真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「不倫妻の淫らな午後」(2003/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影:飯岡聖英/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:田中康文/監督助手:笹木賢光・茂木孝幸/協力:阿佐ヶ谷 Stardust/出演:佐々木基子・月島のあ・望月梨央・牧村耕次・本多菊次朗・松元義和・竹本泰志・池島ゆたか・神戸顕一・しのざきさとみ・神奈月ゆう)。出演者中、池島ゆたか以降は本篇クレジットのみ。神奈月ゆうは、確かさうクレジットされてゐたやうにうろ覚えるものだが、要は水無月ゆうと同一人物ではないか。二者名前の並ぶ、撮影助手に力尽きる。
 子供も手のかゝらぬ年頃となつた、永山修子(佐々木)は始めたホームヘルパーの仕事に精を出す。修子と夫の和彦(本多)とは久しくレスの状態にあり、和彦は部下・橋詰あゆみ(望月)との不倫関係を長く続けてゐた。修子はそのことをまるで知らなかつたが、以前和彦の忘れて行つた携帯を手に取つた、二十歳の誕生日を目前に控へた女子大生の娘・さなえ(月島)は、父親の不義を見抜いてゐた。妙に髪形の若い神戸顕一は、冒頭あゆみからお誘ひOKの返信メールを受け取つた直後の、和彦に声をかける同僚。実際に神戸顕一が現場にも姿を見せ池島ゆたか映画に出演してゐたのは、振り返つてみたところ現時点では2005年までか。松元義和は、さなえの彼氏・直樹。現在時制に於ける、月島のあの濡れ場の相手役担当。
 ある日、新しい利用者宅を訪れた修子は思はず絶句する。荒れ放題の家で独り侘しく昼間から眠る老人は、今は昔日の影は見るべくもなかつたが、二十年前、就職したての修子(月島のあの二役)が不倫関係ながら若き恋心を燃やした、当時の上司・宮原真一郎(牧村)であつたのだ。宮原が置かれた厳しい状況もあり、表情を強張らせる修子に対し、半ば恍惚の宮原は、新しく来たヘルパーが在りし日の情人であることに全く気付いてはゐなかつた。
 中高年ホームヘルパーが利用者宅を訪問するところから始まる物語といふと、今作の半年弱先駆けて公開された、「熟年の性 人妻に戯れて」(監督:関根和美/主演:町田政則・酒井あずさ)が容易に想起される。といふことは即ち、池島ゆたかが関根和美と通じてゐることは考へ辛いので単なる偶然かとも思はれるが、私的ピンク映画最高傑作「淫行タクシー ひわいな女たち」(2000/監督:関根和美/主演:町田政則・佐々木基子)に於ける、土門とリカに扮した二人によるそれぞれ同趣向の二作が並んだ格好になる、といふのは実に感慨深い。その上であまり意味はないが、簡単にこの二作を比較すると、最終的な詰めの部分に甘さも残す「熟年の性 人妻に戯れて」に対して、今は大学生の娘も持つホームヘルパーが、訪問先の利用者としてかつての不倫相手と再会する。しかもすつかり老いさらばへた男は、男としての機能を既に喪つてゐたことに加へ、最早自分のことを思ひ出すことすら叶はなかつた、といふプロットがあまりにも見事な、今作に断然分がある。宮原は修子の他にも常に女を作つてゐたのか、苦労させられ通しの妻(しのざき)には退職後程なく先立たれ、息子(電話越しにのみ登場/誰の声かは不明)達にも、母親を泣かせ続けた因果で愛想を尽かされてゐた。自ら蒔いた種ともいへ、全方位的に悲惨な状態にある宮原ながら、修子にしてみれば、妻のやうに身の回りの世話をしてみたいといふ若き日の切望が実現することと、家族からは見放されてゐるだけに、どういふ形であれ独占することも出来るといふ、変則的な幸福感が醸成される展開は素晴らしく秀逸。終に<修子の視点からは宮原が修子に辿り着くことはない>ままに、一種の、同時に立派なハッピーエンドを迎へるといふ綱渡りにも似た超絶を最終的に形成ししめたのは、狭義の演技力ならば現役勢では最強かとも思へれる、名女優・佐々木基子であることはいふまでもなからう。この人、色々な監督の下で、あちらこちらにマスターピースを残してゐる。佐々木基子と牧村耕次との高密度の演技合戦と、濃密なドラマとに、配役中月島のあの穴は矢張り小さくはないので、ほぼ手放しで堪能させられてゐると、映画が全て終つたところで、池島ゆたか監督作にしては珍しく、濡れ場の回数が実は思ひのほか少なかつたことにも驚かされる。
 
 竹本泰志は、和彦との関係を清算することに決めたあゆみが選んだ、後輩の高梨。池島ゆたかは、かつては宮原と修子を、今は和彦とあゆみとを黙して見守るバー「Stardust」のマスター。神奈月ゆうは、わざわざ修子を捕まへての自由気儘な噂話で宮原の現況に関して外堀を埋める、宮原家向かひに住む主婦。更に他に、宮原のケアマネージャの医師・花澤が登場、スタッフの何れかか。宮原の妻役のしのざきさとみは、そこかしこで超頻出の、宣材写真を流用しての遺影としてのみの登場。


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