真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「股がる娘 恥ぢらひラーゲ」(1995『私、大人のオモチャです』の2012年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:河中金美・難波俊三/照明:秋山和夫・新井豊/音楽:藪中博章/助監督:井戸田秀行/制作:鈴木静夫/ヘアメイク:小川純子/スチール:岡崎一隆/出演:葉月エリナ・秋乃こずえ・杉原みさお・平賀勘一・タケ・甲斐太郎・リョウ)。
 大衆誌『噂のチャンネル』編集者の町田裕一(リョウ)と、街で町田が拾つただか拾はれた女・日浦ミツル(葉月)とのコッテリとした一戦で、旦々舎一流の早速濃厚な開巻。“心が痛い人の為の、心が解れるエッチ”を標榜するミツルから町田に声をかけ、ミツルが唱へる、男女が互ひの性器の摩擦により発生するイオンを交換するといふセックス観に、救はれると同時に町田は職業的な嗅覚を刺激される。町田の発案による、クールといふよりは、万事に無関心な風情を漂はせるカメラマン・池谷宗男(タケ)にミツルのいはゆるハメ撮り写真を撮らせ、それに独特の思想を交へた『ナチュラル・ボーン・ファッカー ミツルくんの極楽マサツ主義』は、忽ち大反響を呼ぶ。それは日常的に編集長の白樺敏夫(平賀)からは能力を虚仮にされ続け、忸怩たる日々を送つてゐた町田にとつて、起死回生ともいへる企画であつた。ヒットの予感を得た白樺は即座かつ貪欲に行動、TV局プロデューサー・小宮山幹太(甲斐)に接触する。町田が商業主義にミツルを奪はれる初心な懸念を抱かぬでもない中、木本あずま(杉原)を担ぎ出した他誌が便乗どころでは済まぬ丸パクリ企画『ダイナマイト・ファッカー あずまクン』を打ち出し、部数で劣る『噂のチャンネル』誌は窮地に立たされる。
 “ナチュラル・ボーン・ファッカー”なるダイレクト過ぎる文言、町田とミツルの待ち合はせロケーションを始め、そこかしこで見切れるパブ。四月末封切り、即ち対黄金週間用の番組にして、1995年の浜野佐知早くも第五作といふ猛然としたペースが何気に恐ろしい今作が、1994年の米映画―日本公開は翌二月―「ナチュラル・ボーン・キラーズ」(監督:オリバー・ストーン/主演:ウディ・ハレルソン、ジュリエット・ルイス)をモチーフとしてゐることは、誰の目にも明らかであらう。殺す者を致す者に置き換へた大胆極まりない翻案には畏れ入るばかりであるが、実は山邦紀が他作に着想を得るのは、決して珍しいことではない。ザッと思ひつくだけでも、「近所のをばさん2 -のしかかる-」(1994/監督:浜野佐知/主演:辻真亜子)は「シンドラーのリスト」で、佐々木基子の不幸なストリッパー初戦でもある「淫女乱舞 バトルどワイセツ」(2001)は、当然「バトルロワイアル」。近いところでは「セクハラ洗礼 乱れ喰ひ」(2008/主演:北川明花)が「バチ当たり修道院の最期」に、「奴隷飼育 変態しやぶり牝」(2011/主演:浅井千尋)は、「ユニバーサル・ソルジャー リジェネレーション」(2009/米/監督・編集:ジョン・ハイアムズ/撮影監督:ピーター・ハイアムズ/主演:ジャン=クロード・ヴァン・ダム、ドルフ・ラングレン)。静謐なロマンティックと最大級の奇想とが火を噴く、ヤマザキ・オブ・ヤマザキともいふべき衝撃作「変態未亡人 喪服を乱して」(2003/主演:川瀬有希子)は「ポストマン」に違ひないだなどといふのは、意図的に滑らせた筆である。それはそれとして、ミツルの、マイナスイオンへの着眼の早さも地味に唸る魅力的なマサツ主義。そして傷ついた男に自身の肉体と共に捧げられる、南風系のエモーション。順風満帆に風呂敷が拡がつたまではよかつたが、残念ながら以降が一向に深まりはしなかつた。時代に飛び込んで来た怪傑と、彼女ないしは彼を飯の種としてしか捉へないマスメディアが繰り広げる虚々実々といふ展開は、元作に忠実なものともいへ平板でもあるままに、終にミツルは姿を消し、町田はドロップアウトする。二人が再び結ばれるラストも、持ち芸の、徒なまでの難渋さを何時も通りにフルスイングするリョウ(=栗原良=ジョージ川崎=相原涼二)は兎も角、葉月エリナが可愛らしいことは確実に可愛らしいのだが反面質感には決定的に乏しい故、終には何某かの結実も果たせずじまひに単なる濡れ場のひとつに止まつてしまふ。話としては酌めるものの、この時期の狂騒的な旦々舎の量産態勢の中では、命中の当否は微妙な下手な鉄砲に入る部類の一作に数へられようか。

 残した配役秋乃こずえは、町田とは完全に冷え切つた妻・カズミ。一方、白樺とは不倫関係にあつたりもする。カズミと白樺の逢瀬の舞台は、後に小宮山もミツルと使ふ、かつては色町であつた円山町の料亭「三長」。正確には当時既に“旧”料亭であつたものかも知れないし、表から看板を抜く画だけで、内部は何時も通りの浜野佐知自宅であるやうな気もする。秋乃こずえに話を戻して一点、桃井良子―ただ今度はこの人と、桜子の関係の有無がよく判らない―と同一人物であることに小屋で辿り着けたのは、個人的にひとつの収穫であつた。帰福後調べてみたところ、秋乃こずえから改名して桃井良子に。もう一人、内トラにまづ違ひあるまい端役、『ミツルくんの極楽マサツ主義』を読んだ読者からの便りの分厚い束を町田に渡す、丸々と肥えた若い編集部員はあれが井戸田秀行なのか?体型だけだと高田宝重だが。


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