真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「女囚701号 さそり外伝」(2011/製作:株式会社竹書房・新東宝映画株式会社/配給:新東宝映画株式会社/監督・脚本:藤原健一/原作:篠原とおる『さそり』《小池書院刊》/企画:加藤威史・衣川仲人/プロデューサー:福原彰・一力健鬼/音楽:與語一平/撮影・照明:田宮健彦/録音・音響効果:高島良太/ヘアメイク:ユーケファ/スチール:中居挙子/編集:石井塁/アクション指導:江藤大我/衣装協力:野村明子/ガンエフェクト:近藤佳徳・山崎信幸/撮影・照明助手:降矢徹・長谷川玲子/メイク助手:大橋茉冬/助監督:躰中洋蔵・能登秀美・松林淳・布施直輔/編集応援:内藤慈/制作応援:貝原クリス亮・西谷雄一・渡邊利枝/制作協力:ANGLE/協力:杜方・ネビュラ/出演:明日花キララ・龍坐・紗奈・里見瑤子・倖田李梨・ほたる・しじみ・友咲ナミ・富士川用宗・伊藤紀博・田中尚仁・成川友里子・横手瑞香・大江直美・村田拓真・江藤大我・松林慎司・清水大敬・川本淳市)。出演者中、成川友里子から村田拓真までは本篇クレジットのみ。
 新東宝カンパニーロゴの直後、“リアリティを重視”したとかいふ演出意図により“最低限の照明による撮影を敢行”したことが謳はれ、そのことに基き詫びる旨が本篇に入る前に字幕を通して述べられる。事実上の、チェック・メイトである。
 こんちこれまた御馴染みの、清々しく非人道的な女囚刑務所。元居た刑務所からは二度の逃亡を企てた、殺人未遂の罪で服役中の松島ナミ(明日花)が移送される。ナミが収監されるのは、これまで何人もの囚人が不審な死を遂げた、これ見よがしないはくつきの第二雑居房。ここでほたるとしじみと友咲ナミは、イントロダクションの噂話を投げる別房の女囚要員、後に第二雑居房の面々と共に1シーン裸も一見せ披露する。下着まで剥かれた上で壁に手をつかされ、乱雑な放水を浴びせる刑務官・金田(江藤)にまるで車か何かのやうに身を清められるナミの、決して全てを肯んじはしない、不屈のエモーションを燃やす眼差しを押さへてタイトル・イン。房に放り込まれたナミを、傷害事件を仕出かしたヨット・スクール教官、だなどといふ設定も、二昔前の悪役女子プロレスラーのやうな闇雲な造形も揃つて古式ゆかしくはなく底の抜けた牧田重子(里見)と、重子を“先生”と呼び付き従ふ美雪(倖田)が襲ふ。かと思ふと深夜には、同性愛者の福島タツコ(紗奈)がナミに迫る、コース料理かよ。矢継ぎ早に、再度重子と美雪の襲撃を受け、舐めることを強要された重子の左足小指を喰ひ千切つたナミは、懲罰房に叩き込まれる。一方、最終的に人物が深く掘り下げられることもなければ然程の活躍も見せないものの、画になる不気味な雰囲気は悪くない、第二雑居房を担当する跛引きの刑務官・林清彦(龍坐)は、ナミに金を産む醜聞の匂ひを嗅ぎつけ刑務所所長の神崎(清水)に探りを入れる。不穏な空気の立ち込める中、懲罰房のナミはこれまでの顛末を回想する。新興IT企業「SSエージェント」で派遣社員として働くナミは、青年社長の杉見真司(川本)とは同時に男女の仲にもあつた。ある日、社長直々重要な一席に連れ出されたナミは利権と引き換へに、杉見の大学時代同級生でもある二世議員・倉田(松林)に引き渡され陵辱される。憐れ裏切られたナミは、事後隠し持つた万年筆を杉見の顔面に振り下ろしたのであつた。事件以降、依然権力は維持しつつも表舞台からは姿を消した杉見は、完全に上からの態度で清水にナミ殺害を急かす。清水は清水で、半年での出所も仄めかし、子飼ひの美雪―と重子―にナミを消すことを孫請けさせる。
