真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢列車 指よりナマで!」(1994『痴漢電車 むりやり開く!』の2011年旧作改題版/企画:セメントマッチ/製作:オフィスバロウズ/提供:Xces Film/監督:池島ゆたか/脚本:岡輝男/撮影:中尾正人/照明計測:西久保維宏/編集:酒井正次/助監督:高田宝重/監督助手:井戸田秀行/撮影助手:岩崎智之・金井隆洋/車輌:広瀬寛巳/出演:小野寺亜弓・杉原みさお・しのざきさとみ・太田始・山科薫・小林一三・黒澤俊彦・神戸顕一・山ノ手ぐり子・寺島京一・丘尚輝、他四名)。出演者中、山ノ手ぐり子以降は本篇クレジットのみ。
 駅のホームをセーラ服で走り抜ける、ザックリ譬へると香坂みゆき似―といふことは、中村京子にも掠る―の小野寺亜弓が、駆け込み乗車し息を撫で下ろしたタイミングでタイトル・イン。危ないよだとか無粋なツッコミを入れる以前に、営業運行中の実車輌に実際に女優を飛び込ませる訳だから、現場は結構以上にスリリングなものであつたのではないか。今よりはきつと大らかであつたらう、時代が偲ばれる。
 女子高生の阿部有紀(小野寺)は、電車の中で吉田尚輝(太田)から痴漢に遭ふ。巧みな指戯に派手に濡らした有紀のパンティを、吉田は両側を鋏で切つた上で抜き取らうとする。有紀も股を締め抵抗するものの、結局グショ濡れの下着は奪はれる。降車後、吉田を追つた有紀は問ひ詰めるが、吉田のスーツのポケットから覗く白い布は単なるハンカチーフで、まんまとはぐらかされる。所変り、ベッドに並んでくつろぐ―どちらの家なのかは明示されない―有紀と悪友の三浦紗英(杉原)が、有紀はゲームボーイで遊び、紗英は雑誌を捲る。カメラが引くと、二人は露なパンティの中に、それぞれ淫具を忍ばせてゐた。一頻り濡らしたジョイトイを、銘々ジップロックに保管する。有紀と紗英は、当時隆盛のいはゆるブルセラショップに諸々ブツを持ち込んでは、普通のアルバイトなどよりは全然割のいい小遣ひを稼いでゐた。といふ次第で登場する、チャイナドレスにサングラスを合はせた胡散臭い造形が堪らない山ノ手ぐり子(=当時:五代響子/現:五代暁子)は、街のあちこちで二人と接触するブルセラ業者・雅美。その件、決して初めて観たものではない筈だが改めて、杉原みさおのセーラ服姿が、結構な字義通りの破壊力である。開巻の一戦で入念に仕込み途中の下着をロストした有紀は、ギャランティーを五千円引かれるディテールも噛ませつつ、有紀と彼氏・山崎真治(小林)との、紗英はエロ写真を撮影されるカメラマン・中島健一郎(黒澤)との、濡れ場二連戦。ここで、真治役の小林一三といふ見慣れない名前は、実際に観てみたところ現在の樹カズ。有難くもSNSを介して池島ゆたか監督に御教示頂いたところによると、単なる変名ではなく、何と御本名であるとのこと。黒澤俊彦に関しては、役名が今井尚也でなくて良かつた、夢も醒めてしまふところだ。甘いイケメン二人組の出番は、共にここの絡みの一幕のみ。生理を迎へた紗英が、前後を名執佳恵(しのざき)と田澤佳昭(山科)に挟まれ電車に揺られる。しのざきさとみと山科薫の挟撃を受け、何事も起こらない訳がない。紗英は、といふよりも紗英も、田澤に濡らされたパンティと、挙句にタンポンまで、佳恵の後ろ手に奪はれる。奮起した有紀と紗英はブルセラ女子高生の商売敵・痴漢盗賊に対抗するべく、堂々とロッキーのテーマをパクッた劇伴に乗せ特訓開始。大概破廉恥なレオタードを着用した野寺亜弓と杉原みさおが、往来を駆け抜け―させられ―るロング・ショットには、演者的には自暴自棄に近い異様な迫力が漲る。ともあれ二人は、コンドームに入れ挿入したバナナを、グニャグニャに変形させるまでに至る。よく判らない到達点だが、加藤義一も、デビュー作で岩下由里香に同じことをさせてたな、他にも数あらう。
 配役残り神戸顕一と寺島京一は、画面奥から寺島京一・小野寺亜弓・太田始・杉原みさお・神戸顕一の並びで、黙した吉田はほくそ笑む中、ダブル痴漢を敢行する実働部隊の寺田泰昭と役名不明。丘尚輝と他四名は乗客要員と思はれるが、丘尚輝(=岡輝男)すら確認出来なかつた。寺島京一と寺田を首を喰ひ千切らんばかりのいはゆるマン力―オッサンか、まあオッサンだが―で撃退した有紀&紗英は、再び接触した雅美から、痴漢により得た下着類を通販で捌く新興業者―そのまんま―「セーラームーン」の存在を知る。果敢にもといふか直截には蛮勇とでもいふべきか、二人はマンションの一室に構へられた「セーラームーン」本丸に乗り込む。さうしたところ、室内にはそれぞれが奪はれた下着を始め数多くのブルセラ・グッズが雑多に散らかり、更に別室では、佳恵と吉田が正しく濃厚な情事の真最中であつた。
 外付けのオプション・パーツ限定ながら、自身の性を売り物にしてゐることに変りはない不良女子高生が、グレーどころか明確に真つ黒の痴漢ブルセラ業者と対決する。大雑把にいふと悪党対悪党といふ図式のピカレスクな活劇は、有紀と紗英が「セーラームーン」にカチコむまでは、展開の手数にも恵まれ軽快に観させた。ところが、アテられた二人が薮蛇な百合の花を咲かせるほどの、しのざきさとみ V.S.太田始戦を下手に入念に見せようとしてしまつた結果、そこで流れが中弛む印象は否めない。気を取り直したチェイスを経て、吉田と佳恵が逃げ込んだ地下鉄に、紗英は間に合はず有紀が単独で滑り込む、以降のクライマックスが重ねて些か正体不明。有紀が吉田と佳恵を追ひ詰める、一対二の図式になるものかと思ひきや、何故か当該電車には田澤も寺田も寺島京一も既に乗車済み。最終的には挙句に雅美もその輪に加はり、一対六で有紀が嬲られるといふラストは、幾ら岡輝男の仕出かした脚本とはいへ些か理解に苦しむ。どう考へても、娯楽映画の定石としては有紀が「セーラームーン」をやつゝけて爽快に締め括られようところが、失速したまま頓珍漢な方角に転んでみせた。電車痴漢といふモチーフが不可欠の物語は痴漢電車的には全く麗しいものである反面、詰めを誤つた感も強く絶妙にスカッとしない一作ではある。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« 発情花嫁 お... 女刑務官 檻... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。