真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「触らせる女 恥淫のドレス」(1998『痴女電車 さはり放題』の2009年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:友松直之/脚本:大河原ちさと/企画:福俵満/撮影:中尾正人/照明:中元文孝/助監督:藤原健一/演出助手:石川二郎・佐々木直也/撮影助手:奥野英雄/ヘアメイク:久保田かすみ/スチール:本田あきら/キャスティング:寺西正己 アクトレスワールド/編集:酒井正次/録音:シネキャビン/現像:東映化学/協力:田村孝之・斉藤一男・長谷川プロ・HIRO'S CAR/制作協力:《有》幻想配給社/出演:松沢菜々子・風間今日子・江東夏海《新人》・隆西凌・平正義《子役》・久保新二・大塚浩史《新人》・倉兼由貴・横塚明・マサシ《コントD51》・沢田徹・小原理沙・瀬戸将哉・高倉亜紀・勝虎未来)。出演者中、平正義と横塚明以降は本篇クレジットのみ。因みに今作は2002年に、「人妻痴女 またがる」といふ新題で既に一度新版公開済み。 
 混み合ふ通勤電車の車中、寺西徹を縦に引き伸ばしたやうなサラリーマン(横塚)に、ウィッグと大きなサングラスとで顔は隠した赤いドレスの女が近付く。女は自ら男の体に接触すると痴女行為を展開、受けた男が盛り上がつたところで、鋏で相手のスーツを切り裂き姿を消す。我に帰つたサラリーマンは大恥をかく、といふ寸法である。テレビのニュースが昨今都内に出没する赤いドレスの不審者の事件を伝へ、五才の幼稚園児の息子・正義(平)はお人形さんを鋏で突(つゝ)いて遊ぶ傍ら、高田陽子(松沢)は怯えながら夕食の支度に追はれる。そこに、公務員でもあるのか毎晩六時半には家にゐる夫(隆西)帰宅。ところで隆西凌といふのは、イコール稲葉凌一。仕事に関する鬱積からか、高田は料理が不味いといつては陽子に暴力を振るふ。その夜、手の平を返すやうに謝りながら体を求めて来る高田に対し、弱い陽子は自らの非を詫びることしか出来なかつた。陽子の体には高田のDVによる生傷が絶えず、見かねた看護婦の和江(風間)から、ルームメイトが男を作つて出て行つたゆゑ空いてゐるといふ自室に転がり込むやう勧められる。一方、教へ子の夏海(江東)と男女の仲にある淫行教師・木島(多分大塚浩史)は、夏海を教頭(久保)に売る。夏海の若い肉体に驚喜する教頭の、「この鮫肌のやうな餅肌☆」とかいふ小台詞は、絶対に大河原ちさとが書いたものではなく久保チンのアドリブに違ひない、リップシンクも清々しく合つてねえし。電車内で痴漢に遭つた夏海は、逃げられさうになつたオッサンの痴漢(マサシ)を陽子・正義親子と一緒の和江が足を引つ掛けて仕留めたことから、坊やは兎も角二人と仲良くなる。四人連れで入つた居酒屋にて、夏海が教頭から巻き上げた金を軍資金に盛り上がる。昨今世間を騒がせる赤い切り裂き魔に触発された和江と夏海は、教頭・木島に高田、女を蔑ろにする男達に対する逆襲を決意する。ここで、正義くんは勿論のこととして、酒が飲めないのか陽子もオレンジジュースを飲んでゐたりするさりげないディテールが、何気に秀逸だ。といふか子供が居ることも考へると、ここは酒場ではなくファミレスかマックでも良かつたやうな一般的な疑問は残る、撮影させて呉れないか。
 バタバタしてゐる内に結局ほぼ軒並拾ひ損ねてしまつたが、ピンク映画にしては妙に大勢出演者としてクレジットされる。他に勝虎未来が、和江と立ち話する看護婦同僚。倉兼由貴は、和江に喰はれるギブスで長髪の大学生・中山君。
 劇中鍵を握る赤いドレスの女の正体に関しては、実際に今作を前にした場合、一欠片の説明も要しまい。女達の復讐物語と、暴力夫からの陽子の解放と再起。二本立てのメイン・プロットは一応形式的な起承転結はひとまづ形作つてゐるものの、全体的な一本の映画としての強度は然程強くない。明後日には飛び抜けたアクティビティを誇りつつ、ヒロインたるべき陽子が大ボスの高田に対しては最後まで力無い点が、最大の敗因か。和江と夏海、最終的には正義にまで頼りきりで、自身は高田に対して置手紙を残し家を出たほかは、徹頭徹尾平身低頭しかしてはゐない。ただ正義が母を庇ひ高田の前に立ちはだかる場面は、平正義のシークエンスとしてはエモーショナル。子役が一番美味しいところを持つて行く成人映画といふのも、画期的に珍しいとは思ふ。ただ正義が、母親は微妙に逡巡する家の鍵を川に投げ関係を完全に清算してしまふ件に関しては、そこは陽子かでなければ和江が、川にゴミを捨てたりしてはいけないと一言叱るべきではなからうか。深夜の公園にて仁王立ちで待ち伏せする隆西凌が、金属バットを一閃夏海を撃墜するバイオレンスなショットには、ピンク映画らしからぬセンスが光る。

 クレジットには載らないが、アリスセイラーの楽曲が開巻から全篇を通して今作を彩る。


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