニアさん“再”夫婦の浩一(羽田)と広美(風間)にインタビュー。但し無闇に動くカメラどころか照明さへ安定しない、ここでは至つてどノーマルな夫婦生活に乗せてクレジット起動。きつかけは一切スッ飛ばした上で、緊縛だ強姦プレイだ、二人は花島花子いはく“派手なことやらかし始め”る、確かにやらかしてゐる。
 配役残り当然共輔と同一人物の佐々木京介は、横着にも私服で宅配に来るピザ屋、弾ける無頓着ぶりが別の意味で堪らない。玄関先で佐々共の度肝を抜く緊縛された広美の画が、何故かピントをボカしてある意味が一欠片たりとて判らない。登場順に、いはずもがなをいふやうだがリップシンク完無視の久保新二は、浩一と仕事上の付き合ひのあるAV監督、青木こずえがモデル嬢A。全員劇中ハーセルフ・ヒムセルフのかりんと神戸顕一と丹羽健介は、モデル嬢Bとカメラマンと男優。久保チン参戦前に戻つて、広美と浩一がリモコン式のバイブを持ち出し羞恥プレイを仕出かす件。喫茶店店内にてリモバを急起動された広美の様子に目を丸くする、魔法使ひみたいな風体のオッサンは不明、もしかしてこの御仁が市村譲なの?
 名作は勿論、迷作でもなく狂作「ビデオガール 夢中女人」(1991)のダウナーな興奮醒めやらぬまゝに、市村譲1995年第二作。jmdbによれば足かけ十六年、百本を優に超えるキャリアをそれはそれとして誇りはした市村譲にとつて、最終二作前に当たる。ビデオガールほど派手にブッ壊れてみせることもないものの、脈略を欠いた市村譲の演出以前に拭ひ難い違和感を発散させるのが、羽田勝博が鼻の下を伸ばした好色漢の芝居が全く似合はない。どうやら一本調子の強面で、コメディアンとしての抽斗はあまりないものと見える。展開の進行は漫然とした右往左往に終始する割に、これで案外テンポは悪くないのが不思議な始終が、久保カントク篇に際して突発的に跳ねる。広美と浩一は久保組の撮影に同行、久保チンと青木こずえが風呂から始まりベッドに移行する絡みの最中、暫し退場しぱなしで正しくお留守になる主人公夫婦不在に、流石市村譲だと呆れかけるのは些か早計。神戸顕一と丹羽健介も伴ひ三人がかりで青木こずえを責めるベッドに、「どうです旦那、もしよかつたら参加して下さい」と久保カントクが浩一を招き入れたかと思ふと、浩一が青木こずえに驚喜してゐる隙に、久保組が再ジェット・ストリーム・アタックで今度は広美との4Pに突入する一幕は、勢ひがありどさくさ紛れの乱交感が手放しで出色。ところが今度はさうなると、開巻以来すつかり忘れてゐた、花島花子事務所に最終盤律儀に帰還する下手に生真面目な構成が諸刃の剣。結局、花島花子にプレゼントしたリモコンバイブを用ゐ広美が藪から棒な百合を咲かせるのが、劇中現実なのか否かも判然とせずじまひに、締めのキレを度外視してでも林由美香の濡れ場を―正真正銘本当に―無理から捻じ込んだ、据わりの悪さばかりが残る始末。女の裸を銀幕に載せることを以て宗とするピンク映画とはいへ、女の裸を銀幕に載せるために映画が蹴躓いてゐては仕方あるまい。


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 「ビデオガール 夢中女人」(1991/企画:サン企画/製作:Gプロダクション/配給:大蔵映画/監督:市村譲/原案:桜井文昭/脚本:夢野春雄/撮影:立花次郎/撮影助手:余郷勇治/照明:高橋甚六/助監督:高橋純/スチール:最上義昌/編集:酒井正次/音楽:東京スクリーンサービス/効果:サウンドBOX/録音:銀座サウンド/フィルム:日本アグファゲバルト《株》/現像:東映化学《株》/出演:中川みず穂・山岸めぐみ・グリーン・井上真愉美・ファイター裕・野澤明弘・登根嘉昭・江戸太郎・吉田正治)。
