弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

ドル円5年間の推移と“2010年円高”

2013-02-11 20:29:34 | 歴史・社会
円安の進行が止まりません。2月1日にはドル円が92円を突破し、この原稿を書いている9月11日現在では93円代を推移しています。
ドイツなどからは、「自国通貨安政策は、通貨戦争を引き起こす」として非難が挙がっています。それに対して日本は「意図的に円安を誘導しているわけではない」と強気です。“現在の日本の政策についてアメリカから承認を受けているのだろう”というもっぱらの噂です。
ところで、93円/ドルという現在の為替相場は、異常なほどの円安なのでしょうか。ドル円5年間の推移を見ると以下のようになります。下の2つの図の横軸は2008年以降のこの5年間を示し、上は縦軸が円/ドル、下は縦軸が日経平均株価です。

2008年から2009年にかけては、90~110円/ドルで推移しています。従って、今後のドル円レートが95~100円/ドルに収まるのであれば、たった3年前の水準に戻るだけであって、決して異常な円安とは思えません。過去2年半が異常な円高だっただけです。

ところで、最近の異常な円高がいつから始まったかというと、2010年の後半からです。上のグラフで私は“2010年円高”と名付けました。このときは、90円超の状況からあっという間に80円台の前半まで円高が進行しました。もしもこのときの円高をこの時点で阻止できていれば、この2年間の日本の苦しみは和らいでいたはずですし、最近の円安進行について諸外国から発せられている非難も当然ながらなかったはずです。
2010年におけるこの急速な円高進行は、現時点でどのように評価されているのでしょうか。ちょっとネット検索してみましたが、明確な議論を見つけることはできませんでした。
そこで、自分のブログを遡ってみました。そうしたところ、私自身がすっかり忘れ去っていましたが、2010年に円高進行について3回ほど発言していたのでした。
円高が止まらない 2010-08-01
『政策手段がないと言っても、各国が内心、輸出振興につながる自国通貨安を歓迎していることには変わりはない。
そうした各国の本音を読み取って、気の利いた投資家は通貨売りを仕掛ける。どこの国の通貨を? 米国のドルと欧州のユーロである。なぜなら、世界全体を見渡して、日本の菅政権が異常なパラリシス(麻痺)状態に陥っているからだ。
実際、6月下旬のG20首脳会議以来、円高が進んでいるのに、菅政権からは円高対応の政策どころか、円高懸念のメッセージ一つさえ発信されていない。
こうした状態を眺めれば、投資家は安心してドル売り円買い、ユーロ売り円買いを仕掛けることができるのである。』(長谷川幸洋氏)

円高はどこまで行くのか 2010-08-12
『9日と10日に日銀の金融政策決定会合が開かれる。
しかし、日銀は、9月の民主党代表選の様子見で、今の時点で行うべき金融政策をやらないだろう。この時点で何か行っても、民主党代表が誰かによってさらに追加策を求められるかもしれないので、その時に備えて「弾」をとっておくというスタンスだ。マーケット関係者やマスコミもそうみている。』(高橋洋一氏)

高橋洋一氏の予言 2010-09-04
『筆者は、ここ2回のこのコラムで円高の警報を発してきた。
8月9日のコラムでは、同月10日に行われる日米金融政策で、日銀は無策だがFRB(米国連邦準備理事会)は事実上の金融緩和となって円高が加速されることを、8月23日のコラムでは、政治状況から31日ごろに政府・日銀の経済対策が出されることを指摘した。
いずれもそのとおりになった。日本の株価は円高パンチで米国より幾分下げ幅が大きいが、何もインサイダー情報があったわけでない。
9月1日告示、14日投票という民主党代表選という政治スケジュールから、政府・日銀の官僚機構が動かないことがわかれば合理的に推測できることだ。誰が政権のトップになるのかわからない段階で、官僚は保身に走り、一方に肩入れしないのである。』
『具体的には、まだ法律上生きている経済財政諮問会議を復活させればいい。そうすれば、自動的に総理、経済閣僚と日銀総裁が議論できる。民主党のメンツでできないなら別の会議をつくってもいい。
そこで、政府と日銀の共有目標として、2年以内に物価を2%程度にするということであれば、逆算して(FORWARD LOOKING)、現時点で、例えば数十兆円規模の量的緩和など、結果としてかなりの金融緩和措置が日銀に求められることになるだろう。』(いずれも高橋洋一氏)

2010年円高は、ちょうど民主党政権において鳩山内閣から管内閣に移行した直後の、民主党代表選挙の真っ最中に起こったのですね。そして高橋洋一氏も長谷川幸洋氏も、党代表選挙によって生じる政治的空白に起因し、霞が関も日銀も円高の進行に何ら対処を行わず、それによって米欧の自国通貨安誘導と円の一人高が一気に進んでしまった、という見立てでした。
この円高進行をくい止めるために高橋洋一氏が示した処方箋は、まさに現在のアベノミクスにおける金融対策とうり二つです。インフレターゲット2%、日銀による強力な金融緩和、経済財政諮問会議の復活、などなど。

残念ながら、行うべき政策の実行は、2010年円高から2年遅れとなってしまいました。2年前に行っていれば、諸外国から非難されることなく、粛々と円高進行を抑えることができたでしょう。2年遅れてしまった結果として、同じ政策を実行するだけなのに、諸外国からは「通貨戦争」と非難されることとなりました。併せて、この2年間の遅れにより、日本経済はさらなる深刻な打撃を被る結果ともなっています。

さて、冒頭の図面にある「2011年円高」、「白川相場」については、日を改めてコメントしたいと思います。
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