goo blog サービス終了のお知らせ 

閑猫堂

hima-neko-dou ときどきのお知らせと猫の話など

「いそげ! きゅうきゅうしゃ」

2017-10-24 15:43:42 | お知らせ(新刊)

『ピン・ポン・バス』から始まる偕成社の乗り物絵本シリーズ。
10冊目は、『いそげ! きゅうきゅうしゃ』。
ついに救急車の登場です。

子どもの好きなクルマというと、必ず救急車が入ります。
このシリーズでも以前からリクエストをいただいていましたが、なかなか書く気になりませんでした。

子どもはピーポーピーポーのサイレンに「あっ!」と目を輝かせる。
それは、たしかにそう。うちの子どももそうでした。
だけど、考えてみると、救急車の行く先には、ろくなことがないのです。
急な病気とか、事故とか。痛かったり、苦しかったり…どう描いたって、楽しい場面にはならないでしょう。
かといって、かすり傷程度で救急車に来てもらうわけにはいきませんしね。

小さい子どもの見る絵本は、安心して何度でも飽きずに楽しめて、大人も気持ちよく読んであげられる…そういうものでありたい。
と同時に、相手がどんなに小さくても、「子どもだまし」ではいけない。
その中でも特に「安心」という点が、わたしの中でクリアできずにいました。

もうひとつは、構成上の問題。
救急車は、患者を運ぶのが仕事。病院に着いたところで役目は終わりです。
お医者さん看護師さんにバトンタッチして、治療はそこからが本番になるけれど、それはもう「乗り物絵本」の領域ではなくなってしまう。

宅配便のトラックが、荷物を宛先の家まで届ける、とか。
パトカーが窃盗団を追跡してつかまえる、とか。
そういう「一件落着」や「めでたしめでたし」が、救急車の場合は設定しにくいのです。
消防署→救急現場→病院→消防署。
この行ったり来たりで32ページ15場面もたせるのは苦しい。
小さい読者さんはキューキューシャの絵を見るだけで喜ぶかもしれないけれど、読んであげる大人がつまらないのでは駄目。

…というような理由で、10冊目に救急車はまったく予定していませんでした。

ところが、昨年末、思いがけず自分が救急車で搬送される羽目になりまして…
救急車だけでは済まず、なりゆきでドクターヘリにまで乗ることに…
「乗った」といっても、本人は最初から最後まで目をつぶっていたので、ほとんど何も見ておりませんが(笑)
まあ、意外な形で、「接点」ができてしまったわけです。

それでも入院中は、ネタにしようなんて思いつきもしませんでしたが、退院の翌月の外来で、検査の結果も問題なく、先生に「もう来なくていいですよ」と言われ、ほっとしてMと病院を出たら、ちょうど屋上ヘリポートからドクターヘリが離陸するところでした。
「あれに乗ってきたんだねー」と、ふたりして感慨深く見上げた、その晩(だったっけ?)Mがちょっとマジメな顔をして、「やっぱり、あれ描きたいんですけど、いいでしょうか」と。

それでわたしも、うーん、じゃあ、書いちゃう? という気分になり、1日半でさらっと原稿をつくって渡し(ええ、もちろん、フィクションですよ、フィクション!)、そこからあっというまにダミーができて、7月には原画ができるという早さ。
(だけど、そのあと「デジタルお直し」がけっこういっぱいあって、編集Mikaさんゴメンナサイ)

いつものように、絵を描く人は、消防署に何度も通って、詳しく取材してきてくれました。
サイレンが迷惑にならないよう、住宅地では音量を下げるスイッチがある、とか。
赤信号で交差点に進入するときも、サイレンに気づかない人や車がいることを考え、必ず一旦停止する、とか。
「救急救命士」とふつうの救急隊員は何がどこがどう違うか、とか。
今回もいろいろ学びました。

救急車(と、ドクターヘリ)が主役ですから、けが人も病人も、当然出てくることは出てきますが、緊迫感を出しつつも、怖い感じにはならないように…というのが、苦心したところ、かな。
全体に明るくさわやかな仕上がりになったんじゃないかと思います。
最後のおじいちゃんと孫の会話は、そのまま作者の「感謝の言葉」でもあります。

例によって、本筋とまったく関係ないところで、シリーズの他の絵本にも出てくる車や人がゲスト出演しておりますが、今回はいつもより内輪ネタが多めで…

「描いた人」が通ったことのある英会話教室とか…


もしかして、うちの猫がときどきお世話になる獣医さんでは? とか(笑)

「描いた人」もどこかのページにいますので、探してみてくださいね。
(「書いた人」は? えーと、たぶん、いない、と思うけど?)

 

以下、舞台裏的な補足。

ドクターヘリを要請すると、ほとんどの場合、消防車も出動します。
ヘリが発着する場所はあらかじめ決まっていて、そこに最寄りの消防署から消防車が先に行き、周囲の安全を確保したり、プロペラ風で土埃が舞い上がるのを防ぐため水をまいたりするそうです。
だから、ほんとはこの絵本でも、ヘリが降りるグラウンドには消防車がいなければならない(と消防署の人に言われた!)のですが、画面の中に赤い消防車が見えると、すごく気になるでしょう。
どうして火事じゃないのに消防車がいるの?…って、1行くらいじゃ説明できませんし、子どもの興味がそれてしまうのも困るので、消防車は省略することにしました。
消防車が来るはず、ということをご存じのマニアの方は、ページの端っこの「ちょっと外」にいる、と想像していただければ嬉しいです。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 台風 | トップ | ハロウィン »