 夕刻か朝方か、薄暗い陸橋遠景に即座のタイトル・イン。遠目のAV撮影風景に、“二十世紀に於ける性の氾濫はAVビデオによつてその頂点に達してゐた”云々と、回りくどい割に内容は殆どないナレーションが入る。“AVビデオ”なる、武士の侍が馬から落ちて落馬する類の珍単語は兎も角、性に関する娯楽の頂点の座を、仇敵たるアダルトビデオに諾々と明け渡してよいものかといふ根本的な疑問も過ぎりつつ、結論を先走るととてもではないがそれどころではなかつた。予定してゐた男優が来ないとやらで、監督(登根嘉昭?)が自分でAV嬢(グリーン)との絡みに及ぶ濡れ場初戦を経て、“ここにも一人その―ドロップアウト注:AVビデオの―快楽を求め欲求不満を解消してゐる男が存在してゐた”と、ビールを飲み飲みボサッと歩くロングで佐藤武雄(ビリング推定でファイター裕)登場。結構馬鹿デカいフラミンゴのネオンサインを掲げた、その名もそのまんまビデオフラミンゴで三上涼子(山岸)の「そこまでされたいの」を借りて来た佐藤は、見進める内にビデオの世界に入り込み、三上涼子を抱く。射精とともに佐藤が我に返ると、驚く勿れ、侘しい寡暮らしの部屋に三上涼子の持ち物の女物のバッグがあつた。それはさて措き改めて振り返るに、開巻のグリーン篇には全体何の意味があつたのか。
 配役残り吉田正治は、「そこまでされたいの」の男優、実のところ何のことはない芳田正浩である。井上真愉美(真愉見ではなく真愉美名義はクレジットまま)は矢張りAV女優、役名は判らないが、次回作のタイトルは「イケイケ快感天国」らしい、何だそれ(´・ω・`) 後述する川辺のパンの件に於いて、佐藤と―多分―実際に交錯する中川みず穂は、この人もビデオガール、「SMつぽくない」の広瀬裕子。野澤明弘が、「SMつぽくない」の中でプレイに匙を投げられ、チェンジの憂き目に遭ふ―代りに佐藤が招き入れられる―男優。因みに「そこまでされたいの」にせよ「SMつぽくない」にせよ、佐藤宅のテレビに映し出されるビデオの中身は、画面のルックと―本篇同様―恐ろしくとりとめのない内容に、恐らく何れも今回新撮されたものではなからうか。最後に、グリーンの現場にもう二人見切れるカメラマンか助監督、あるいは、居るのか居ないのか甚だ微妙な井上真愉美の―ビデオの中での―相手役。候補はほかに見当たらないとして、清々しく変名感を爆裂させる江戸太郎については手も足も出ない。
 さて市村譲1991年第四作は、衝撃的も通り越し壊滅的な問題作。日本語が一切判らなくとも全然関係ない第一の衝撃は、とりあへず画が遠く、兎にも角にも暗い。そんなに俳優部を満足に抜きたくないのか、それとも市村譲は演者に近付くのが嫌なのか、寧ろ綺麗にその人と知れるショットの方が余程少ないくらゐ。とりわけ、井上真愉美のパートは本格的に暗黒。あまりに暗くまるで要領を得ないので、部屋を真暗にして見てみたところが矢張り一体何が映つてゐるのか本当に判らない。原案には桜井文昭と大蔵本体が絡んでゐながら、これで商業映画として成立してゐるのが信じ難いほどに暗い、藤原健一の「女囚701号 さそり外伝」(2011/主演:明日花キララ)よりもなほ暗い。あるいは、大蔵本体が絡んでゐるからこそ破れた横紙なのか。散発的に当たる照明で井上真愉美は辛うじて識別可能にしても、犯してゐる男の方は所々僅かな光の隙間に覗く衣服で判別するほかないゆゑ、そのカットが佐藤が借りて来たAVの中身なのか、実生活とAVとの境界を喪失した佐藤の幻覚なのか判断に苦しむ始末、そこから混濁させてどうする。佐藤と同じ迷宮に見るなり観る者を叩き込む、メタフィクションでも狙つたつもりか。終盤まで温存される中川みず穂こと広瀬裕子は、一応佐藤に最後通告を突きつける。