真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「刺青~堕ちた女郎蜘蛛~」(2006/製作:円谷エンターテインメント/配給:アートポート/監督:瀬々敬久/脚本:井土紀州/原作:谷崎潤一郎『刺青』《中央公論新社刊》/撮影:芦澤明子《J.S.C》/照明:佐々木英二/VE:野村俊樹/音楽監督:中川孝/助監督:村田啓一郎/劇中刺青:田中光司/出演:川島令美・和田聰宏・光石研・嶋田久作・松重豊、他)。
 まづ最初に、昨今は感想を書いてゐない以前にそもそも一般映画にまで中々手が回らないので久し振りではあるが、定番の一言。

 フィルムで撮れ、カス。

 集団催眠染みた、といふか集団催眠そのものの自己啓発セミナーの虜になる二ノ宮(和田)。不倫相手のマンションに押しかけ、ポリスの御厄介になるアサミ(川島)。すつかり取り込まれた二ノ宮はセミナーの勧誘員になり、一方、アスカは出会ひ系サイトのサクラをしてゐた。他愛も無い嘘返信を送り続けるアサミは、仕事の合間に二ノ宮が送つて来た、車の中に迷ひ込んで来たアゲハ蝶の画像に心惹かれる。禁を破り、アサミは二ノ宮と会ふ。二ノ宮が手にした『SPA!』誌を目印に、待ち合はせる二人。二ノ宮にとつても、アスカはカモである。喫茶店で、自分が出会つたセミナーを熱烈に勧誘する二ノ宮。正直戸惑ひ気味のアサミを、代表者の奥島(松重)に引き会はせる。アスカは奥島と寝る。奥島の紹介で、アスカは彫師の彫光(嶋田)の下へと連れて行かれる。訳も判らぬままに薬で眠らされ、彫光に下絵を施されるアスカ。彫光も、アスカの肌に一目で惚れ込む。意識を取り戻したアスカは、背中に女郎蜘蛛を背負ふことを決意する。
 どうにも心許ない主演の二人そのままに、ドラマは何時まで経つても定着しない。展開自体も粗雑で、一人の若い女が、背一面の大きな刺青を背負ふことを決意するに至る過程といふものが全く説得力を持ち得てゐない。出足が上手く決まらなかつたままに、その後の展開も右からきのふへと流れて行くまま。女郎蜘蛛を背負ふことによつて、アスカが生まれ変つたことの強度は欠片も見受けられず、奥島が退場した後残り尺三十分程の、俄かに二ノ宮とアスカとが世界の中心でブルース・ブラザーズを叫び始める展開もまるで意味不明。嶋田久作が重低音をバクチクさせる存在感で一人気を吐くのみの、ルーズなVシネである。興が冷める距離感を感じさせる録音も適当な劇伴も、正しくVシネ品質。登場人物が黙つて座つてゐるだけのショットでも、矢鱈とグチャグチャ動くカメラは全く理解不能。おとなしくフィックスで撮れよ、プロジェク太が壊れたのかと思つた。川島令美はとても綺麗な体をしてゐるのだが、背の女郎蜘蛛だけならば流石にキチンと押さへはするものの、数だけならばこなしてゐる割には前からのショットを殆どマトモに押さへもしない濡れ場は、ピクリとも心をときめかせては呉れない。オッパイをロクに揉みもしないといふのは一体如何なものか。ピンク出自といふことはひとまづさて措くとしても、観客の見たいものを見せる、それが商業作家としての、最低限度の良心である筈だ。色んなものが何処かに置き忘れられて来てしまつた今作、全方位的に凡作の烙印を押さざるを得ない。
 のんびりとするにも程があるのかも知れないが、そろそろ私達は知つておいた方がいいのかも知れない。「肌の隙間」(2004)の時には持ち直したやうにも思へたが、かつて我々を轟かせた、瀬々敬久はもう居ない。今あるのは、スペックの低い同姓同名の弟が撮つてゐるものに違ひない。

 ピンク勢からは川瀬陽太が、台詞も少しだけあるチョイ役でワン・シーンのみ出撃。


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