真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
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淫行病棟 乱れ泣く白衣
さ行
/
2012年06月27日
「
淫行病棟 乱れ泣く白衣
」(2011/制作:《有》大敬オフィス/提供:オーピー映画/小道具・衣装・出演・制作・音楽・脚本・監督:清水大敬/撮影:井上明夫/照明:小川満/音楽:サウンド・チィーバー/美術:花椿桜子/編集:酒井正次/録音:シネ・キャビン/助監督:古川諒太/撮影助手:河戸浩一郎/照明助手:八木徹/演出助手:関野弥太平/ポスター撮り現場スチール:山岡達也/制作進行:野上裕/車輌部:花椿桜子/協力:劇団ザ・スラップスティック、明治大学 演劇学専攻『実験劇場』OB会/出演:野中あんり・しのざきさとみ・大黒恵・那波隆史・山科薫・風吹進・牧村耕次・中江だいちん・松島出版・ヨッサリアン・中村勝則・鎌田金太郎・平田浩二・中山のん・三毛猫泣太郎・なかみつせいじ・竹本泰志・周磨ッ破・三毛猫泣太郎・和田平助・大海昇造・金山弘美・安藤恵子・生方哲・いのしし鍋吉・石部金吉・相楽総三・岡野由紀・浅野真理/特別出演:艶堂しほり)。出演者中中江だいちんから三毛猫泣太郎までと、周磨ッ破以降は本篇クレジットのみ。三毛猫泣太郎の二重クレジットは、本篇に従ふ。美術の花椿桜子と助監督の古川諒太が、ポスターでは何故かてらおか工房と関谷和樹に、もうやりたい放題。
鮫島医院、有能な医師・石山健児(竹本)が一(ひと)オペ終へる。看護婦の山口裕子(野中)らが見守る前で、手術は成功したらしく誇らしげな石山ではあつたが、タイトル挿んで奈落の底へ。薬事法違反の容疑で、石山は前沢署の野田刑事(牧村)に逮捕される。
清水組例によつての徒な大所帯を、実際の登場順には必ずしも囚はれずに整理すると、鮫島医院は妻の明美(艶堂)が目を光らせる中、婿養子で院長の鮫島(なかみつ)と、医学部に進学出来なかつたのに執拗な劣等感も地味に懐き続ける、蝶ネクタイと始終手の中で弄ぶジッポーが特徴的な造形の経理部長・根本(那波)が取り仕切つてゐた。石山は鮫島の稚拙な医療技術と、営利最優先の病院経営とに反発、鮫島の手術ミスを医師会に告発する腹を固める。鮫島らは、正直この辺りの相関はギミックの過積載でグッチャグチャなのだが、元々寝たきりの義母・芳江(大黒)と、事故により新たに車椅子生活となつた、物書きと思しき夫・武夫(風吹)を抱へ経済的に逆らへぬ状態にあつた裕子を使ひ、石山のヘロイン盗難を偽装。しかも裕子と石山が当時不倫関係にあつたりもするのが、不用意にやゝこしい。とりあへず首尾よく、石山が実刑を喰らつたまでが二年前。そして現在、出所した石山に、かつて命を救はれた青木世津子(しのざき)が接触。下の名前と同じ屋号の、自身が営む小料理屋へと誘(いざな)ふ。軽く祝杯を交しがてら世津子主導で事に及ぶのは、しのざきさとみとしては「
クリーニング恥娘。 いやらしい染み
」(2008/監督:松岡邦彦/脚本:今西守/主演:長崎メグ)以来の銀幕実戦。新版公開畑では大レギュラーなので忘れがちにもなるのか、脱ぎなしの出演でも「
誘惑教師 《秘》巨乳レッスン