“キミは既に狂つてる”、“夢も現実も見境がつかない”。全く以て御尤もといふしかない話で、見過ぎたものか何なのか、AV好きのチョンガー男が拗らせた狂気。を描いた映画にしては、第二の壊滅はそもそも映画自体が狂つてゐる。前述した画面の圧倒的な暗さと薮蛇な遠さとで、ただでさへ捉へ処があるない以前に視覚的にすら見えもしない始終は、市村譲の根本的に脈略を欠いた語り口に委ねられた結果、五里霧中が火に油を注がれ木端微塵な支離滅裂に。加へて、AVを見てゐる間終始独り言をグチャグチャ垂れ続ける、不快といつた表面的な印象では済まない佐藤の造形に否応なく次第に募るより本質的な不安は、川辺でパンを食べてゐる際―その場面設定の唐突さが既にキナ臭い―膝元から落としたビデオを、確か借りた物にも関らず踏みつけたかと思ふと、バラバラに壊した挙句に引き出したテープで自らグルグル巻きとなるシークエンスに至つて確信に変る。ファイター裕の、目が完全にヤバい。まさかとは思ふが、本物を連れて来た訳ではあるまいな。気違ひが気の違つた展開に放り込まれて右往左往する、気違ひみたいな映画、気違ひの気違ひによる気違ひのためのピンクか。土台が、通常三割増の女優部四本柱を擁しておいて、女の裸もちやんと見せずに何が始まるのかとツッコむ気力も最早失せる、危険なレベルでダウナーな一作。“覗くな、狂ふぞ”―予告篇では、“観るな、狂ふぞ”ではなかつたか?―との、いざ観てみると狂ほしく詰まらなかつた「マウス・オブ・マッドネス」(1994/米/監督:ジョン・カーペンター)の惹句を何となく思ひだした。


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 「さかり猫三姉妹」(1991/企画:サン企画/製作:Gプロダクション/配給:大蔵映画/監督:市村譲/脚本:夢野春雄/撮影:立花次郎/撮影助手:余郷勇治/照明:隅田照明/照明助手:渡辺登/スチール撮影:最上義昌/音楽:東京スクリーンサービス/効果:サウンドBOX/録音:銀座サウンド《株》/編集:井上和夫/助監督:国沢実/現像:東映化工/出演:風間ひとみ・中川みず穂・山岸めぐみ・えりこ・JASON ANTONIO・野澤明弘・吉沢正二・中田太・竜仁)。照明の隅田照明は、隅田浩行の変名か。
 タイトル開巻、飛行機の画とオープニングにクレジット。成田近辺、車を停め自販機でジュースを買ふ一応派手な外国人ボルガリーノことボルガ(JASON ANTONIO)と、バス停でバスを待つ中条か中條ひとみ(風間)がミーツ。銀座への道を尋ねられた―また随分と雲を掴む話だな―ひとみは、すは交通費が浮かせると気軽に車に同乗。とはいへ幹線道路にすら辿り着けずに道に迷つた二人は、暗くて全然見えないカーセックス挿んでラブホテルに。事後、ホテル代を五万ばかり妹に持つて来させるかと、番号を受け取つたボルガからの電話を受けた三姉妹の三女・夢美(山岸)は、片言の遣り取りを何故か誘拐されたひとみの身代金に五百万と豪快に勘違ひ。次女・希か望(中川)は然程深刻に受け止めるでもなく、以前より付き合ひのある私立探偵・山田ダイスケ(野澤)を頼る。
 配役残り、四番手であることと無造作な名義の割には濡れ場が十二分に尺を喰ふえりこは、山田の彼女、兼探偵事務所のアシスタント。吉沢正二・中田太・竜仁は、夕暮れ時ぽい暗いロングで人数を確認するのが精一杯の三人組、内一人だけ発する声は国沢実。
