弁理士の日々

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書き換えられた対中親書

2021-05-23 11:43:27 | 歴史・社会
書き換えられた対中親書
未完の最長政権-安倍政権から菅政権へ
第3部第1回2021年5月21日 朝日新聞朝刊
『一通の首相親書が、日中関係の軌道を大きく変えていった。2012年に首相の座に返り咲いた安倍晋三は当初「対中牽制(けんせい)」を強調したが、徐々に「競争」から「協力」へ軸足を移す。その転機となったのが「習近平(シーチンピン)国家主席に宛てた安倍首相親書の書き換えだった」。複数の政府関係者はそう証言する。
親書は17年5月、中国とのパイプを重視する自民党幹事長の二階俊博が中国が掲げるシルクロード経済圏構想「一帯一路」に関する北京での国際会議に参加した際、安倍が習主席宛てに託したものだった。
・・・
中国に渡った親書の内容を知った国家安全保障局長の谷内(やち)正太郎は愕然(がくぜん)とした。自らまとめた原案から大幅に書き換えられていたからだ。安倍に面会を求め、詰め寄った。
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谷内はそれまで、集団的自衛権の行使容認など、安倍の外交・安保戦略の指南役を務め、安倍が創設した、日本の外交・安全保障戦略の司令塔「国家安全保障会議(NSC)」を束ねる初代の国家安全保障局長に抜擢(ばってき)された人物だ。
中国の一帯一路に対抗すべく、谷内らが「自由で開かれたインド太平洋戦略」を練り上げ、安倍は16年8月のアフリカ訪問で、この新戦略を日本外交の方針として世界に発信していた。
二階訪中はその翌年。谷内らが手がけた親書原案は「日本は一帯一路に慎重に対応していく」方針で作成され、安倍、副総理の麻生太郎、官房長官の菅義偉らの了承も取り付けていた。だが、中国側に渡った親書は、その方針と正反対の内容となっていた。』

親書の内容を書き換えたのは、経産省出身の首相秘書官、今井尚哉氏でした。
『今井はのちに月刊誌「文藝春秋」のインタビューで「(原案には)一帯一路についてあまりにも後ろ向きな内容しか書かれていない。こんな恥ずかしい親書を二階幹事長に持たせるわけにはいかないと、相当修正を加えたと認め』ています。
『安倍は「親書書き換え」の翌18年(10月25-26日)に訪中し、日中首脳会談で、両国は「競争」から「協力のパートナー」へ移行すると宣言した。』
『中国はトランプ米政権との関係悪化とは対照的に、対日姿勢を軟化。それは、中国との経済協力を重視する今井にとっても追い風となり、日中の「協力」機運を後押しした。「親書書き換え」を境に今井は、谷地ら「外交・安保」派と首相官邸で対立を深めていく。』

トランプ政権と習近平政権との関係が険悪化していく中、それとは反対に安倍政権が習近平政権に近づいていくことに、私は違和感を持っていました。習近平にしてみれば、トランプ政権と対立する上で味方につけるべく、日本に秋波を送ることは当然の戦略です。日本がそれに乗るか否かが重要な選択のはずです。
当時の安倍対中外交の迷走は、上記のようないきさつがあったのですね。

米トランプ政権のペンス副大統領が演説し、貿易など経済に限らず安全保障分野でも、中国に「断固として立ち向かう」と述べたのは、18年10月4日です。
長谷川幸洋氏は『米副大統領の演説は、実は対中国への「本気の宣戦布告」だった~ついに「米中新冷戦」が始まった』と解説していました。
ペンス副大統領による対中国宣戦布告の直後に、日本は習近平中国に笑顔を送ったわけですね。今から考えると最悪の対応でした。

それから3年、習近平中国は、いよいよ台湾侵攻が懸念されるまでになりました。これに対して、日米豪印4カ国はクアッドで対抗しようとしています。クアッド4首脳が連名で寄稿 「自由で開かれたインド太平洋」の実現を決意表明(2021.3.15 )
今や対中国の共通標語になっている「自由で開かれたインド太平洋戦略」は、谷地国家安全保障局長が発案し、今井秘書官が葬り去った政策だったのですね。

ところで、習近平中国が台湾獲得を目指し、いずれは日本とも対峙するであろうことは、2014年段階から予測され、私も記事にしていました(飯柴智亮著「2020年日本から米軍はいなくなる」2014-08-31)。2014年以降の推移は、飯柴氏が予測した方向に進んでいます。ただ、2021年になってもまだ米軍は日本を撤退しておらず、そのタイムスケジュールは違っていますが。
飯柴氏の著作では、
(1)「台湾が中国のものになったあと」
(2)「中国空軍が保有するスホーイ系戦闘機が2000機を超えたあと」
(3)「中国海軍が潜水艦発射型弾道ミサイルJL-2のような長距離高性能ミサイルを200発、実戦配備したあと」
(4)「中国が衛星撃墜能力を持ったあと」
(5)「マッハ10の速度をもつ超高速飛翔体WU-14のような新兵器が登場したあと」
のいずれかの以降に、在日米軍が日本から撤退する、というものです。
上記(1)~(5)のいずれも、習近平中国は着々と実現に向けて進んでいるように見えます。

2017年当時、谷地さんはその辺をきちんと把握して日本の対中外交戦略を構築していたのに、それを一時的にもぶち壊したのが今井秘書官であり、安倍総理もそれに乗ってしまっていたようです。
コメント (2)
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