弁理士の日々

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唾液PCRやっと解禁

2020-06-03 00:15:52 | 歴史・社会
唾液でPCR検査可能に 新型コロナ 厚労省きょう通知、都が本格導入へ 2020/6/2付日本経済新聞 朝刊
『厚生労働省は新型コロナウイルスの感染を調べるPCR検査の検体に唾液を使えるようにすることを決めた。2日に自治体向けに通知する。鼻の粘液を採る従来の方法よりも医療従事者の感染リスクが低く、効率的な検査が可能になる。
・・・
国立感染症研究所が作成する検体採取マニュアルを改定し、今後は唾液を使った検査も可能にする。・・・
日本医師会は5月7日、唾液を検体に用いたPCR検査の実用化を政府に申し入れていた。』

以前から、国立感染症研究所のマニュアルを改定すれば可能、と聞いていたので、とっくに改訂されたものと思っていました。その割に動き出していないなと不審に感じていましたが。実は、本日になってやっと実現したのですね。

厚労省の自治体・医療機関向けの情報一覧(新型コロナウイルス感染症)を見に行ったら、ありました。
「2019-nCoV(新型コロナウイルス)感染を疑う患者の検体採取・輸送マニュアル」の改訂についてで、
『このたび、マニュアルを別添(新旧対照表)のとおり改訂したとの連絡が国立感染症研究所からありましたので、お知らせします。改訂の概要については下記のとおりです。
   記
1.発症から 9 日間までの唾液での PCR 検査が可能であること。
2.検体の採取については遠沈管等の滅菌容器を用いること。』
とされています。

新旧対照表には以下のように記載されています。
『おおよそ発症から 9 日間程度は、唾液でのウイルス検出率も比較的高いことが報告されています(鼻咽頭ぬぐい液陽性の患者の唾液検体 85~93%前後で陽性)。加えて、発症後 10 日目以降の唾液については、ウイルス量が低下することが知られており推奨されません。
(Iwasaki S et al., medRxiv 2020.05.13.20100206; doi:https://doi.org/10.1101/2020.05.13.20100206,
令和2年度厚生労働行政推進調査事業補助金/新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業 自衛隊中央病院 感染症内科 今井一男(研究代表者 国際医療福祉大学成田病院 加藤康幸),
Williams E et al., 2020 J Clin Microbiol DOI: 10.1128/JCM.00776-20)』
てっきりデータを提示してくれているのかと思ったら、そうではなく、参照文献を探して読まなければならないのですね。不親切です。
最初の文献について、「https://doi.org/10.1101/2020.05.13.20100206」をダブルクリックすると、Comparison of SARS-CoV-2 detection in nasopharyngeal swab and salivaに案内されました。その中のpdfをクリックしたところ、
文献(Comparison of SARS-CoV-2 detection in nasopharyngeal swab and saliva)が表示されました。
患者76人について、鼻腔と唾液でPCR検査を行っています。うち、8人は両方とも陽性、1人は鼻腔のみ陽性、1人は唾液のみ陽性、66人は両方とも陰性です。
Figure 1 Aには、横軸を発症後の日数、縦軸をウイルスの量として、10人分のデータが載っています。△が鼻腔、●が唾液です。上記いずれかまたは両方が陽性であった10人のようです。発症後3日では鼻腔が陰性、19日では唾液が陰性、それ以外の8人(発症後7~13日)は両方とも陽性です。
文献本文では、「回復期には、唾液の方が鼻腔に比較して早くにウイルスが減少している。」「最近の文献では、鼻腔には死んだウイルスが溜まり、“擬陽性”となる。興味あることに、われわれの結果では、鼻腔に比較して唾液の方が迅速に陰性になる。口の中では死んだウイルスが唾液によって効果的に清掃されるようだ。コロナ感染症患者の回復確認には唾液の方が好ましい。」と記載されています。
即ち、北大の文献では、「発症後10日以降は唾液の精度が落ちる」のではなく、「発症後10日以降は唾液の方が正しく回復状況を示している」と述べているのです。

2番目の文献について検索したところ、唾液を用いたPCR検査に係る厚生労働科学研究の結果についてにたどり着きました。
こちらは、鼻腔PCRで陽性だった88人のみを対象とし、唾液のPCR評価を行っています。鼻腔で陰性だった人は含まれないので、唾液陽性/鼻腔陽性の比率において、必ず100%以下となります。
発症から1~9日は上記比率がほぼ100%であるのに対し、10~14日は30~60%に低下します。この点についてこの文献では、『発症から9日以内の症例では、鼻咽頭ぬぐい液と唾液との結果に高い一致率が認められた。』とのみ評価しています。

3番目の文献について検索したところ、Saliva as a non-invasive specimen for detection of SARS-CoV-2 Eloise Williams, et.al. DOI: 10.1128/JCM.00776-20にたどり着きましたが、全文を閲覧することはできません。

以上総合すると、第1と第2の文献で、発症後9日ぐらいまでは鼻腔と唾液で同じ結果となり、それ以降は唾液の方が早くウイルスが減少する点で、両文献は一致しています。そして、発症後10日以降で鼻腔と唾液に差が生じ、唾液の方が迅速に低下する点に関し、第1の文献では「むしろ唾液の結果の方が正しい評価結果だ」との分析であり、第2の文献では沈黙しています。
それにもかかわらず、国立感染症研究所マニュアルの新旧対照表では、『発症後 10 日目以降の唾液については、ウイルス量が低下することが知られており推奨されません。』とし、唾液検査結果に否定的です。なぜこのように、結論の逆転が生じるのでしょうか。
この点は、専門家の間でよく議論してほしいです。

p.s. 6/3
3件目の文献が閲覧できました。下記
Saliva as a non-invasive specimen for detection of SARS-CoV-2
です。622人中の鼻腔PCR陽性39人に関し、唾液PCRを行ったら33人が陽性だった、との結果です。図2の横軸は発症後の日数、縦軸は「低いほどウイルスが多い」指標です。■が鼻腔、●が唾液です。唾液の方がウイルスが少なめ、との結果でしょうか。発症した人のみが対象のようです。
鼻腔PCR陰性の50人について唾液検査したところ、1人が陽性でした。この1人、鼻腔PCRが“偽陰性”だったのか、それとも唾液PCRが“擬陽性”だったのかは区別できません。

新聞によると、「無症状の人は有効性が確認できないため適用外とした」とあります。マニュアルにはそのようなことは明示では記載されていませんが・・・。
そもそも、文献3件とも、無症状の人の評価を行っていません。政府は、判断まで1ヶ月もかけたのですから、その間に無症状の人で鼻腔PCR陽性だった人を対象に、唾液PCR評価を実施すべきでした。抜けていたとしか言いようがありません。
コメント
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