 何か市村譲を見るかと、サムネに見切れる野澤明弘目当てで選んでみた1991年全八作中第六作。したところが、まあ漫然としたとでもしかいひやうのない果てしなく捉へ処のない一作。一体何しに日本に来たのか三姉妹丼は完成したボルガは、ランダムにブラブラした末に予定されてゐた―らしい―取引をスッぽかしコロンビアには戻らずにアメリカに渡る。同じ便に搭乗する、職業がスチュワーデスであることがラストで出し抜けに明らかとなるひとみが、前後の飛行機カットは昼間なのにセット撮影の機内は暗い無頓着なちぐはぐさの中、ボルガに機内食のデコイを出しからかつて―挙句にそれは希発案―終り、しかも尺は二分強余して。酔つ払つてゐるのかラリッてるのか、劇中最強の美人が勿体ない希のへべれけな造形。文字通りの薮蛇感だけ残す、中条三姉妹に三百万を呉れてやつたとかいふ伊集院様とやら。ひとみと希は何となく兎も角、希の金を胡麻の灰したボルガと、夢美がスナック綾で待ち合はせる完全にスッ飛ばした脈略。ボルガ以前に、市村譲が今作を通して何を描きたかつたのかサッパリ判らない。一切のテーマ性は排し、劇映画風な最低限の体裁はギリギリ何とか辛うじて整へる、整つてないかも知れないけど。無作為と作為のスレスレの境界を危ふく駆け抜ける、案外スリリングな映画術に思へなくもないやうな気がしないでもないとはいへ、如何せん現状市村譲の映画を何十本とこなすことは不可能ゆゑ、如何とも漠然と煙に巻かれるほかはない。といふかより直截には、どうやら俳優部出身の人みたいだが、どうしてこんな市村譲が十五年百本強―jmdbに記載のある活動期間は昭和55~1995―もローテーションを守つて来れたのかとの素朴だか大雑把な疑問も禁じ得ない。量産型娯楽映画が現に量産されてゐた麗しき時代の、巨大なる幹の一部―より正確には枝葉―と思へば興を覚えぬでもないものの。


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 「熟女売ります」(1991『熟女マントル 欲望放出』の2012年旧作改題版/企画:サン企画/製作:Gプロダクション/配給:新東宝映画/監督:市村譲/脚本:夢野春雄/撮影:立花次郎/撮影助手:余郷勇治/照明:隅田浩行/編集:井上和夫/助監督:國沢実/スチール: 最上義昌/録音:銀座サウンド/音楽:東京スクリーンサービス/効果:サウンドBOX/現像:東映化学㈱/出演:中川みず穂・稲村竜・織本かおり・井上真愉美・風間ひとみ・島村謙二・野澤明弘・久須美欽一・麻生勍司)。さあて諸々あるぞ、照明の隅田浩行と、出演者中井上真愉美と島村謙二・野澤明弘に麻生勍司が、ポスターでは順に隅田知行・井上真愉見・島村譲二・野沢明弘・麻生勅司、何でさうなるのか。
 娘・アカネ(子役は登場しない)の教育方針を巡り夫婦喧嘩する、稲村竜と井上真愉美の声に続けて新宿。随分と日も高く見えるがアフター5に一杯やるかとしたサラリーマンの亀山(稲村)と同僚(麻生)は、それぞれその旨連絡を入れるため電話ボックスを探す。プリントの綺麗さに忘れかねないものの、時代を感じさせる光景ではある。さうしたところ、妻・キョウコ(井上)から出し抜けに実家に帰る、かも知れない最後―の半歩手前―通告を受け、麻生君(仮名)も女の下へ向かふといふので軽く途方に暮れた亀山は、“120パーセントの女”なるピンクチラシの惹句に釣られマントル―マンション・トルコの略―「エンゼル」に電話をかけてみる。ビリング推定で、猛烈に紛らはしいが織本かおるとはあくまで別人の織本かおりが、「エンゼル」のママ。後に亀山が後輩の加藤(野澤)に語つた弁によると、雇はれママといふことなのか人妻で、配偶者は長距離を走るトラック運転手。亀山に特にこれといつた希望はなく、ママに見繕はれたアケミ(中川)が、愛車のレモンイエローのベンツ280Sで亀山の前に現れる。勿論、アケミがママから連絡を受けるのは自動車電話。料金は二時間三万四千円、その癖、車で五分といふアケミのマンションに到着する頃には、真つ暗に日が暮れてゐたりする無頓着さが清々しい。ともあれ亀山はアケミと、満ち足りた束の間を過ごす。中川みず穂を観るのは初めてであつたが、アイドル級に整つた男顔に、ポップに琴線を激弾きされる。