」(2009/監督:加藤義一/脚本:岡輝男/主演:@YOU)以来となる。直截に切り込むと、首から下よりも、寧ろ上の方に加齢を感じさせる。因みに来年は、2010年時のインタビューに於いて自ら区切りとして掲げた年に当たる。ピンク自体とのマッチ・レースの様相を呈しかねないのかも知れないが、しのざきさとみ的には全然戦へるぞ。柄にもない筆を滑らせると、我々も歴戦の女傑の背中を後押しするべきではなからうか。話を戻して、前沢を捨てる腹の石山を世津子は説得。ここがまた、藪から棒といふか大胆といへばいいのか判断に苦しむ、正体不明の飛躍ではあるが、兎も角医師の職は追はれた、石山は特技のクラリネットを活かしちんどん屋に転身。何といふか、シュールの領域に突入した発想でもある。そんな石山の姿を鮫島らは嘲笑し、裕子は複雑な心境に駆られる。出演者残り山科薫は、石山には大きく劣るも、鮫島よりは断然マシな鮫島医院医師・前田。清水大敬―は、ちんどん屋のクライアント「大阪屋」社長―主宰の劇団ザ・スラップスティック勢と、ピンクス有志動員により賄はれるエキストラ部は、院内と各種司法要員に、ちんどん部隊。商業映画なのに自主臭さを爆裂させる面子の画的な貧しさではありつつ、ちんどん行列のストレートに楽しげな風情は買へる。
清水大敬―の癖に、とは敢ていふまい―2011年順調に第二作は、まさかの六年ぶり電撃監督復帰を果たした「
愛人熟女 肉隷従縄責め
」(2008/主演:沙羅樹)からも早五作、因みに通算では十三作目。さうしたところ良くしたものか悪くしたものか、新味も面白味も別になければ派手な破綻も特には見当たらない、ひとまづ正攻法の人間ドラマが、幾分といふか所々ハイテンションなばかりで案外粛々と進行する。残り全ての登場人物が狂騒的に喚き散らすのに終始し、ヒロインと観客を翻弄することもなければ、よくいふとアヴァンギャルドな、端的には木端微塵の魔展開が火を噴き、途方に暮れさせられるでもない。ところがさうなると、逆に妙な物足りなさも覚えてしまふのが人情といふもの。だなどと、己の変節も棚に上げ先に進む無節操が許されるならば、当たり前の物語をノッペリと綴られたところで、清水大敬に求められてゐるものは、さうではない筈だといふ意も強い。何も、壊れてゐない映画を撮るなとまでいふつもりは勿論毛頭ないが、根本的に不満を残すのは、しのざき御大については大記録への偉大な一歩、艶堂しほりは特別出演枠にも関らず妖艶な魅力を振り撒く機会にそこそこ恵まれるとして、問題なのが野中あんり。折角超絶可憐な主演女優を、しかもお誂へ向きに悪漢どもに汚され貪られるポジションに擁しておきながら、徒に多い頭数の配役を消化するのにも土台限られた尺を削られ、裕子の被虐シークエンスのどうしやうもない不足には、激しく首を傾げさせられざるを得ない。再び前言を翻すが、例へば「大阪屋」絡みのちんどん練り歩く件なんぞは、二度三度と重ねられる割には要は同じ段取りを繰り返してゐるだけなので、いつそ一幕きりで十分だ。そんなことよりも、何故もつと裕子が鮫島と根本と黒百合を狂ひ咲かせる明美とに、手を換へ品を換へ陵辱され倒す濡れ場を畳み込み、下賤な下心を満足させない。その点に関しては前作「
愛人OLゑぐり折檻
」が、何はともあれ藤崎クロエの裸だけはお腹一杯に見せて呉れただけに、なほ一層釈然としない心が残る。
基本線としては、甚だ中途半端な作家的成長を遂げた清水大敬が、結果裸映画に際して女の裸といふ、最も大切な果実を明後日だか一昨日に置き忘れて来た一作ではある。尤も、他愛のないメッセージを特大クレジットで打ち抜きよくて呆れさせ悪くすれば神経を逆撫でする、いはゆる清水大敬病はオーラスにて健在。ゆめゆめ誤解なきやう一言お断り申し上げておくが、決してそのことに、一種安堵を覚えてゐたりする訳では断じてない。あと発症する直前にも、清水大敬は「心配しないで下さい」程度の台詞を噛むなよな、一体何年選手なんだ。百歩譲つて人のすることゆゑ失敗は仕方もないにせよ、それならば黙つて録り直せばいいではないか。
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