閑猫堂

hima-neko-dou ときどきのお知らせと猫の話など

金柑

2008-01-12 09:09:59 | 日々

畑のそばの金柑の実が、
いつのまにかひっそりと色づいている。
ひとつもぎとり、かじると、香りがはじける。
ほろ苦い。ほの甘い。きゅっと酸っぱい。

金柑には遠い日の「ごほうび」のイメージがある。
神戸の、家からずうっと南にあった魚崎の市場は、
近所のほんの一並びしかない市場より大きくてにぎやかだ。
幼い子の日常のほんの少し外側に魚崎市場はある。
歩いて行ったのかバスに乗ったのかおぼえていない。
魚崎市場に行く。
良い子にしていれば金柑を買ってもらえる。
たのしみ。

金柑は赤い糸で編まれた小さい網袋に入っている。
その袋もまた「ごほうび」にふさわしく可愛らしい。

 まんじゅうもろたら皮あげよ
 きんかんもろたら身ィあげよ

わらべうたにあるように、金柑は皮あってこそ金柑。
すっぱくて種の多い身ィだけもらってもうれしくない。
だけど皮だけでもしょうがないだろう。
いくつも食べると舌がしびれてぴりぴりしてくる。
からになった網袋は、金柑以外のものを入れるには
まったく役に立たない。

近所の八百屋でも売っていたのかもしれないけれど、
わたしの記憶では、なぜか金柑といえば魚崎市場、
魚崎市場といえば金柑で、だから季節はいつも冬だ。

市場の出口付近に、駄菓子屋のような店があって、
安物のおもちゃの指輪を売っている。
通りすがりに目を奪われる。
母はそこではめったに立ち止まらない。
ルビーにサファイア。ダイヤに真珠。
虹の浮かんだ乳白色のオパール。
オルゴールの宝石箱の中に、そんなのを一通り持っていた。
金柑のない季節に指輪を買ってもらったりしたんだろうか。

大人になってからは指輪はひとつも持たない。
あ、ひとつだけ、小さい珊瑚の玉のがあるけれど、
指にはめたことは一度もない。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 温暖化 | トップ | 大根ごはん »