 配役残り、久須美欽一は亀山の上司で部長職の、多分斉藤。この人と麻生君は、絡みの恩恵に与らず。島村謙二は斉藤が是が非とも獲りたい、契約の相手先「丸菱商事」のナカギ専務。バーターに枕を要求するナカギに対し、斉藤が「これですか」と立てた親指を「何だこれは」とナカギが扇子で叩き、惚けて小指を立て直す下らない遣り取りがテンポも抜群で堪らない。斉藤から助けを求められた亀山がアケミを使ふ、微妙に複雑な心境のナカギ攻略戦を経て、祝杯の席にジゴロ自慢の加藤参戦。何処に出て来たのかが本当に判らなかつた風間ひとみは、加藤の「エンゼル」連戦内に瞬間的に見切れる、その他マントル嬢なのか?巨大な世話に過ぎないが、それぞれ野澤明弘と織本かおりで全く代用の効く麻生勍司と風間ひとみは、削つて削れぬ頭数ではあるまい。
 二本きりでは当然到底未だ全貌のヒントの欠片にも辿り着き得てゐない、市村譲の1991年全八作中第五作。亀山とアケミのそれなりに都会的な大人の恋愛映画で幕を開いておいて、セックスマシーン・加藤がアケミに興味を持ち「エンゼル」に足繁く通ひ詰める。即ち野澤明弘の濡れ場―の羅列―が支配する中盤、物語は一旦完全に消失する。終盤は取つてつけた順に対加藤、対アケミの二幕挿んで、休日の朝亀山が不意に思ひついたピクニックに家人を急かす、調子のいいハッピー・エンドに何となく着地。統一的なテーマなりストーリーには色気すら感じさせない一方、一幕一幕単位の演出は手堅い。それゆゑ何てことのない展開を何てこともなく見させる始終は、観客に無用な緊張を強ひないといふ面に於いては、量産型娯楽映画として良心的な一作といつていへなくもなからうか。惜しいのは、男主役たる亀山を演ずる稲村竜の、清水大敬と日比野達郎を足して二で割つた上に、止(とど)めで八掛けしたかの如く煌かない華のなさ。これでこゝの穴が埋められてあれば、主演女優に素直に連動した、スマート・ピンクへの途も拓けてゐたやうに思へる。


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 「ブルセラ編 ザ・盗撮マニア」(1994/企画:サン企画/配給:大蔵映画/監督:市村譲/脚本:夢野春雄/撮影:立花次郎/撮影助手:倉田昇/照明:堀川春峰/編集:酒井編集室/助監督:関口智康/音楽:東京スクリーンサービス/効果:サウンドBOX/協力:ラピス六本木《ランジェリー店》/出演:若菜いつき・夏川葵・林田ちなみ・野上正義・太田始・樹かず・神戸顕一)。
 断固としてさうは見えないが女子高生らしいミカ(ビリングの推定で若菜いつき)が、多分大学生の彼氏(樹かず)と六本木でデート。ホテルで致しながら頻繁に、ミカが下着を履き替へなほかつ古い下着をパッキン付きのビニール袋に保存するのは兎も角、ここの濡れ場に際しハチャメチャに動く手持ちのカメラは全く理解出来ない。動き方が絶妙にランダムで、臨場感といふよりは主に不安感を惹起する。樹かずと別れたミカは当時隆盛のブルセラショップに店長の野上正義を訪ねると、下着を金に換へる。圧倒的に渋い黒の革ジャンに身を包み、昭和の香りを爆裂させつつ外出した野上正義は、街行く女達に下着を売つては貰へまいかと仕入れに精を出す。乗つて来た制服姿の女子高生・ヨシコ(覚束ない消去法から夏川葵)に五千円を渡したガミさんは、路駐したライトバンの中で下着を替へて来るやう求める。