真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「汗ばむ美乳妻 夫に背いた昼下がり」(2016/制作:Production Lenny/提供:オーピー映画/監督:城定秀夫/脚本:長濱亮祐・城定秀夫/プロデューサー:久保獅子/ラインプロデューサー:羽根誠/撮影・照明:田宮健彦/録音:小林徹哉/助監督:伊藤一平/編集:城定秀夫/ヘアメイク:ビューティ☆佐口/スチール:本田あきら/監督助手:寺田瑛/撮影助手:高嶋正人/制作応援:浅木大/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:七海なな・木下桂一・沢村純・青山真希・富沢恵・森羅万象・麻木貴仁・久保奮迅・一本杉渡)。出演者中、一本杉渡は本篇クレジットのみ。
 入道雲を背景に、“昼の光に 夜の闇の深さが分かるものか”とニーチェを引く。福原彰(a.k.a.福俵満)が脚本を書いたのか?とアバンから不安に駆られる。
 空調が効いてゐない喫茶店、結婚相談所を介して、旧姓不明のカオル(七海)と谷輝彦(木下)が実際に会つてみる席。極度に潔癖な輝彦はナーバスぶりを爆裂し、交際から男性経験のないカオルもしどろもどろに爆死する。店に匙を投げた輝彦が会計を済ませて来るとテーブルを離れるや、正しく名が体を表し匂ひフェチなカオルは机上に残された、輝彦が汗を拭いたハンカチに飛びつきスーハ―スーハ―喜悦。若干位置関係は微妙ながら、カオルの汗がポチャンとカップのコーヒーに落ちてタイトル・イン。イコール久保獅子でa.k.a.久保和明の久保奮迅が、こゝでのウェイター。
 当然の如くタイトル明けの夫婦生活と一夜明けての朝食を通して、偏執的に室内環境のみならず万事を管理する輝彦との、カオリの息の詰まりさうな結婚生活が描かれる。外出したカオリは、草野球の面々がフェンスに引つ掛けた汚れたアンダーシャツをくすねると、三年の時を経て今なほ健在の、十年ぶりの衝撃「人妻セカンドバージン 私を襲つて下さい」で火を噴いた見かけによらず高い身体能力を弾けさせ猛ダッシュ。家の中をグッチャグチャにしながらの激しいオナニーに燃えると、度外れて神経質な輝彦に悟られないやう家内を入念に整へ直し、お宝のアンダーシャツはジップロックに入れトランクに保管する。それがカオルの、ある意味マイナスとプラスが安定した日常だつた。例によつてジョギング男(伊藤一平)から拝借したキャップで燃えたカオリは、事後後始末で大量に消費するティッシュを水洗トイレに詰まらせてしまふ。現れた水道屋・浅野文平(沢村)は汗かきで、頻りに汗を拭くタオルに欲情したカオルは、浅野が作業中にも関らずタオルを手に浴室に飛び込むと堰の切れた自慰に狂ひ、その場を目撃した、浅野に手篭めにされる形で一線を越える。翌日だか後日、浅野が風呂を我慢する日数を考慮すると恐らく翌日。輝彦から接待で遅くなる旨のメールを着弾したカオルが、トイレを詰まらせてもゐないのに再び浅野を呼ぶ一方、画に描いたやうなガッハッハ系の取引先専務・西岡(森羅)と、上司の中嶋(麻木)に捕まりSMクラブの敷居を跨いだ輝彦も、ヤンキー口調が女王の気品を感じさせない二階堂美香(青山)と出会ふ、名前は女王様ぽい。ところで、浅野役の沢村純吉の変名ではない沢村純に話を戻すと、「悦楽交差点」時に気づかなかつた己の不明を恥ぢるばかりだが、正式に改名したのか否かは不明の中村英児。それと青山真希のex.逢崎みゆにつられ性懲りもない繰言を吹くと、時折映像畑に帰還する形跡が窺へぬでもない、中村和愛の超復帰を当サイトは何時までも諦めない。
 配役残り富沢恵は、センム改めハゲブタ―直線的すぐる(;´Д`)―を責めるアフロ女王。一応いはゆるロケット型のオッパイは披露するもののまるで何か口に含んだかのやうな回りくどい口跡の、謎の逸材。如何にもな名義で蘭汰郎の変名に見えた一本杉渡は、浅野の退職をカオリに告げる―のと住所を売る―水道修理屋の若い衆。
 電撃上陸作「悦楽交差点 オンナの裏に出会ふとき」(2015/脚本協力:城定由有子/主演:古川いおり)に続く、城定秀夫大蔵第二作。七海なな的にも、「人妻セカンドバージン」以来のピンク第二戦。どうやら、世間では城定秀夫を激賞しないと親が死ぬ呪ひでも蔓延してゐるらしいが、当サイトはそんなこた知つたこつちやない。前半と後半とでベクトルが180°ヘアピン大転換するユニークな構成には一旦度肝を抜かれかけた、「悦楽交差点」から更におとなしく、あるいは小ぢんまりと。何を仰々しく持ち出したのか、てんで腑に落ちないニーチェは微笑ましい御愛嬌と生温かくスルーした上で、そこが通らないと瓢箪から駒が出て来ないともいへ、木に竹を接ぐ輝彦の目覚めと、この期に及んで埒が明かない浅野の設定周りの些末なリアリズムも一旦さて措く。に、しても。今作詰まるところ、ありがちな世間の狭さがスパークする実質的スワッピングの末に、早々に擦れ違ひかけてゐた夫婦がヨリを戻す。要はそれだけのよくある話―ザッと探して「義母の淫臭 だらしない下半身」(2000/監督:大門通/脚本:有馬仟世/主演:美麗)とか、「夫婦交換 刺激に飢ゑた巨乳妻」(2005/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/主演:朝倉まりあ)とか―に過ぎず、城定秀夫にとつて、北沢幸雄以外に踏んだ場数でいふともう一人の師匠格と目したとて差し支へあるまい、我等が無冠か無言の巨匠・新田栄ならば全然勿体ぶらず、サラッかサクッと良くも悪くも水のやうに描いてみせたのではなからうか。今回表面的には洗練だかオサレに撮り上げられ、その一見一般風の出来映えはプラスまで見据ゑたオーピーのお眼鏡には適つたものであるのかも知れないが、何てこともない物語は何てこともなく撮る。そのルーチンや枯れと紙一重の後先省みない素気なさこそが、量産型娯楽映画的には寧ろスマートであるやうにも思へる。瀬戸際中の瀬戸際で殆ど満足に量産し得てさへゐない状況で、時代に錯誤するにもほどがある点に関しては、片隅を掠めなくもないけれど。


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