真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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色情旅行 香港慕情
か行
/
2016年05月11日
「
色情旅行 香港慕情
」(昭和48/製作:日活株式会社/監督:小沼勝/脚本:中島丈博/企画:伊地智啓/撮影:山崎善弘/美術:若松正雄/録音:福島信雅/照明:新川真/編集:山田真司/音楽:月見里太一/助監督:八巻晶彦/色彩計測:前田米造/現像:東洋現像所/製作担当者:服部紹男/出演:宮下順子・小川節子・井上博一・やかた和彦・片桐夕子・白井鋭・清水国雄・賀川修嗣・南昌子・趙宣龍・葦篠儀・甘開物・葦俊)。出演者中、賀川修嗣と趙宣龍以降は本篇クレジットのみ。クレジットはスッ飛ばす配給に関しては事実上“提供:Xces Film”。
妹・室井匠子(小川)の部屋を借り、浅利章子(宮下)が東洋貿易に勤務する夫の後輩・諸橋郁也(清水)と不倫の逢瀬。部屋を二人に渡し外出した匠子が向かつたのは何と、知らぬは亭主ばかりなり、章子の夫にして匠子の義兄・住夫(井上)が、呑気に家内でゴルフクラブを振る浅利家。何処までも呑気に住夫は欠片も気付かないものの、絶妙に膳を据ゑかける気配を窺はせつつ、結局匠子は義兄宅も辞する。諸橋を誰かしらのお供の香港出張に送り出し、帰宅した住夫は愕然とする。章子が、置手紙を残し諸橋と香港に飛んでゐたのだ。てな塩梅で、章子を捜すべく、住夫も香港に乗り込みタイトル・イン。見るから危なつかしげに章子捜しに奔走する住夫は、治安の悪さうな界隈にてまんまと四人組に絡まれる。その場にフラリと飛び込んで来たやかた和彦が、時代を感じさせる手刀で暴漢をビッシビシ圧倒。どう見ても堅気には見えない矢吹豪(やかた)は、何故だかその後も住夫に手を貸す。章子を発見したといふ矢吹に、既に正規の休暇も消化した住夫が連れて行かれた先は、住居代りの―航行可能なのか不能なのか微妙な―舟々が軒先もとい舳先を連ねる水上スラム街。そこにゐたのは宮下順子の二役ではあつても章子ではなく、シャブ中の支那人売春婦・春玲だつた。
配役残り白井鋭と賀川修嗣がよく判らないけれど、多分東洋貿易香港支社長か支店長の添田邦道と、日本語の出来る香港警察霊安室担当官。日本人観光客を拉致し、売春窟に放り込む。大概などアウトローの矢吹の稼業に、何時しか住夫も加担。片桐夕子と南昌子は、二人にトッ捕まる大阪からの旅行者・君子と利枝。現地トラに関しては性別すら手も足も出ないが、裸要員も結構な数投入される。
ロマポ初海外ロケ作との、小沼勝昭和48年第二作。因みにロマポ香港ものの最終作は、旦那・木俣堯喬の「
中川みず穂 ブルーコアin香港
」(昭和61/新東宝)とプロ鷹が恐らく二本撮りした、珠瑠美の買取系「香港絶倫夫人」(脚本:木俣堯喬/主演:川上雅代)。重ねて因みにピンクだと現状海外ロケ最終戦は、フィリピンにまで出張り台詞は何時ものシネキャビンで日本語を豪快にアテレコした、下元哲の「
淫婦義母 エマニエル夫人
」(2006/脚本:関根和美・水上晃太/主演:サンドラ・ジュリア)。
今作に話を戻すと、ビリング頭はあくまで宮下順子とはいへ、ビッグ・バジェットな逃避行を仕出かした、章子に関してはものの見事に綺麗に完スルー。住夫に向けられる匠子の健気な眼差しも、精々最初と最後を整へるお飾り程度。平凡なサラリーマンが、苛烈なリベンジャーを経てやがて一子相伝的に一人前の外道として異国の地で一皮剥ける多国籍フィルム・ノワールに、殆ど女の裸すら何処吹く風な勢ひで完全に振りきれてみせるのが面白い。最初に打たれたシャブで錯乱した住夫が、無数の時計に腰まで埋まりながらハンマーで時計を叩き壊し、鉄格子の中ではゾンビみたいな造形の阿片中毒者の群れに、章子だか春玲が凌辱される。結構延々続く、まるで地獄巡りのやうなバッド・トリップ描写は、わざわざ海を渡つて何を撮りに行つてゐるのかとツッコミたくなるほどの異様な迫力。出し抜けな最期は藪蛇さと紙一重ともいへ、次第に消耗して行く住夫を慮つた、矢吹がフライパンのまゝ差し出す炒つた玉蜀黍も妙に旨さうだ。宮下順子・小川節子・片桐夕子と一線級のスターを三枚並べる豪華な布陣を敷いておいて、一見正体不明に入れ揚げる矢吹と、ある意味その期待に応へる住夫。前面に押し出された二人の男の宿命的なドラマに、現にそれしか印象が残らないのが一興である。
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