 後述するが、不可視といふレベルから攻め難い残りの出演者は、清水役とされる伊藤紀博は、その他刑務官。井上役とされる田中尚仁も、恐らくは短躯・サングラスの刑務官か。成川友里子は、杉見に重用されたナミに幸運にも出し抜かれる、SSエージェント社員・田代。名義から正体不明の富士川用宗と、クレジットにのみ名前の載る中で成川友里子以外の三名に関しては、正直手も足も出しやうがない。劇中更に見切れるのは食堂―と野外作業―のカット、美雪の右隣に座るショート・カットと、タツコとナミの後ろに二人並んだ女囚要員が計もう三名、SSエージェント社員と倉田配下の黒服がそれぞれ二名。となると、頭数は合はないが。
 藤原健一にとつては「ゼロ・ウーマンR 警視庁0課の女/欲望の代償」(2007/田中貴太と共同脚本/主演:三浦敦子)以来四年ぶり二度目となる、日本―主に量産型娯楽―映画界謎の定番ジャンル・篠原とおる物件である。黙つて観てゐる分には何時もの、他人に脚本だけ提供する際には時に輝きもするのに、何故か自身にメガホンも取らせると大概薄味で底の浅い、如何にも良くなくも悪くも藤原健一らしい一作に過ぎないとはいへ、タイトルから激しく腑に落ちない不可解が一点。劇中での順序は前後してナミが臭い飯を喰ふやうになる因縁から、定番のピンキーバイオレンスな刑務所を舞台とした、全裸身体検査、同房の女囚によるリンチと百合。今回はレイプまでは描かれないが、当然刑務官からも暴行。やがて脱獄、そして復讐。即ち、始終はとうの昔に出来上がつた「さそり」シリーズのフォーマットを通り一辺倒にトレースしてゐながら、何が“外伝”なのだか非感動的に理解に苦しむ。正伝の、劣化コピー以外の何物でもない。斯様な拍子しか抜かない展開に止めを刺すのは、名実共に開巻以前の敗北宣言を偽らない―後生だから騙して呉れ―“敢行”せねばならぬ程の撮影の、当たり前の結果といつていへなくもない暗黒画面。夜の刑務所所内シーンを中心に、照明不足でウルトラ見えない、本当に全く見えない。商業映画がこんなにも見えないものかと、驚かされるほどに見えない。確かに地元駅前ロマンのプロジェク太スペックも大したものではあるまいし、キネコ処理したものを更にDVDに落とした、新東宝から小屋に渡される原版自体も、酷い代物にはさうゐない。ただそのやうなことは、素人がいふのも何だが想定の範囲内にあつて然るべきことでもないのか。要は、頓珍漢な志向で照明を最低限にするのは構はない―いや、矢張り構ふ―が、それを上映する小屋の映写環境が “最低限”を満たしてゐるとは必ずしもどころではなく限らないのだ。苛立ち紛れに憚ることなく筆を滑らせるならば、きのふけふの国映系でもあるまいし、藤原健一は本物の間抜けなのか?リリースされた皿が、家庭で綺麗に視聴出来てゐればそれでよし。さういふ、木戸銭を落とした観客を小馬鹿にした態度であるならば、懐古主義を拗らせた偏狭なピンクスの立場からは、それは映画作家の姿勢としては断固として認められない。ただでさへドッチラケた物語を塗り潰す漆黒の空虚、言葉は甚だ汚いが、事この期に至つては論外の無駄弾と難じざるを得ない。重ねて情けないのが、娑婆に戻つたナミが街を闊歩する際のさそりルックの、サイズさへ合つてゐない不始末。主演女優の素材には問題がない筈なのに、スタイリッシュも売りのさそりがそんなにモッサリモッサリしてたら駄目だろ。唯一の見所は、倉田に犯されグッタリしたままのナミが、突如跳ね起きるや否や杉見の右目を潰すシークエンス。明日花キララが、白から黒くなる瞬間には鋭く光るものがあつた。


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