真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「名器乱舞 欲情の下半身」(2020/制作:《有》大敬オフィス/提供:オーピー映画/音楽・脚本・監督:清水大敬/撮影・照明:大久保礼司/照明:ジョニー行方/録音:夕梨/ポスター:中江大助/撮影助手:菅田貴弘/助監督:郡司博史/車両部:山梨太郎/仕上げ:東映ラボ・テック㈱/出演:黒川さりな・桃香りり・松緯理湖・長谷川千紗・里見瑤子・大山魔子・森羅万象・野村貴浩・安藤ヒロキオ・銀次郎・フランキー岡村・野間清史・佐々木狂介・川上貴史・郡司博史・末田スエ子・中野剣友会・海空花)。出演者中、郡司博史と末田スエ子は本篇クレジットのみ。主演女優が最後に来るビリングも、本篇ママ。改めて目を向けると編集をスッ飛ばしてのけるクレジットが、何気に大胆ではある。
 全身紐のパンはおろか紐ボディスーツ、だなどと文字通り包み隠さず、最早見せる目的しかない出で立ちの海空花が、御々尻も御々オッパイも惜し気なく放り出しつつのダンスを一頻り披露した上でタイトル・イン。一欠片の脈略もなく、只々ひたすらにひたすらに、主演女優のダンスと裸を見せるためだけのアバンが真綿色したシクラメンよりも清しい。
 “乱舞”以外特段意味のない、ニュートラルな公開題を明けると「萬芸能事務所」であつた。社長の萬万作(フランキー)が誕生日余興のドッキリ―セクシャル―ダンスの用命を受けたタイミングで、所属タレントの山口裕子(海空)が手渡しのギャラを受け取りに現れる。萬から脊髄で折り返す速さで振られた踊り仕事のオファーを、裕子も水が低きに流れる勢ひで快諾。夢がL.A.ダンス留学なり、その資金稼ぎの倉庫アルバイトといつた裕子の外堀を会話を通して懇切丁寧に開陳。裕子が辞したのち、萬が内縁の妻・殿岡初枝(松緯)と夫婦生活をフルスイングするのが本格的な初戦。一方、「カサブランカ探偵事務所」。いや、ツッコんだら負けなのは判つてゐる、判つてはゐるけれど。観る者見るものに無用のジレンマを強ひる、清水大敬のプリミティブな映画愛についてはこの際さて措き、劇中その他の面子は別に見当たらないカサ探所長の鳳亜里沙(長谷川)に、上村美由紀(里見)が退職後自宅に持ち帰つてゐた経理帳簿を冷蔵庫下に隠したまゝ、風呂場から姿を消した夫・武男(銀次郎)捜しを依頼する。またあちこち面倒臭い案件だなあ、といふのも際限がなくなるゆゑさて措き、後々の遣り取りで武男は経理士とされるものの、あのさ、そこは公認会計士だよね。経理士制度が完全に廃止されたのなんて昭和も昭和のクッソ昭和、半世紀以上昔の昭和42年だぞ、時代劇か。
 配役残り、大山魔子は裕子が働く倉庫の社長・梅若千代菊。一ヶ月後には取り壊すの一点張りで、業務終了後の倉庫を何にでも貸して呉れる豪快か適当な女丈夫。ただ一言釘を刺しておくと、裕子がホットパンツなのは兎も角、御宅の倉庫は従業員にヘルメットと安靴を貸与しないのか。といふか幾ら常温倉庫とはいへ、ホットパンツも“兎も角”ぢやねえだろ。閑話、休題。鮫島とその役名をパチ風に画面一杯大書する駄演出に続いて飛び込んで来る森羅万象が、鮫島工業あるいは興業の会長・鮫島権蔵。黒川さりなが鮫島の秘書的ポジションにあると思しき朱雀で、川上貴史は常時親分の御側に付き従ふ三柴理似の強面。別室にて武男をビッシビシ責める、左足の不自由な安藤ヒロキオが鮫島の息子・ジョージ。桃香りりと郡司博史に末田スエ子は、武男の部下でジョージに犯されたショックで廃人になつた舞悦子と、悦子が収容される施設の医師と看護師。野村貴浩は裕子の洋弓と剣術の師匠にして、男女の仲にもある森田、矢鱈と凄い豪邸に住んでゐる。あと初めて気づいたのが、この人何時歯を治した?野間清史と佐々木狂介(ex.佐々木共輔/a.k.a.佐々木恭輔)は、最終的な死因が地味に不明な千代菊の亡夫と、ジョージと二人がかりで野間清史を半分どころか全殺ししかけた、武男拉致の実行犯でもある鮫島部。二人で野間清史をシメる場に介入した森田が、得物―肉切り包丁―を抜いたジョージの足首をヘシ折つた因縁。凶悪犯罪に等しい前作「おねだり、たちまち、どスケベ三昧」(2019/S級戦犯:中村京子/A級戦犯:三橋理絵)から更に一人減つた中野剣友会は、大立ち回りを賑やかす鮫島部。今回ディレクションに専念したのか、平素なら定位置の座をフランキー岡村に譲つた清水大敬が、俳優部的には内トラ程度にも見切れず。
