閑猫堂

hima-neko-dou ときどきのお知らせと猫の話など

深夜の客・その2

2019-06-15 10:32:23 | 日々

つづきです。

「丑三つ時」に不吉、不穏なイメージがあるのは、おそらく人間の本来の活動時間から最も遠いせいだろう。
夜更かしの人もさすがに眠くなる。早起きの人はまだ寝ている。そんな時間帯にしたり考えたりすることは、どうしても本来の行動や思考からずれて変なほうへ行ってしまう。
朝になったら、真鈴もクレもいて、何事もなかったようにシッポを立てて台所にやってくる。コマ吉も、多少おどおどした感じは残るものの、みんなに混じってゴハン皿を待っている。

明るいときに考えれば、深夜の侵入者は、やっぱり「その他の生物」ではありえない。
猫のケンカの相手といったら、猫に決まっているではないか。
「よそ猫は猫ドアから中に入らない」という思いこみがいけないのだ。
ちょいと押せば開くものではあるけれど、人が教えてやらない限り、心理的な壁として機能しているんだと思っていた。
これまで唯一の例外が黒猫スリちゃんで、なぜかはわからないが、平気で入る。でも、スリちゃんはぜんぜん闘争心のない猫で、たびたび出入りしても、うちの子と険悪な雰囲気になったことは一度もない。
(数か月前、真鈴に桜の木に追い上げられて以来、スリちゃんはまったく姿を見せていない)
春先にこのあたりで勢力争いをしていたオス猫の、ジャッキー、オズワルド、ナベゾー。
その中の誰か、あるいはそれ以外の新興勢力の誰かが、猫ドアを突破し、勢いで2階まで上がってきて、コマ吉とばったり出くわした。
ここを自分のなわばりだと勝手に決めている奴だから、コマを「なわばりに侵入したライバル」と見なし、いきなり戦闘モードになったとしても不思議はない。
体力も経験もなさすぎるコマは、何が何やらわからず、反撃できなかったに違いない。反撃しなかったから、怪我せずに済んだ、ともいえる。
一時的な勘違いとはいえ、おとなのオス猫からライバル視されたということは、一人前のおとなと認められたということで、それはまあ、めでたいと言ってもいいのではないかな、コマちゃんや。

さて、昼間は何ごともなく過ぎて、その夜。ふたたび丑三つのちょっと前ごろ。
夜はたいてい階下で寝ているさんちゃんが、「う~あ~」と警報を発した。
猫の警報にも危険度に応じて段階があって、喉の奥で小さくうなるのをレベル1(不快感)、乱闘寸前をレベル5(最後通告)とすると、これはレベル3+くらい。
来た!と思って、枕から頭を上げると、寝室の外の廊下がぼんやり明るくなった。
うちの階段には、一番下と、真ん中と、一番上にひとつずつ足元灯が埋め込まれている。これはモーションセンサーで、通るときだけ必要最小限のあかりが自動でついて消えるのだが、人だけでなく猫にも反応する。
そのライトが、下から順についていく。
ナニカが階段をのぼってやってくる…。

ここで、隣室から、レベル4の警報が出た。クレの声だ。
隣室の入り口にもセンサーライトがあり、廊下のほうを向いている。わたしはまぶしい光が苦手で、夜間移動するたびにいちいち天井の大きい照明をつけたり消したりしたくないので、電池式や充電式の小さな照明器具をあちこちに置いてあるのだ。
それが、ぱっと点灯した。廊下に、横向きの猫の姿が浮かび上がった。
大柄な猫だということがわかる。腰高で、尻尾が長い。そして、こちらから見えるかなりの部分が白い。こんな白っぽい猫はうちにはいない。
「こらっ!」と言うと、素早く身をひるがえし、階段へ消えた。急いで逃げたわりには、フローリングに爪を滑らせる音も、階段を数段抜かしで飛びおりたような音もしない。上がってくるときもじつに静かだった。
慎重だが、びくついたところがない。妙に自信ありげな身のこなし。よその家の猫ドアから入って、さんちゃんの前を堂々と通って、階段を上がってくるのだから、たしかに自信はあるのだろう。
いやいや、ここで自信を持たれては困るのよ。すこしおどかしてあげなきゃ。と、下まで追いかけていったら、ぱこ!と猫ドアが閉まる音が聞こえ…
侵入者の姿は、すでにどこにもなかった。

2階に戻ると、クレが出窓のカーテンの陰から、そーっと顔を出した。
コマちゃんは?
コマはねえ、寝室の一番奥のすみっこへ行って、お稲荷さんの狐の像のようにきゅっと正座して固まっていましたよ。

だらだら書いてスミマセン。次回につづきます。

コメント
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