バンの中に仕掛けられてある股間を狙つた盗撮カメラを、勿論ヨシコは知らない。ガミさんに紹介されたテレクラを通して、ヨシコはサラリーマンの太田始と会ふ。インスタントにホテルで一戦交へるのはいいとして、まあ、ヨシコの腹の肉の太いこと太いこと太いこと。太田始が、肉の海の中で溺れてゐるやうに見える。さういふ肉襦袢が―しかも女子高生役で―堂々と登場してのけるアメイジングに、時代の太らかさ、もとい大らかさを感じ取ればよいのか。太田始が、といふか太田始も盗撮カメラを回してゐるのに今度は気付いたヨシコは、ガミさんを呼ぶ。筋者風に凄んでみせ、太田始から持ち金とカメラとを巻き上げた返す刀で、ガミさんはヨシコと寝る。場面はガラリと変り、林田ちなみと神戸顕一の夫婦なのかさうでもないのか関係性からよく判らないカップルが、どうやらそれを生業としてゐるらしき、自宅での自分達の情事をビデオに収める。林田ちなみもパンティを売るらしく、履いたまゝ事に及ぶ。プロポーションは普通なものの顔が散らかつてゐるミカに、腹肉のまあ太い太い太い太いヨシコ。林田ちなみの登場に、初めてマトモな女優が出て来たとホッとする。事後パンティにオマケとしてつける林田ちなみのエロ写真を、二人で選ぶ。ガミさんとブラつくヨシコは、制服のミカと合流、二人は高校の同級生であつた。口から出任せの身の上話でガミさんから金を巻き上げるのに成功したミカとヨシコは、二人でホテルに入る。ここでの、野上正義の昔気質を気取るブルセラ店店長の芝居が、今作の映画的頂点か。風呂に入りながらのマッタリとした濡れ場の内に、唐突にエンド・マーク。ところでこの期に気づいたが、制服でフロントを通過出来るのか?
 憚りながら六百本を超えるピンクの感想―十二本に一本は新田栄であつたりもするのだが―を書き倒して来た上で、初めて遭遇する未知なる監督・市村譲。jmdbのデータによると昭和55年のデビュー以降、今作の翌年1995年まで計117本を―殆ど全てに近く―主に大蔵から発表してゐる。サラッと触れてみたが、決して馬鹿に出来る数字ではないのはいふまでもなからう。のうのうと全篇をトレースしたゆゑあはよくばお察し頂けるやも知れないが、実は今作には、統一的な筋を持つた起承転結といふものは一切存在しない。僅かに間にガミさんを挟んでミカとヨシコが繋がる程度で、樹かずも太田始も、用が済めば退場するばかり。二人揃つて麗しい濡れ場要員である林田ちなみと神戸顕一の、撮影したビデオや使用済みパンティも、別にガミさんの店で捌くのか否かも明確ではない。そもそも辛うじて主人公と思しきミカとヨシコ自体が、何らの物語も終に纏はないのだ。場面場面はヨシコの腹回りのほかには目立つた破綻もなく、概ね手堅く纏まつてはゐるものの、それでゐて斯くも鮮やかに明示的なストーリーもテーマも回避してみせるといふのも、腹の据わつたルーチンワークにして初めて可能な、それはそれとしての難事であるやうにも思へる。 1994年といふ数字以上に異常に古びて見える映画の肌触りはそれだけで個人的には心地良く、同時に途中で寝落ちてしまつたとて、さして構ふまい。勝ち負け強ひてどちらかといふならば今作の敗因は、女優部と男優部のバランスが取れてゐない点にあるといへようか。

 因みに1994年作のしかも旧題のまゝではありつつ、今回王冠の大蔵マークではなく、普通に今時のオーピー映画のカンパニー・ロゴで開巻する。久し振りに懐かしいファンファーレが、聴きたくもあつたのだけれど。それと「ザ・盗撮マニア」のブルセラ編以外の他篇といふのは、ザッと探してはみたが見当たらなかつた。


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