真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「若妻 敏感な茂み」(2002/製作:小川企画プロダクション/配給:OP映画株式会社《本篇クレジットまま》/監督:小川欽也/脚本:池袋高介/撮影:図書紀芳/照明:岩崎豊/音楽:OK企画/助監督:米村剛太/撮影助手:吉田剛毅/照明助手:石岡直人/出演:山咲小春・南星良・清水佐知子・竹本泰志・なかみつせいじ・平川直大・石動三六)。
 瀬戸内瑠璃(山咲)と慎吾(竹本)は、新婚三年目にして早くも擦れ違ひ気味のセックスレス夫婦。同窓会に出席する瑠璃が一時的に実家に戻るのと入れ違ひに、慎吾からは姪に当たる山門真由(南)が就職活動の為に上京して来る。田舎で再会した級友と焼けぼつくひに火を点ける瑠璃に対し、慎吾は慎吾で、真由との二人きりの生活に鼻の下を伸ばす。
 清水佐知子は、瑠璃の姉・加羅品呉美。呉美も呉美で、外に女を作つた夫とは家庭内別居の状態にあり、東京に戻る妹について一緒に家を出て来てしまふ。首から上は一般的なオバサン顔ともいへ、少々重力には屈しつつも女優部中何気にオッパイは一番大きい。単なる看板に止(とど)まらぬ文字通りの熟女枠の中では、比較的以上にマシな部類に入らうかとも思はれる。平川直大は、瑠璃の級友・永野左千夫。田舎に戻り羽を伸ばしてしまつた瑠璃から半ば誘はれるやうに関係を持つものの、事が済むとあつさりと手の平を返される、とても可哀相な役。石動三六は、慎吾の同僚・中本悠貴。オカズに慎吾がマスをかいてゐるところを真由に見付かつてしまふDVDを、貸す為だけに登場。
 上手く行つてゐない二組の夫婦と、一人づつの女と男。六人の男女が部分的には交錯しながら、最終的には何だかんだで、といふか何といふこともないままにそれぞれ納まるべき鞘に納まつて行く。娯楽映画としての着地の安定感のほかには特筆すべき点は基本的には全くないと同時に、ルーチンワークと断じる程にはやつゝけた仕事でもなく。右から左に流れ去る物語は却つて、不作為を通り越した無作為が転じて、山咲小春の絶頂期の魅力を損ふことなくそのままに銀幕に定着せしめる、あくまで結果論でしかないとはいへ偶然な幸福に帰結してもゐる。潤沢な濡れ場に加へ、一度寝ただけで結婚して呉れと東京にまで付き纏ふ永野の処置に困つた瑠璃が、縁側で真由に零す件の当てもない遠くを見やる山咲小春の表情には、必殺の映画的叙情が煌く。

 配役残りなかみつせいじは、呉美の夫・睦夫。今作全くの横道ではあれど注目点は、スケジュールは恐らく事前に予め決まつてゐた筈なので、当日何事かの緊急がなかみつせいじ個人に発生したとでもしか思へないが、どういふ訳でだかアフレコを別人がアテてゐる。なかみつせいじの口の動きに合はせて、独特の間を持たせた口跡を無理して真似して、といふか真似ようとしてはゐるが出来てゐないので、どうにも明らかな違和感がある。声色を変へた平川直大に聞こえなくもなかつたが、誰が声をアテたものかはどうしても聞分けられなかつた。
 チャリンコで走行中に瑠璃からの電話を受け取つた慎吾は、電信柱に激突する、自業自得の極みである。足を怪我し仕事も休むことになつてしまつた慎吾は、瑠璃とは共稼ぎ夫婦につき、日中呉美と家で二人きりになる。今作に於いても、小川欽也はファンの期待を裏切ることなく相変らずやつてのける。頼むから、裏切つて呉れていいんだよ。小川欽也十八番、ハチャメチャに若い男を悩殺する熟女!「暑いはあ」とかいひながら、呉美は慎吾の前で唐突に脱ぎ出すのだが、ブラウスの釦をピリオドを超えて外し出すならばまだしも、この時呉美のトップは部屋着のトレーナー。いきなりガバッと、暑いからといつてトレーナーを脱いで下着姿になつてみせるのである。幾ら何でもそりやねえよ、悩殺といふか、観てゐて俺は脳死するかと思つた。
 三者三様の絡みで畳みかけるクライマックス、山咲小春のいはゆるイキ顔をグルグル回す演出で、瑠璃が絶頂に達した瞬間を表現する。今世紀、即ちかつて夢見られた未来の筈の21世紀に依然さういふ魔法を堂々と繰り出し得るのも、小川欽也ならではであらう。


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