真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「女子大生レズ 暴姦の罠」(2014/制作:OKプロモーション/提供:オーピー映画/監督:小川欽也/脚本:水谷一二三/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/音楽:OK企画/助監督:加藤義一/撮影助手:安間大/照明助手:小山悟/監督助手:小関裕次郎/効果:東京スクリーンサービス/出演:きみの歩美・星野ゆず・倖田李梨・平川直大・岡田智宏・姿良三・青森次郎・なかみつせいじ)。脚本の水谷一二三と出演者中姿良三は、小川欽也の変名。同じく出演者中、青森次郎は本篇クレジットのみ。
 霧の立ち込める山道を、倖田李梨が覚束ない足取りで歩く。その後方に、左折して来る形でヨタ車がフレーム・イン。不審に思つた運転席のなかみつせいじが車を寄せると、倖田李梨は行き倒れる。運転席目線で一時流した上で、無味乾燥なタイトル・イン。藤田産業グループ代表の藤田宏二(なかみつ)は、元々の行き先であつた自身の別荘に行き倒れた女・川村知子(倖田)を担ぎ込む。手荷物に手をつけ、知子が自殺しようとしてゐたのを知つた藤田は、半裸に剥かれた状態で目を覚まし騒ぎ始めた知子に、生まれ変つたつもりでの愛人契約を提示。ザクザク手籠めにする、最早流石とでもしかいひやうがない。翌朝、裸エプロンの知子が何時の間にかすつかり斜め上にソノ気の一方、会社が何事かキナ臭いトラブルに見舞はれた藤田は緊急帰京。入れ替る形で、藤田の女子大生の娘・美沙(きみの)と、美沙の後輩で、当然世間には秘密の男と女ならぬ女と女の仲の須貝加代(星野)が藤田家別荘に入る。とりあへず自己紹介した知子を、美沙はお手伝ひかと誤認。美沙が加代と百合の花咲かせる中、社会の不合理への怒りを拗らせた企業ゴロ・北村裕二(平川)と、ヒャッハーな造形の弟分・小泉明(岡田)が別荘を襲撃する。
 豪気にも監督生活半世紀はスルーして済ます、今上御大・小川欽也最新作。伊豆に行つて、帰つて来たり来なかつたりする―だけの―映画。2011年「若妻と熟女妻 絶頂のあへぎ声」(主演:夏川亜咲)に於いて完成した現代ピンクの到達点・伊豆映画の、ビリングが混濁する「美女家庭教師の谷間レッスン」(2012/主演:あずみ恋か来栖ひなた)、娯楽映画の慎ましやかな名作「乱宴の宿 湯けむり未亡人」(2013/主演:舞原美咲)を経ての、初のサスペンス。といつて、別荘ロケーションの御馴染花宴に適当に拡げた風呂敷を、デウス・エクス・マキナたる刑事に自ら扮した小川欽也―竹洞哲也の変名の青森次郎が部下―がガッサリ荒畳みして逃げるラストは、一夜明けると知子が従順な肉メイドと化してゐる超展開以上に豪快。豪快といふか何といふか、グルッと一周はおろかグルグル数周して全てをブッ千切る、御大クラスにして初めて可能な―あるいは許される―正体不明のカタルシス?には言葉も失ひクラクラ来るほかない。折角の周年記念をスッ飛ばす程度は正しく序の口、数少ない見所は今年に入つて戦線に完全復帰した感が頼もしい、クレジットをオミットされる田中康文2013年第一作「人妻エロ道中 激しく乗せて」(主演:加藤ツバキ)に気付かなかつたフリをすると、池島ゆたか2012年第三作「婚前OL 不埒に濡れて」(脚本:五代暁子/主演:周防ゆきこ)以来。小川組だと「新婚OL いたづらな桃尻」(2010/脚本:岡桜文一/脚本監修:関根和美/主演:愛葉るび/ひらかわなおひろ表記)以来久々の我等がナオヒーローこと平川直大の、ブランクを感じさせないお腹一杯の暴れぷりくらゐか。但し何れの絡みも乳首への責めに執拗な執着を発揮、裸映画的にはそれはそれでそれなりに見応へもなくはない。反面伊豆映画としての致命的な弱点は、濡れ場に傾注した諸刃の剣で始終は概ね花宴に籠りきり、伊豆の風光明媚に割く尺が殆ど見当たらないのが矢張り厳しい。

 ところで、この週の前田有楽三本立て併映は新里猛作の「痴漢タクシー エクスタシードライバー」(1999/脚本:大河原ちさと/主演:田中要次・奈賀毬子)の、2012年旧作改題版「性欲タクシー 走る車内で」と、新田栄の「和風コンパニオン 絶頂露天風呂」(1999/脚本:夏季忍=久須美欽一/主演:柿沼ゆう子)の、2009年旧作改題版「和服のコンパニオン 極上昇天」。何でわざわざ平素は触れない類の話題を持ち出したのかといふと、注目点は「和風コンパニオン 絶頂露天風呂」のビリング下位。ノン・クレジットの新田栄と、丘尚輝(=岡輝男)とともに助平宿泊客要員の青森哲也こと、青森出身の竹洞哲也。即ち、十五年の歳月を越え新田組と小川組とに跨り、竹洞哲也が青森姓で俳優部に紛れ込む二作を並べた番組を組んでみせた格好になる。純然たる単なる偶然にさうゐないにせよ、恐らくさういふ例がほかにはない筈ゆゑピン・ポイントぶりが恐ろしい。これを量産型娯楽映画の案外馬鹿にならぬ歴史が弾き出した、奇跡と称さずして果たして何といはう。
 重ねてところで、クリスマスも跨いで封切られた今作が、フィルム撮影最後のピンク映画となる。この先歴史が逆方向に戻りもしなければ、よもやまさかでENKなり国映が飛び込んで来る驚天動地もあるまい。別に出来上がつた映画をどういふ順番で公開するかは単なる大蔵の匙加減ひとつともへ、肩肘張らないどころか抜けてんぢやねえかといふほどの肩の力の抜け具合は、それはそれでそれらしくもある。


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