 神を宿す細部を忘れてゐた、鮫島邸が、御馴染白亜のプールつき豪邸、過去形かも。新作がミサトを使ふのも何時以来だろ、と気になり調べてみると。浜野佐知の現状最新兼の最終作、自身四本目となるデジエク第八弾「黒い過去帳 私を責めないで」(2017/原案:山﨑邦紀/脚本:浜野佐知/主演:卯水咲流)まで遡る実に三年ぶりとなる、清水大敬2020年第一作。
 何せ前回の出来が大概もしくは壮絶につき、薄氷を踏む思ひで恐々小屋の敷居を跨いだものである。さうしたところ―多分―大好きな海空花をヒロインに戻したのが功を奏したか、結論からいふと清大大復調。そもそも冒頭のドッキリダンスが、倅のバースデイを祝ふ鮫島の意を酌んだ朱雀の依頼。案外よく考へられてあるのかも知れない顛末で裕子に鮫島家と関りを持たせると、梅若夫婦も消極的な当事者たる、森田とジョージの遺恨は正直無理気味。ジョージの誕生日当日、即ち裕子が鮫島邸内にゐる同じ時間に、偶々、あくまで偶ッ々亜里沙も潜入してゐたりする、のはありがちな偶然。兎にも角にも役者を揃へ、最終的には遮二無二倉庫での大乱闘に雪崩れ込む、限りなく自動的なジェネレータじみたドラマツルギー。正直手に余らう頭数の多さはイントロで既に渋滞傾向、の火に油を注ぎ、フラ岡と松緯理湖(面倒臭い改名をしたex.松井理子)による妙に尺を喰ふ新ならぬ珍喜劇が、逆の意味で見事にピクリともクスリとも面白くない。凡そ素面の劇映画として取り扱はうとする分には爆風感覚の逆風ばかり吹き荒ぶ中、漢清水大敬が展開した正面戦が、寸暇を惜しんで捻ぢ込む、何れも高い煽情性を轟かせる濡れ場の連打。恐らく追求なり精進しようとも端から考へてはゐまい、平然とブツ切りで体位移動を事済ます、繋ぎの雑さに関してはこの際目を瞑つてしまへ。とりわけ強靭に輝くのが、鮫島のゐぬ間に、ジョージが朱雀に対し確信犯的にいはゆる親子丼を求める件。ミサトの吹き抜けも利しての、大敬オフィスにしてはらしからぬかかつてなく様々な角度から意欲的に絡みを狙ひながら、かつ如何なる画角にあつても的確に乳尻でヌき続ける、もとい的確に乳尻を抜き続けるフルコンタクトな撮影が出色。後ろから突かれ悩ましく躍る、黒川さりなのオッパイが狂ほしいほどにエクストリーム。あれやこれや、といふかあれもこれもの疑問やツッコミ処をも、連べ撃つ女の裸で有無もいはさず捩ぢ伏せる。攻撃は最大の防御なりを、地で行く超攻撃的裸映画。狭義の絡みに止(とど)まらず、地を這ひ女の股間に肉薄するローアングルが隙あらば火を噴くのも、近年の大敬オフィス作に於ける十分強力な副兵装。ちなみに仰角の暴力を免れるのは僅かに里見瑤子のみで、脱ぐのは実質三番手に限りなく近い、四番手の松緯理湖まで。寧ろ暫しの大乱闘で一時色気の沈滞する、クライマックスの失速さへ否めなくもない。面白い面白くない、物語だテーマだ技法だ、さういふ話は、余所行つてやつて呉れないかな。黙つて女の裸を浴びろ、能書垂れてないで勃てろ、棹を勃てろ!そんな清水大敬の腹から震へる馬鹿声が聞こえて来たのは、幻聴にさうゐない、病院行け。親を殺されても傑作とはいへないにせよ、ケッサクなのが二番手第一戦の導入。それまで元気であつた鮫島が出し抜けに卒倒するのが、オッパイの禁断症状とか清水大敬の天才を錯覚するほかない、結局錯覚かよ。

 所詮といつては何だが、細かな難癖をつける類の代物でもないとはいへ、一点疑問を覚えたのが鮫島一派を壊滅させる懲悪以外に、勧める善も特に存在しない小粒の大団円。憐れ終ぞ回復することなく、悦子が壊れたまゝ仕舞ひなのは底抜けに陽性のバーゲン大特価娯楽映画をなほ一円安くする、不用意に残された翳りであつたのではなからうか。


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