痴漢電車 誘惑のよがり声

　「痴漢電車　誘惑のよがり声」（2003/制作：セメントマッチ/提供：オーピー映画/監督：池島ゆたか/脚本：五代暁子/撮影：清水正二/編集：酒井正次/音楽：大場一魅/助監督：森山茂雄/監督助手：松丸善三/撮影助手：岡宮裕/照明応援：広瀬寛巳/出演：愛田美々・山口玲子・望月梨央・池島ゆたか・本多菊次朗・神戸顕一・銀治・樹かず・平川ナオヒロ・石動三六・松田信行、他/特別出演：柏木舞・牧村耕次）。素の出演者中、石動三六以下は本篇クレジットのみ。
　タッチ＆ゴーを合言葉に、チーム・プレーと逃げ足の速さを武器にする神出鬼没の痴漢グループ「スイカ」。メンバーは、リーダーで一号の上北沢（本多）。痴漢芸術論を唱へ、フラワー世代のヒッピーに扮する―馬鹿みたいに目立つ―二号の八幡（神戸）。実際に子供並の短躯を活かし、ランドセルを背負つて小学生を偽る三号・江戸川（銀治）。但し江戸川は痴漢をする際に必ず射精することを信条としてをり、加へてその量は箍が外れて多い。四号は女装・支那人・車椅子の老人・得体の知れないインド人と、痴漢と変装、どちらがメインなのだか最早よく判らない阿佐ヶ谷（樹）。
　刑事の如月（牧村）と榎本真一郎（池島）はスイカを追ひ詰めるが、逆上した上北沢はナイフを抜き、如月は刺される。如月は結果的に、運ばれた先の病院で輸血ミスで死ぬ。（ここは劇中で描かれてはゐないのだが）榎本もスイカを追跡中に、交通事故で下半身不随に。刑事を刺してしまつた上北沢は姿を消し、スイカは活動を停止する。榎本は現場にこそ出られなくなつたものの、車椅子から無線で指示を出す形で刑事は続ける。二年後、二号以下の三人が居酒屋で埒も明かず管を巻いてゐるところに、偶然上北沢が居合はせる。如月の死因が輸血ミスであることを知つた上北沢は―痴漢―現場復帰を決意、スイカは活動を再開する。刺してはゐる時点で、公務執行妨害も通り越して殺人未遂に変りはないのだが。榎本は交通課に籍を置く如月の娘・安奈（愛田）を痴漢囮捜査官に招き入れ、今度こそスイカの逮捕を決意する。
　といふストーリーの、いはずもがなでも敢ていつてしまへば「ボーンコレクター」、の翻案映画ではあるが、勿論ああいふシリアスでなければ暗い映画といふ訳でもなく、ウェル・メイドな、広く手放しに楽しめる娯楽ピンクである。因みに今作の封切りは年末ギリギリ、季節感には欠けるが、正月映画に相応しいともいへよう。強制猥褻―もしくは何とか迷惑防止条例違反・・・どうでもよかないが、迷惑防止条例とは何気に凄い法令名だ―よりも、どう考へても―公務執行妨害込みの―殺人未遂の方が重罪だらう、といふ基本プロット上の重大な瘤に目を瞑りさへすれば。
　本職はストリッパーであるとの主演の愛田美々は、仕損じた福笑ひのやうな首から上には微妙に難がありつつ、伸びやかな手足は大変魅力的。走り姿が抜群に美しいことも、刑事ドラマのヒロインとしては正しく適役といへよう。柏木舞はスイカ紹介シーンで、エキストラに割く予算などないゆゑ何度も何度も登場する、被害者・まい。「何で私ばつかり」と、スナップの利いた自虐ギャクを炸裂させる。肉感的ないやらしい体をしてをり―因みに愛田美々は筋肉質―のんべんだらりと楽しい映画の中で、エロの要素をキッチリと補完する。望月梨央も痴漢の被害者で、パイパンの中村サツキ、この人の体も扇情的で素晴らしい。単独で痴漢してゐた上北沢に嫌な方向に見初められたサツキが、アジトでメンバー全員に輪姦される件が、私見では今作中最もヒット・ポイントが高い濡れ場。山口玲子は安奈の友人・風間綾子、安奈が痴漢の囮捜査をしてゐることを安奈の彼氏・新藤和彦（平川）にチクり、寝取る。いはずと知れた爆乳クイーンである。かうして考へてみると、全般的に娯楽映画として素直に出来てゐることに加へ、カテゴリー上不可避な桃色のハードルも十二分にクリアされてある、さういふところが殊の外素晴らしい。まづプログラム・ピクチャーとしての要請は果たす、いひたいことややりたいことがあるならばそれからだ、さういふ姿勢は重要であらうと思ふ。
　
　松田信行は、ワン・シーン台詞もある、榎本の部下・石川か？アングルとプロジェク太上映の情けない画質とに阻まれ、よく顔が見えなかつた。電車内その他乗客要員として、石動三六が見切れてゐることだけは明確に確認出来た。