真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 濡れ初めは夢心地」(2006/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影・照明:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:伊藤一平/監督助手:中川大資/撮影助手:海津真也/照明助手:広瀬寛巳/現場応援:田中康文/出演:日高ゆりあ・星沢マリ・結衣・津田篤・世志男・竹本泰志・野村貴浩・本多菊次朗・牧村耕次・樹かず・なかみつせいじ・横須賀正一・神戸顕一)。出演者中、横須賀正一がポスターにはしょういち。
 大蔵商事営業三課勤務のOL・東条(東城か東條かも)明日子(日高)と、二年間の不倫関係にある上司・船越シュンスケ(竹本)との情事で順当に開巻。事の最中は頻りに妻との離婚を口にしながら、二人の息子・フミヤとマサトシ(スナップ写真でのみの登場、子役不明)を溺愛する船越は、事後に至るや口汚く手の平を返すと、挙句にそのままトンズラするかの如く大阪に転勤してしまふ。傷心を抱へつつ、そこは勤め人の悲しい性よ、明日子がそれでも揺られざるを得ない通勤電車。ここで早くも、乗降口上方に貼られた『AHERA』誌車内広告といふ形で、神戸顕一が見切れを果たす。ラフな本多菊次朗と、淫具も用ゐる熟達したテクニックを誇るダンディな牧村耕次などといふ、端役にしては贅沢過ぎる痴漢AとBを経て、その日の明日子に、アキバ系の青島清貴(津田)が電車痴漢・ジェット・ストリーム・アタックを目出度くもなく完成させる。しかも青島が明日子の体に触れるのは、一週間前と三日前に続く、三度目のことだつた。本多菊次朗と牧村耕次を連破した、明日子が度々露にする敵意も込めた不快感をものともせず、なほも青島は体を離さない。終に堪忍袋の尾を切らした明日子が青島の手を取り声を荒げた瞬間、電車が激しく揺れ、清水正二の手によるハチャメチャなCGと共に、明日子は郷里で過ごした高校時代に放り込まれる。メガネにおさげ髪と、地方在住女子高生のアイコンを可憐に具現化する女学生ver.の明日子は、町内相撲大会を見据ゑ特訓に励む初恋相手の和彦(世志男)に、祖母の戒めに従ひ将来的には結婚を前提とした上で処女を捧げる。ところがそんな和彦を、あらうことか姉のみずえ(星沢)に寝取られる。挙句に悪びれもせず嘲笑する二人に明日子が逆上した次の刹那、現在の姿の明日子は再び、電車内に揺り戻される。とはいへ何故だか他の乗客の姿は消えた車内では、けばけばしい扮装のみずえが如何にもチンピラ風のケンジ(野村)と、痴漢プレイに戯れてゐた。衝撃を受ける暇もなく、色男を台無しにした車掌(樹)を噛ませて、明日子は今度は墓地に飛ばされる。後に家出して上京し、職を転々とするみずえは悪い病を患ひ、早死にしてゐた。フと見やると腕時計は針がグルグル早回り、まるで用を成さぬ不思議な空間の中で、古時計を抱いた時計男(横須賀)が静かに明日子を見守る。今作限定の話だが、横須賀正一は少し目方を増してゐるやうにも見える。
 配役残り結衣は、更に条理を超えた遍歴を重ねる明日子の前に現れる、基本タチの百合担当・雅美。この期にいふのも随分では済まない間抜けさではあるが、この手の一般的な蓋然性には必ずしも囚はれぬ幻想譚にあつては、任意の形で三番手濡れ場要員を実に投入し易い。作劇の特色を利した、素直なファイン・プレーといへよう。順番的には終盤に至つて最後に登場するなかみつせいじは、事件の現実的な真相を街頭ビジョンにて伝へるニュースキャスター。スタジオから現場に上手く繋がらなかつた為、なかみつせいじが仕方なく振つたコマーシャルに際して、「神戸印のたこやき」CMで神戸顕一が珍しくも再登場。序盤の、実誌ではなく『AHERA』の広告バージョンといひ、このたこやきCMも、初めてお目にかかつたやうな気がする。その他乗客要員が、十分に潤沢に登場。少なくとも、出演者枠にはクレジットされない。
 『銀河鉄道の夜』かはたまた『不思議の国のアリス』か、超常的な往き来の末に最初の和彦と最新の船越だけでなく、これまで終始男運の無かつたヒロインが、終に運命のお相手に出会ふまでを描いたファンタジック痴漢電車。冷静に検討してみるまでもなく、最終的な始終の強度は決して万全ではないのだが、厳密には残る詰めの甘さを初めから規定された六十分といふ尺にギュッと凝縮して押し込めると、勢ひで観させる陽性娯楽映画の良作である。封切りは晦日前々日、即ち2007年正月映画らしく、女の裸数以外には全く豪華なキャストは、端々まで賑々しく全篇を飾る。明日子が現実地平に帰還するラスト直前に差し挿まれる、みずえらから「人生は紙一重」だと、前向きに自らの手で幸せを掴み取らせようとする応援歌的なメッセージも、木に竹を接ぎ気味のベタであると同時にだからこそ尚更、結果的には的確な段取りとして最終段の推移に磐石さを付与する。ランダムな明日子の時空移動と同様、軸足を失した映画全体も漫然としておかしくはないところが、案外安定した一作。不可思議な物語を描いた、不可思議な映画である。とまでいふのは、作為的な牽強付会に過ぎるであらうか。兎も角オーラスを穏やかに締め括る日高ゆりあの満ち足りた笑顔は、最早細かな野暮をいふ無粋など失せさせる。

 筆の根も乾かぬ内に改めて。何となく調べてみたところ、オーピーは2004年から2008年の「痴漢電車 夢うつろ制服狩り」(2007/監督:友松直之/主演:亜紗美)まで、五年続けて正月番線を痴漢電車で戦つてゐる。その中で池島ゆたかが登板するのは、最初の「痴漢電車 誘惑のよがり声」(2003/主演:愛田美々)に続き二度目。2005、2006の残り二年は連続で出来栄えは大きく上下させ、「痴漢電車 いゝ指・濡れ気分」(2004/主演:愛葉るび・なかみつせいじ)と、「痴漢電車 エッチな痴女に御用心!」(2005/主演:飯沢もも・真田幹也)の渡邊元嗣が務める。

 誤りに気付いた付記< 何時ものことだが迂闊にも、明けてからの公開を無視してゐた。何と凄まじいことに、少なくとも大蔵映画時代の1990年から毎年毎年延々毎年、オーピーは迎春決戦兵器に痴漢電車を走らせてゐる。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« 深窓の令嬢 ... どインランな... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。