真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「尼寺夜祭 おしやぶり修行」(2002『尼寺の艶ごと 観音開き』の2011年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/撮影:千葉幸男/照明:高原賢二/編集:酒井正次/スチール:佐藤初太郎/助監督:加藤義一/音楽:レインボー・サウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/照明助手:石井拓也/効果:中村半次郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:君島真琴・河村栞・佐倉萌・入江浩治・柳東史・丘尚樹・岡田謙一郎)。出演者中、丘尚樹は本篇クレジットのみ。
 新田栄の尼寺映画といふと、御馴染み大成山愛徳院、ではなく今回は満光寺。厳密には“今回と”といふべきなのか、必ずしも正確ではないかも知れないが、調べてみたところどうやら今作と、四作後の「尼寺の後家 夜這ひ床枕」(2003/主演:武藤さき)二作の舞台が、ポカーンと満光寺であるやうだ。庵主・浄心(君島)の婦人科検診に、町医者の木村亀吉(岡田)が満光寺を訪ねる。乳も診れば観音様も―模型にクスコを差し込み内側からすら!―拝む、桃色に本格的なお医者さんゴッコ、もとい診療行為を経て、亀吉はさんざ逡巡しながらも、憚りのない悩みを浄心に打ち明ける。女房(一切登場せず)が隣町の大病院に入院して以来、許可を得たとはいへ狭い町―満光寺は、どうも水上荘近隣―ゆゑ風俗に行くのもまゝならず、直截にいふと溜つてゐるといふのだ。すると、頬のひとつも赤らめるでなく、浄心は意外と若い肉体を仏の慈悲で亀吉に任せる。嗚呼有難や有難や、投げやりな与太は兎も角、主演女優の君島真琴。お芝居に於いては軽やかに地に足が着かない反面、首から上下の総合的に、橘瑠璃と麻田真夕を足して二で割つたやうな風情は、二十一世紀に突入してなほ新田栄が度々繰り出すエクセスの惨劇も免れるどころか、珍しく十二分に戦ひ得る。嗚呼有難や有難や、仏恩報謝の念仏なんぞ、柄にもないけど。といふか、冷静になつてみるに至極当たり前の商品性でしかない。何を一々喜ばねばならぬのか、これぞ因果な世界である。
 浄心と亀吉のイントロダクションを担ふ開巻の君島真琴×岡田謙一郎戦を経て、薄汚れたライトバンを転がす米倉杏子(佐倉)が、ヒッチハイカーの伊納辰也(入江)を拾ふ。いはゆる自分探しの旅の途中と称する伊納は、そのまま田舎の人の親切に甘んじ、未亡人である―強ひて譬へるならば柳沢慎吾似の、遺影スナップの主は不明―杏子に家まで招かれ一杯御馳走になる形に。因みに米倉家は、「夜這ひ床枕」に登場する、こちらは亭主が出稼ぎ中の主婦・松下恵(小川真実)宅と同じ物件。当然の如く、あれよあれよと一戦交へ、事後満ち足りた眠りから目覚めた杏子は愕然とする。荒らされた室内に、既に伊納の姿はなかつた。即ち、わざわざ家に上げた胡麻の灰にまんまとしてやられたのだ。盗みの過程で佐倉萌も喰ふとは、なかなかの名盗なり。続いて、お宝目当てに満光寺に忍び込んだものの、大したブツも見当たらず。挙句浄心に見咎められてしまつた伊納は、その場の出任せで今度は寺を研究する大学生を偽り、暫く逗留する格好に。実にフットワークの軽い、男子禁制ではある。そんな底の抜けた満光寺に、更に三人目の男が現れる、いゝ加減にしろよ。浄心の妹・近藤かの子(河村)が、婚約者の坂口正和(柳)を紹介するために満光寺を訪れる。かの子を間に挟み、浄心と坂口は秘かに驚愕する。それがそもそも俗世を捨てた原因でもあるのだが、出家前の浄心と、坂口は不倫関係に―現在の坂口は離婚済み―あつたからだ。何気に達成される姉妹丼がフィーチャーされこそ全くしないものの、坂口め、この果報者が。
 一見すると右から左に―上から下でも西から東にでも、方向方角は何でも構はないが―六十分が水のやうに流れて行く一山幾ら作に思へ、なかなかどうして、満更どころでは片づかない逸品。無粋も省みない検討を試みると、前述した君島真琴×岡田謙一郎戦に続いて、今度は伊納のイントロダクションとしての佐倉萌 ×入江浩治戦。ここまでで起承転結の承部、次の二手で一手が何気なくも抜群に素晴らしい。柳東史のV.S.河村栞・君島真琴二連戦を通して、ビリングが然程の意味は成すまい二番手を三番手と同様ひとまづ入念に消化すると同時に、ヒロインの立ち位置を一応ともいへ深化させる。そして締めとなる、仏教風味も塗した君島真琴×入江浩治戦。言ひ換へれば二番手三番手の一回づつに対して主演女優は三回目の濡れ場の末に、万事を穏当な着地点に落とし込む。他愛ない何時もの罰当たり企画に見せて、実は形式的にも実質的にも完璧な構成に支へられた、実にスマートな裸映画。決して誇示することのない奥ゆかしくも頑丈な論理性に、無粋は承知の上で喝采を送りたい。新田栄の映画はどれもこれも端(はな)から駄作と断ずるやうな物言ひは、怠惰な思考停止に過ぎなくはなからうか。

 付記< 正体不明の杏子亡夫の遺影について、石動三六氏のWEB日記「石動三六的日常」によると、何と若き日の新田栄であるとのこと。それは流石に判らない、あと丘尚樹を忘れてた。居酒屋にて、木村と差しつ差されつしがてら、満光寺の噂話に花を咲かせる男


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