真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「未亡人の太もも 夜ごと悶えて」(1992『未亡人セックス 熟れ盛り』の2012年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:渡辺元嗣/脚本:双美零/企画・製作:田中岩夫/撮影:稲吉雅志/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:田尻裕司/監督助手:本多英生/撮影助手:村川聡/照明助手:広瀬寛巳/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:小川真実・冴木直・伊藤清美・ジミー土田・杉本まこと・久保新二・螢雪次朗)。照明の伊和手健が、ポスターには田端功。これは即ち、変名のカミングアウトに当たるのか?
 ピンク映画の監督であつたとおひおひ語られる、三年前に没した亡夫・築山か月山憲二(杉本)の遺影を一旦抜いて、熟れ盛りの未亡人・明子(小川)が受話器越しの声も聞かせぬ友人との電話に花を咲かせる。看板を半欠片も偽らない、全盛期の小川真実(jmdbに従ふと昭和62年デビュー、プロフィールが見付からない)がストレートに麗しい。手短にタイトル挿んで居候の、叔父さんの従兄弟の義理の兄の甥、といふと遠い親戚どころかほぼ赤の他人の、劇中ガンガン実名登場「新東宝映画」のセールスマン・森ケンジ(ジミー)が子供のやうに元気に帰宅。新東宝に関しては、“エッチで楽しい新東宝映画”なる文言も連呼されるのだが、これは実際に当時のキャッチ・フレーズであつたのか?さて措き翌日、寝坊した森が騒々しい朝を経て向かつた先は、後に元ピンク映画助監督といふ過去も明らかとなる谷間(螢)が館主のピンク映画専門館「横丁シネマ」。谷間の娘で、横丁シネマの看板娘・奈津子(冴木)に森は判り易く想ひを寄せる。谷間はそろそろいはゆる大台に差しかゝる娘―後々、実は実子ではなく友人の娘であることが当人から森に告白される―の縁談に気を揉む一方、奈津子は現状独身である理由は確か素通りされる父親を一人には出来ぬと慮り、結婚など考へてはゐなかつた。将を射んと欲すればまづ馬を、森は奈津子の身を軽くするのに先に谷間を片付けるべく、明子とのお見合を思ひたつ。明子が満更でない以上の風情で自身に向ける、好意にはてんで気付かずに。
 中盤本筋が固まつたところで飛び込んで来る久保新二は、仕事もせずにヘタり込む雨の境内、谷間と再会するこちらは元ピンク映画俳優・野辺サキタロー。かつては谷間ら助監督を始め現場を恐れさせた野辺も、傲慢が祟つたのか、現在はすつかり落ちぶれてゐた。伊藤清美は、そんなお荷物兄貴をラーメン店を営みながら健気に面倒を見る、ポップに薄幸系の妹・治子。
 アイドル要素もファンタ風味もともに皆無な、渡邊元嗣1992年薔薇族込みで全五作中第四作。物語本体は全くオーソドックスな人情噺であるのと同時に特色は、ビリング順に配給会社セールスマン・故人の監督・リタイアした元俳優と、現在小屋主である元助監督。要は男優部を総嘗めする、さりげなく濃厚なピンク映画の香り。小屋での公開を軽視する一般映画に対する揶揄や、ピンクはピンクで最終的には現場に皺の寄る構造等々、諸々の問題意識がそこかしこで饒舌に開陳される。とはいへ語り口は演出部・俳優部両輪の力量にも支へられスマートで、決してためにする愚痴なり泣き言じみることはない。結果的に、二十年が経過して状況は改善されるも何も全く変化してゐないといへばゐないのだが、この期に及ぶと寧ろ、それでゐてそれでもピンク映画が今なほ依然グラつきながらも両の足で立つてゐるある意味奇跡に、感謝してみたくもなるのは惰弱な甘さとの誹りを免れ得ないであらうか。それは兎も角、森が自分が奈津子と結ばれたいがために仕掛けた谷間と明子の見合、そして恋路の十字砲火が妙な方向に転んで偽装結婚のクロスカウンターに発展するまでは、全く順当にお話が膨らむ。終始暗がりに沈んだ小川真実の切ない背中に、ジミー土田が泣ける名台詞を投げる濡れ場にはグッと来させられずにはゐられない決定力が漲るものの、締めにしては如何せん少々早い。あるいは、そこでは始終が未だ纏まらない。ところが、結局終に伊藤清美は裸を見せないまゝに、「横丁シネマ」に女優部が揃つた弾みで幕を開ける今でいふ女子会で畳んでしまふ結末には、幕引き自体はつつがないともいへ、恋路が実る実らない以前に、多少の出会ひ以外には登場人物の立ち位置の全てに些かの変化も生じないでは、如何せん万事が尻切れた印象は拭ひ難い。谷間が―森のことが好きな―明子との見合に断りを入れるのは、治子に後ろ髪を引かれたやうにしか見えなかつたのだが、その点に関してはものの見事にではなく放置もしくは放棄され済まされる。ピンク映画残酷物語も含め途中までは順当であつただけに、詰めの甘さが勿体ない一作ではある。

 奈津子・治子・明子の並びで初めてのピンク映画を楽しむ女子会、周囲には、4+2名の場内観客要員が見切れる。順番でいふと後(あと)に登場する二名の内、瞬間的なカットだが一人が煙草を銜へてゐるのは、リアリズム志向の御愛嬌。

 締めには少し早い最後の絡み< 奈津子に失恋し荒れる森に、明子が奈津子を偽り身を任せる。事後終始した暗がりの中静かに捌ける小川真実に投げる、ジミー土田の泣ける名台詞が「有難う、明子さん」


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