真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「聖処女縛り」(昭和54/製作・配給:新東宝興業株式会社/監督:渡辺護/脚本:高橋伴明/企画:門前忍/撮影:鈴木志郎/照明:近藤兼太郎/音楽:飛べないあひる/編集:田中修/記録:豊島睦子/助監督:一ノ倉二郎/演出助手:内村助太/撮影助手:遠藤政史/照明助手:佐々間潔/効果:東映東京撮影所/現像:東映化学/製作主任:吉田修/出演:鶴岡八郎・杉佳代子・下元史郎・渡健一・太田伝・下川純・峯孝介・西山徹・日野繭子・岡尚美)。企画の門前忍は、渡辺護の変名。録音が抜けてゐるの―とまるで倒立したビリング―は本篇クレジットまゝで、配給に関しては事実上新東宝映画。
 片田舎に特別高等警察職員の住居が存する点を窺ふに、早くとも―第一次日本共産党成立後の―大正後期か、普通に昭和初期。駅に男が現れる遠いロングを一拍置いた上で、思ひ詰めた日野繭子の横顔と、カットひとつ跨いで廊下から様子を窺ふ岡尚美を、階段の下から抜いてタイトル・イン。刑事(渡)を伴ふ、特高・小西(鶴岡)のロングにクレジット起動。小西の目配せを受けた刑事が、各々適当に扮装した四人の警官(太田伝から西山徹まで)を呼び寄せる。俳優部のクレジットが、役名まで併記して呉れるのが心から有難い。
 園(岡)が宮田に囲はれる一方、園の妹・綾(日野)が思慕を寄せる宮田(下元)はお尋ね者の共産主義者、といふドラマみたいな関係性、ドラマだからな。小西曰くの、人間らしく生きられる社会なる方便に感化される妹に対し、姉が妾の代償に手に入れた、一定以上の生活こそ人間らしさと抗弁する、それもまたひとつの大正論。追ひ詰められ、ドスを抜いた宮田が刑事の長ドスは潜り抜けるも、小西が涼しい顔で懐から取り出した、オートマチックに仕留められる。綾は宮田の亡骸に縋り、園は小西の傍らに寄り添ふ。その夜、園を抱いてゐる最中に出刃で襲ひかゝつて来た綾を、小西は未成年に配慮する素振り―この時代にも大正11年に公布された、旧少年法がなくはない―を窺はせつつ、本宅に要は監禁する。流血した手当の支度に姉が座を外した隙に、小西が妹の乱れた裾を、更に割つてみる人間的なシークエンスが琴線に触れる。生きて、堕ちる。その様に映し出されるのが人の姿で、主に劣情を処り処としたアプローチが量産型裸映画に於いて、実相に辿り着き得る最も手つ取り早い便法なのではあるまいか。
 杉佳代子はほゞ寝たきりで、いはゆる夫婦生活に応じられない小西妻。助けるといふよりも寧ろ本妻の矜持に駆られ、最期の力を振り絞り綾を逃がす以外には、杉佳代子が基本床に臥せつたまゝ、脱ぎもせず死んで行く豪快か、ある意味贅沢な配役には驚いた。
 常々巷にて大傑作の如く扱はれてゐるところの所以が、正直サッパリ判らない渡辺護昭和54年第三作、当年全十三作。それ、もう結論だろ。
 そもそも佳代(超仮名)は性行自体に堪へられず、園も園で受ける資質を持ち合はせない。小西のサディズムによもや応へた綾が、本妻と妾双方向かうに回し、小西を奪ひ去る節すら一見窺はせつつ、実は復讐の凶刃を静かに砥ぐ。よく出来てゐるともいへ、逆にか寧ろ、グルッと一周してありがちと紙一重の構図が、結局例によつての何時もの如く、とりあへず全員死ぬラストに、限りなく自動生成的な勢ひで一直線。よくいへば様式美、直截にいふと類型的な展開に殊更魅力を覚えないのと、裸映画的にも鈴木志郎の性癖か渡辺護の指示なのか知らないが、概ね常に何かしら越しに濡れ場を狙つてゐないと気の済まぬ、一種強迫的な画が齢の所為か、最近煩はしくなつて来た。匙加減の問題ではあれもう少し映画を捨てて、大人しく女の裸を撮つても別に罰は当たらないと思ふ。それでゐて、小西が綾を責める模様を、責めに苦しみながらも喜悦する綾を、佳代に見せつける件。照明からペラッペラに薄い上、手前で杉佳代子が動きもせず暫し黙つて見てゐる、間か底の抜けた長回しにはこゝは笑ふところなのかと迷つた。それ以前に、兎にも角にも。綾の若さを佳代に誇示した小西が、「これが女だ」と豪語してのける最早清々しいほどのミソジニーは、凡そ令和の世に於いて満足に相手する気も失せる遺物。恐らくは渡辺護自身も共有してゐさうな、遺産とかでなく単なる遺物。申し訳ないけれど昭和に置いて来て、特に困らない一作、保守なのに。

 ど頭で舞台を大正後期か昭和初期と一旦書いたが、思ひ返すと綾は小西邸に囚はれた園の家にて、「サーカスの唄」が流れてゐる。なので8年以降の、昭和初期と特定出来る。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« 月と寝る女/ま... 生撮り解禁ツ... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。