閑猫堂

hima-neko-dou ときどきのお知らせと猫の話など

絵本のつくりかた・工事篇

2010-01-19 09:31:00 | 絵本のつくりかた
大河ドラマ「龍馬伝」について、出久根達郎氏が、
「本の扱いがぞんざいすぎる」と書いておられた。
たまたまわたしもTVを見たので、なるほど!と思う。
出久根氏は小説家だが、古書店主でもある。
さすが専門家、目のつけどころが違う。
その時代、書物は今よりずっと貴重で高価だったはず。
弥太郎は貧しく粗野だが学問好き、という設定だからなおのこと、
汚ない手でめくったり、床に置いたりはしなかっただろう。

歴史ドラマには、当然、時代考証が欠かせないけれど、
歴史である以前に「お芝居」なのだから、
多少の違いは暗黙の了解で許されることになっている。
福山さんが実物の龍馬に似てなくたっていいのである。
女優さんは現代ふうのメイクで出てくるし、
昔の言葉や方言も、意味が通じる程に加減してある。
問題は、作る側が、どこにこだわるか。
そして、見る側は、どこが気になるか。


Mが絵を描いて、これから出る予定の絵本があります。
乗り物シリーズの1冊で、こんどは道路工事の絵本です。
舗装工事の現場に、いろんな工事車両がつぎつぎやってくる。
それを、最初から最後まで「カメラ据えっぱなし」で、
時間を追って見ていただく、という趣向。

道路工事というのは年中どこかで必ずやっているので、
取材をするには好都合です。
工事を請け負う地元の会社に知り合いがいるので、
Mは、途中で何度も行って観察したり教えてもらったり。
これで万全、のつもりで、15場面の絵が仕上がりました。

さて、レイアウト校正(原画をスキャンして、文字も入れて、
絵本の大きさにプリントアウトしたもの)が出まして、
念のため、工事会社に持ってって「考証」をしてもらったところ、
あらあら、あっちこっちに、思わぬ間違いが指摘され…。
(鉛筆描きのダミー段階でも見てもらっていたのですが、
やっぱりカラーの絵にならないとピンとこない部分って
けっこう多いのですよね)

この場面でこの道具は使わない、とか。
現場監督はこういう行動はしない、とか。
これは現場でやることもあるが本当はいけない、とか。
うーむ、さすが専門家、目のつけどころが。

さいわいアクリル絵の具を濃いめに使ってあるため、
人ひとりまるごと消すなどの修正もどうにか可能。
ですが…

「この段階で一晩おくことはありえません、ってさ」
「ええーっ?」

そう、工事の途中で「よるになりました」っていう場面が
ひとつあるんですが、そこで中断しちゃだめなんだそうで。
せめて、次の工程まで終えてからでないと、って。

子どもの読む絵本だから、それくらい、いいんじゃないか…
という考え方も、あります。
たぶん、99パーセントの読者さんには、
何が間違ってるか絶対わからないはず。
タイヤローラーとマカダムローラーの違いだって
知ってる人は少ないんだから。
だけど、読んでくれるお父さんが工事関係の人で、
「これ変だよな」って思われたら?
(これまでも、お父さんがバスの運転手だったり、
宅配便のドライバーだったりするお子さんが
わたしたちの絵本を読んでくれているのです…)

リアリズムでなくてもいい。
工事をするのがクマさんでもウサギさんでもいい。
でも、というか、だからこそ、リアリティは重要。
どうせわかんないからって手抜きせず、
しっかりつくっておかないとね。
(これまでの反省も含め、今後のために書いておこう!)

急遽、場面を入れ替え、あれやこれや、しまして、
なんとかなりそうです。
刊行は春の予定です。
どうぞおたのしみに。
コメント
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