閑猫堂

hima-neko-dou ときどきのお知らせと猫の話など

こけしの謎

2016-04-24 18:19:39 | 

 

知人にエスプレッソの淹れ方を教えてもらった。
パーコレーター、イタリアではマキネッタというらしいが、
昔ながらの器具を使うやり方だ。

見た目はコーヒーポットみたいな形をしているけれど、
厚手の金属でできていて、ちょっと重い。
じつはとても小さな圧力鍋なのだ。
ねじ式で上下にわかれ、下はさらに2段重ねになっている。
まず一番下のタンクに適量の水をいれる。
その上の茶こしのような部分にコーヒーの粉をいれる。
粉はエスプレッソ用の深煎り、極細挽きのもの。 

次に、彼女がおもむろに取り出したのは、こけしである。
高さ30センチくらいある立派なものだ。
それを慎重に両手でにぎり、、盛り上がっているコーヒー粉に
底の部分をかるく押しあてて、平らにした。

「え! こけしで?」
「そう。ちょうどいいよ」

円筒形のこけしの底面は、器具の直径よりわずかに小さく、
なるほど、ぴったりだ。
彼女の家の台所の棚にこけしがあるのは知っていたけれど、
まさか、このためだったとは! 

粉を平らにしたら、あとは上半分をしっかりねじこみ、
ガスの弱火にかけて、数分待つ。
シューグツグツポコポコッ! と音がしたら火をとめて、出来上がり。
下に入れた水は、熱いコーヒーとなって上にたまっている。
あとは、傾けてカップに注ぐだけ。 

じつは、彼女の淹れてくれるコーヒーが美味しいので、
うちにもパーコレーター欲しいなと思ったのだ。
他人の持っている物が欲しくなるなんて、ほんとに珍しい。
幼稚園のときにお友だちのままごと道具がうらやましかったけど、
それ以来ではなかろうか。
非常にシンプルで、昔から変わらない道具であるところにひかれる。
大事に使えばたぶん一生もつだろう。
小さな火さえ起こせれば、屋外でも使える。
電気もいらないし、紙フィルタもいらない。 

しかし、エスプレッソを淹れるには、こけしも買わなきゃ…
ってことはないですね。
プロ用にはタンパーという専用の器具があるみたいだけど、
(スタンプラリーに使う柄のついた丸いスタンプみたいなもの!)
サイズの合う丸いものなら何でもいいだろうし、なんなら
そこらへんの薪の中から手ごろなのを切ってくればいい。
ほんとのところ、スプーンの背でちょいと押さえたって大丈夫そうだ。

それにしても、こけしが「役に立つ」ところを見たのは初めてで、
これはかなり新鮮な驚きだった。
昭和生まれの人だったら、(と、ざっくりまとめてすみませんが)
お家に、こけしのひとつやふたつ、あったんじゃないかと思う。
うちにも、わたしが生まれる前からひとつあって、
ずいぶん長いこと、わたしの本棚に置いてあった。
あっさりした上品な絵柄で、今考えれば、悪くないものだったかもしれない。
でも、子どもの頃は、これがどうしても好きになれなかったので、
あまり大切にしていなかった。

こけしというのは、だいたい飾っておく以外にしようがないし、
可愛がろうにも、つるつると堅くて、とりつくしまがない。
そもそも可愛がられたいという顔をしていない。
なにか異文化圏からやってきたもの、という感じがする。
飾り物のくせに、頭でっかちで、すぐにコトンと倒れるので、
ほとんど地震計みたいな扱いになっていた。
あるとき、かなづちのかわりに、手近なこれで画鋲を叩いたら、
へこんだあとがくっきりついてしまった。
ばちがあたるのではと、あとでしばらく怖かった。 

昔は呪術に使われた…とか、勝手に想像していたけれど、
べつにそういうものではなかったらしい。
昭和の子が遊んだキューピーさんや文化人形も、
平成の子どもたちには違和感が大きすぎるだろう。
こけしが異文化圏からやって来たのではなくて、人のほうが
いつのまにか異文化圏に来てしまったのだ。

リカちゃん人形だって、今は現役だけれど、
50年後、100年後には、どんな扱いになっているかな。
「昔は呪術に使われたのかも」なんて、不気味がられながら、
それでもどこかにそっと飾られているだろうか。
まさかコーヒーを淹れるときに使う人はいないだろうと思うけど、
それも今はまだわからない。

 

ということでね、とうとう買っちゃったのよ、ビアレッティ。
ただいま練習中。
といっても、エスプレッソは一日に一回しか飲めないので、
なかなか上達しません。
同じ粉でも、淹れるたびにぜんぜん違う味になってしまうのが謎。 
そういえば、うちのこけしは、どうしたんだっけ。
と、粉を詰めるたびに、気になってしかたない。
まだ持ってるとすれば押し入れの一番奥の箱の中だけど、
いまさら見るのも怖いので、探すに探せないんですが。 

 

 

本日の「いいね!」

The Bauhaus Ballet Turns 100

ドイツのアーティスト、オスカー・シュレンマーによる
1922年初演のバレエ。94年前の「モダン」は今も素敵。

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« モノクレ | トップ | ヒマラヤの謎 »